WBAスーパーライト級、新チャンピオン!
オープニングから、メキシカン・スター、イサック・“ピットブル”・クルスが積極的に仕掛けた。左右のフックをフルスイングしてプレッシャーをかける。初防衛戦のリングに上がったWBAスーパーライト級王者、ローランド・ロメロは後手に回るしかなかった。
2022年5月28日にジャーボンテイ・デービスに6回KO負けしたロメロは、この一戦で壊れた感がある。バランスが悪く、反射神経にも問題が見られる。僅か1試合、いや、たった1発のパンチで、それまで無敗の快進撃を続けていた期待の星が、壊れてしまうのがボクシングだ。
試合前、ロメロの執拗な挑発を受け流したクルスは、早い段階でペースを握った。メキシカンファイターは、左フックをクリーンヒットし、ロメロの膝が揺れる。ロメロは何とか初回を凌いだが、ダメージは深刻だった。
デービスへの敗戦後、階級を上げて世界王者となったロメロだが、試合の度に打たれ脆さを表している。
何とか再起ロードを歩もうと、キャリア初期の頃に教えを受けていたトレーナー、イスマエル・サラスと再契約してトレーニングを積んできたロメロだが、重心が高く、ドタドタとしたステップで、簡単にロープに下がる。効果的なジャブも放てなかった。
ラウンドを重ねるに連れ、ロメロは逃げの足しか見せられないようになる。クルスに捕まっても、クリンチしかできない。相手のパンチを躱す、殺す、といったディフェンスはまったく無かった。
為す術の無いロメロは、ローブローやホールディングで対抗するしかなく、5回に減点を告げられる。
7ラウンドにペースアップしたクルスは、休まずに手を出し続け、同ラウンド終盤に、また左フックをクリーンヒットして、チャンピオンをダウン寸前に追い込む。
辛うじてゴングまで堪えたロメロだが、第8ラウンドに右の打ち下ろし、左ボディからの連打を浴びたところで、レフェリーが試合を止めた。公式のノックアウトタイムは同ラウンド59秒。
試合後、クルスは語った。
「家族とメキシコの為に、このタイトルを獲得できてとても嬉く思う。勝利への準備は万端だった。戦うためにここに来たわけではなく、彼を終わらせるためにリングに上がった。Tモバイルアリーナにいる全ての人達に、この勝利を届けたかった。140パウンドのメキシコ人チャンピオンは、今後も長く防衛を続けるだろう。
自分は危険なファイターになるためだけにここにいた訳じゃない。ついに世界の頂点に就いた。だから誰とでも、戦うよ」
新チャンピオンの言葉通り、残念ながらロメロは”終わった”ように思えてならない。"壊れた"彼が現役に拘るなら、若手の踏み台しか待っていない。クルスの戴冠は圧巻だったが、同時にロメロを破壊したジャーボンテイ・デービスの技術の高さにも、改めて唸らされた。