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『週刊新潮』の特集記事が問題にした「三浦春馬“陰謀論”」が予想外の反響を呼んでいる

篠田博之月刊『創』編集長
『週刊新潮』7月18日号(筆者撮影)

 7月11日発売の『週刊新潮』7月18日号が掲載した「死から4年 “陰謀論のシンボル”と化した『三浦春馬』の謎を解く」という記事が予想外の反響を呼んでいる。

 余談だが、「7月18日号」というのが偶然かもしれないが意味深だ。それは三浦春馬さんが4年前に他界した日だからだ。「春友さん」と呼ばれる春馬ファンにとっては、とても大きな「悲しい日」なのだ。

 この7・18をめぐっては、当日、ヤフーニュースに下記記事を書き、『週刊新潮』にも簡単に言及した。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/129cf5d288afba540f3602df9bdc0bfb7a163ce9

4年目の7月18日…この間、いろいろあったが三浦春馬さんのファンたちの想いは…

『週刊新潮』の記事は新事実が含まれていたわけではないのだが、他の週刊誌でも言及されるなどして波紋を広げた。

『週刊新潮』記者が自宅を直撃

 私の編集する月刊『創』(つくる)も2020年11月号からなんと4年間にわたって毎号、春馬さん関連の特集を続けており、表紙にも春馬さんの切り絵を掲載している。2020年に急激に増えた女性の自殺など、コロナ禍とともに日本社会を襲った社会現象のひとつとして、一時はかなり拡大した中高年女性たちの春馬さんへの「喪失感」にアプロ―チしてきたのだった。

 それゆえ私も『週刊新潮』の取材を受けた。しかも、直撃取材だ。最初は同誌記者2人が夜7時頃、突然、自宅のピンポンを鳴らした。私は毎晩、残業が当たり前だからその時間には帰宅しておらず(妻もその夜は娘の家に泊まっていた)、深夜に帰宅してインタホンの録画を見たら映像が残っていたので驚いた。最初から電話をくれれば無駄足にならなかったのだが、留守を知って困った記者は私の携帯を鳴らし、結局、『創』編集部へ来てもらうことになったのだった。

 そういう直撃を行ったのは、同誌が記事で追及しようとした「三浦春馬“陰謀論”」と『創』につながりがあるのではと疑ったためかもしれない。春馬さんの話をテーマに連載していた空羽ファティマさんの6月号の原稿で、春馬さんが「天国からインスタライブしたら」というのを載せていたのを見て、オカルト的という印象を持ったようだ。そんなことはないと私が説明するやりとりが記事で紹介されていた。

 記者とは結構長い時間話し、なぜ『創』が4年間にわたって春馬さんのテーマを取り上げてきたのか、そもそも春馬さんをいまだに強く思う春友さんたちの活動がこんなにも続いているのにはどんな社会背景があるのかといったことを説明した。

 コロナ禍の到来で生活が一変し、ちょうど子どもが自立して一区切りついた時期に、60~70代の女性たちが自分の人生を改めて思い返す。春馬さんの件はそうした人たちを揺さぶる結果を招き、「喪失感」にとらわれた女性たちが一気に広がった。一連の経緯には明らかな社会的背景があったと思う。

そこで取り上げられた「陰謀論」とは…

『週刊新潮』の狙いは、その春友さんたちの一部をなす「陰謀論」を唱える人たちにあった。

 同誌が取り上げた「陰謀論」とは、主に「他殺説」を唱えている人たちのことで、一時期、選挙妨害事件で逮捕された黒川敦彦氏などもそのグループに関わっていたことも指摘されていた。

 他殺説を唱えるグループは、春友さんたちの中では少数派だが、一時は活発な活動を展開し、全国各地でデモを行っていた。事務所の説明では納得できないとして真相究明を求めて、アミューズや一時はテレビ局前でも街頭行動を展開した。アミューズの株主総会にビラをまくといったことは今年も行われたようだ。

 なかなか難しいのは、そういうグループには、他殺説そのものには同意しなくても真相解明をという要求に賛同する人もいる。そもそも春馬さんの死を受け入れられないという思いは多くの春友さんにあるから、陰謀論とされるグループとそれ以外の多くの春友さんとの境界は曖昧だ。ただ他殺説を唱える人たちのいささかアグレッシブやり方には、眉をひそめる春友さんも多かったのは間違いない。「春馬さんはそんなことを望んでいない」という声があがって、SNSで議論になることもあった。

