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第90回都市対抗野球・出場チームのちょっといい話/明治安田生命

楊順行スポーツライター
都市対抗野球は90回の記念大会を迎える(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

「悔しさから、いい階段を上ってきました」

 第90回都市対抗野球・東京第4代表決定戦。エース・大久保匠の8安打完封でセガサミーに6対0と快勝し、4年ぶり6回目の本大会出場を決めた明治安田生命の成島広男監督は、ホッとしたようにはき出した。

 東京には現在、企業チームが6ある。東京ドームへの切符は4枚。昨年は、2017年の都市対抗本大会を制したNTT東日本が別枠の推薦で出場するため、残り5チーム中1チームだけが本大会出場を逃すことになっていた。それはそれでプレッシャーが大きいですけどね……就任1年目の昨年、成島監督は胸の内をそう明かしたものだ。昨年の東京2次予選。チームは第1代表決定トーナメント(T)は敗れ、第2代表Tでも準決勝でセガサミーに敗退。第3、第4代表決定戦も東京ガス、JR東日本にいずれも接戦で敗れた。

「6分の5のイス取りゲームに敗れて、悔しさもひとしおでした」

 とは、春季キャンプにお邪魔したときの成島監督である。ことに悔やんだのが、第2代表T準決勝での継投ミスだ。この日も大黒柱の大久保がセガサミーに好投し、7回途中までセガサミーに3対1とリードしていた。だが、大久保の球がやや浮いてきたのと、序盤に右腕に打球を受けていたことを考慮し、大事を取って7回2死走者なしで継投。すると、二番手の三宮舜が直後に被弾して3対2となり、8回には2点タイムリーを浴びて3対4と逆転され、そのまま敗れてしまうのだ。

負のスパイラルから決定戦を連敗

「無理させたくない、と継投したんですが、無理してもよかったかな。2点リードで、少なくとも同点にされるまでは大久保でいくべきでした。あそこが分岐点でしたね。そこから負のスパイラルに入った」

 という成島監督の言葉を少し解説すると、もしその準決勝を勝ち上がれば、第2代表決定戦は中4日の予定。敗れて第3代表決定戦に回っても、中5日という日程だ。いずれも、エース大久保を登板させる余裕が十分にある。そして実際、東京ガスとの第3代表決定戦は、大久保が先発。ただ、これが負のスパイラルだ。大久保は4失点で完投するも、チームは3対4で東京ガスに敗戦。その試合終了は午後9時近くだったから、合宿に戻ると日付が変わろうとしていた。しかも気分転換のヒマすらなく、12時からは、最後のイスを争う第4代表決定戦・JR東日本戦が控えている。

 中15時間で敗戦のショックを引きずり、しかも連戦の明治安田生命に対し、JR東は中6日と満を持して備えていた。結果は、なんとか善戦はしたものの0対2。明治安田は、3年続けて東京ドームの出場を逃すことになる。ここを勝てば東京ドーム……という代表決定戦での連敗。きっかけは、"あの継投"にあったと成島監督は自省する。

「それまでも助監督としてベンチにおり、試合の流れや機微はわかっているつもりでしたが、実際の采配はやはり違いました。だからあの継投については、選手たちに謝りました」

 だが、東京の企業チームでたったひとつだけ東京ドームに行けない夏は、豊かな実りをもたらした。悔しさをエネルギーとした暑い熱い練習で、野球の質の底上げとともにチームとしての一体感も高まったのだ。それが日本選手権の出場権獲得に結びつき、15年の都市対抗を制覇した日本生命との"生保対決"では、敗れはしたものの好試合を演じている。

 そして、今年だ。東京の第2、第3代表決定戦は敗れ、昨年から決定戦4連敗となったものの、最後の最後、しかも3日連戦のセガサミー戦で切符をつかんだのだ。

ノーノーの敗戦から中1日で

 大久保は、NTT東日本との第2代表決定戦で1失点完投ながら、チームは相手投手・大竹飛鳥にノーヒット・ノーランを食らって惜敗。だが最後のイスを争うこの日は、成島監督も「最後まで大久保で行こうと決めていた」と肚をくくり、中1日での気迫の完封勝利だった。

 1958年創部の明治安田生命。82年の都市対抗初出場時にはベスト4まで進んでいるが、それ以来白星がない。そもそも強豪ぞろいの東京にあって、本大会出場が大きなハードルなのだ。ひとつには、練習の環境があった。従来平日の練習は、勤務地の違う各選手が午前中勤務を終え、集まった午後から。シーズン中は終日練習をする他チームに比べて、これは大きなハンデとなりかねない。

 前任の林裕幸監督就任にともない、現場に復帰した成島助監督は、豊富な社業の経験から会社と野球部のパイプ役となる。まず勤務シフトから見直した。労働時間を確保するため終日勤務の日を設けることで、おのおの異なる勤務地との往復時間の非効率を解消。その分を、1日練習に充当できるというプランだった。また「監督というより、GM的な立場」の成島監督は、選手の補強にも腕を振るい、東京六大学や東都の有望選手も入社するようになった。

 そういう強化策が実っての、4年ぶりの都市対抗である。昨年は鷺宮製作所に補強された大久保が自身初の都市対抗白星、また吉田大成(現ヤクルト)はチームから初のプロ入りを果たした。上り調子。次はぜひとも、初出場の82年以来、37年ぶりの都市対抗白星といきたいところだ。ちなみに成島監督は、そのときのメンバーである。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は64回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて55季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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