 2020年秋に春馬さんの事件が大きな関心を呼んでいた時期には、おどろおどろしい「陰謀論」を唱える動画がYouTubeにあふれ、困ったアミューズが法的措置も想定していると強い警告を発したことがあった。

 『週刊新潮』の記事では、春馬さんのサーフィンの師匠である卯都木睦氏がこう解説している。

「他殺説を主張してくる人の中では、春馬が関わっていた、ラオスの募金活動で、帳簿を見て不正を知ってしまったので殺された、と訴えてくるケースが多かったですね」

 この国際謀略説とでもいうべきものは、確かに春友さんたちの間でも都市伝説として密かに伝えられていた。『週刊新潮』の記事はさらに、世界的な陰謀論支持者Qアノンと三浦春馬陰謀論の関係にまで踏み込み、春馬さんをめぐってなぜこんなにも陰謀論が伝えられているのか、あれこれ語っている。

『週刊文春』で林真理子さんが言及

 三浦春馬陰謀論なるものが興味をかきたてたのか、『週刊新潮』のこの記事は、あちこちに波紋を広げた。『週刊文春』8月1日号のコラムで林真理子さんは『週刊新潮』のこの記事に言及。春馬さん“他殺説”を唱える人から何通かの手紙をもらっていることを明かした。  

 なぜかというと、亡くなる1年前に春馬さんと対談していたからだという。

 林さんは対談した春馬さんの印象を「ちょっとそっけないかな」と感じたと書いている。

 今回、林さんが言及したのは『週刊朝日』2019年9月27日号の対談と思われるが、春馬さんの死後、他殺説を唱える人からこんな手紙が届いたらしい。

「彼のあの態度は異常でした。私は林さんに調査してもらいたい。なんとかお願いします」

 亡くなる1年前だから、「そっけない」という印象は、春馬さんのうつ状態が現れていたのかもしれない。

「NEWSポストセブン」の動画(筆者撮影)
「NEWSポストセブン」の動画(筆者撮影)

靖国神社「みたままつり」めぐる指摘

 同じ『週刊文春』8月1日号では、もうひとりコラムニストの能町みね子さんも自身のコラムで「ファンの熱い思い」と題して、春馬さんをめぐる問題に言及している。

 こちらは、靖国神社の「みたままつり」に春馬提灯が飾られる話題を「NEWSポストセブン」が2年続けてとりあげ、昨年は「死因の真相究明を求めてデモをする方々もいます」という発言も載せていたことを問題にした。そもそも「みたままつり」での春馬提灯を推進する「『日本製』普及会」がれっきとした政治的団体であることにも言及し、「NEWSポストセブン」が結果的に陰謀論を肯定しているように見えると批判したものだ。

 陰謀論に加担しているかどうかはともかく、NEWSポストセブンがこのところ、春馬さん関連の話題を何度も取り上げているのは確かだ。しかも動画を連動させているから、「みたままつり」の提灯も絵になりそうだと大きく取り上げたのだろう。リンク先は下記だ。

https://www.youtube.com/watch?v=9lNbB-3_CCg

三浦春馬 さんの名を 靖国 に  提灯 値上がりでも100個も集まった「ファンの熱い思い」 NEWSポストセブン

ちょっと心配なこととは…

 ちょっと心配なのは、こんなふうに陰謀論が話題になると、三浦ファン全体が陰謀論に関わる人のようなイメージで見られることを危惧する人も出てくることだ。もともと春友さんの中には、職場や家庭でも自分の思いが共有されていないと当初、孤立感を深めていた人が少なくない。陰謀論なるものが盛んに取り上げられることで、春馬さんへの思いなどうっかり話せないという風潮が広がらないように願いたい。

 それにしてもこのヤフーニュースで以前報告した、都知事選掲示板のポスター騒動といい、最近、多くの春友さんたちの意図するのと異なるところで春馬さんが話題になるケースが続いた。

 7・18をめぐっては、『創』のこの1年間の春馬さん関連記事をまとた『三浦春馬 死を超えて生きる人Part5』を出版するなど、私もいろいろ関わった。このシリーズもPart5まで刊行されたわけだが、春友さんたち自身もこの4年間で、大きな変化を遂げた。孤立感から脱して連帯の「輪」が広がっている。

 春馬さんの他界から4年を経て、春友さんたちやその周辺にもいろいろな変化が起こりつつあるのは確かなようだ。

https://www.tsukuru.co.jp/

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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