セブン-イレブンにはなぜフラッペが「ない」のか 業界王者の哲学をさぐる
降り続いた雨も止み、ようやく「夏」を感じる季節がやってきそうだ。暑さが増すに連れ、仕事や散策のお供に、コンビニのアイスコーヒーを飲む機会も増えてきたのではないだろうか。
コンビニコーヒーがいかに我々の生活に定着しているかは、東洋経済オンライン19年3月27日付記事「平成のカフェ『コンビニが2割』に台頭した事情」に詳しい。この記事で、経済ジャーナリストの高井尚之氏は「喫茶店の店舗数は減っているが、喫茶市場は拡大」「うちの2割をコンビニコーヒーが占め、全体で推計2000億円規模」という2018年度のデータを紹介している。安くて手軽なコンビニコーヒーは、およそ10年で急拡大したことになる。
コンビニコーヒーの成功には、業界の雄であるセブンイレブンの功績が大だろう。コンビニコーヒーの代名詞のようなセブンカフェだが、スタートは遅かった。09年にミニストップが「M’s STYLE COFFEE」を開始し、11年にローソンが「MACHI cafe」、12年にはファミリーマートが「あじわいFamima Cafe」(現在のファミマカフェ)を始め、ようやく13年に「SEVEN CAFE」が登場した。
◆ファミマ、ローソンのフラッペ
そんなコンビニコーヒーの次なるトレンドが「フラッペ」だ。
ファミリーマートでは、14年に登場したコーヒー味の「カフェフラッペ」を皮切りにフラッペのラインナップを増やし、最も多かった18年には「ラムレーズンジェラートフラッペ」や「ストロベリーショートケーキフラッペ」など、変わりダネをふくむ17種類を販売。これはさすがに多すぎたのか、現在ホームページに掲載されているフラッペ商品は9種類。ファンが多い「たべる牧場フラッペ」(税込320円)ほか、7月25日に売り出した新作は「スイカバーフラッペ」(298円)で、8月には「伊藤園監修 ほうじ茶黒糖わらびもちフラッペ」(320円)という“意欲作”がラインナップされている。
ローソンも「みぞれカフェ」(2011年)、「フローズンラテ」(12年)と名称を変えながら、現在は「フローズンパーティー」のブランドでフラッペを展開している。ラインナップには、ストロベリー、マンゴー、チョコレートなど(各340円)がある。ファミマのフラッペは、冷凍状態の商品を購入し、揉み、コーヒーマシンでミルクを注いで作る。一方のローソンは、マシンではなく、電子レンジでチンという違いがある。店頭では、従業員がフラッペ作りをしなくてはならないことになる(そもそもローソンは、店通常のコーヒーもカウンター内のマシンから店員が注ぎ手渡し方式をとっている店もある)。オペレーションの観点からはファミマ方式に部があると思うのだが、ローソンのフラッペは、凍ったまま持ち帰り、家で食べたい時に作れるというメリットはあるようだ。
◆セブンが探る「方向性」
では業界の雄・セブンはどうかといえば、7月31日現在、フラッペの類は販売していない。
一応、今年6月からは、フラッペに近い商品を出してはいる。「セブンカフェ カフェラテスイーツ」がそれだ。フレーバーはショコラとブリュレの2種類(各280円)あり、凍ったチョコレートの粒と氷にマシンからカフェラテを注いで作る。上品な甘さで美味しいが、商品名から分かるようにあくまでセブンカフェの派生商品という位置付けであり、上記2社のフラッペと比べれば、「お菓子感」も乏しい。
セブンもフラッペやフローズン販売を「探って」はいるようだ。個人ブログやSNSをたどると、16〜19年(?)にかけて、千葉県や九州地方などの地域限定で「飲むスイーツ氷」という商品が販売されていたことがわかる。これは専用マシンを用いミルクを注いで作るファミマタイプの商品で、ティラミスやストロベリーなどの味がラインナップされていたようだ。
また、少し方向は異なるが、2016年頃から全国の店舗100店限定で「SLURPEE(スラーピー)」というフローズンドリンクを販売している。これはスラッシュと呼ばれるタイプの飲み物で、漫画喫茶などにたまにある、先がスプーン状のストローですくい飲むアレ、といえばお分りいただけるだろうか。一部での販売に留まっているのは、専用のマシンが必要になるからだろう。
こうした試みを行ってはいるが、先述の通り、全国販売されているのはセブンカフェの延長である「カフェラテスイーツ」の2商品のみ。ファミマやローソンの取り組みを鑑みれば、セブンがフラッペにそこまで注力していないことがわかるはずだ。なぜだろうか。
◆売れるモノしかやらない
私はここに、セブンイレブンの「売れるモノしかやらない」王道の哲学を見ている。
業界の王者として君臨するセブンだが、実はコンビニで当たり前となっている商品やサービスを、必ずしも他に先駆けて行っているわけではない。コーヒーの例は紹介したとおりだが、他に分かりやすいところでは、Pay払い(キャッシュレス)対応がある。昨年7月に「セブン ・ペイ」の不正利用事件が話題になって以降は利用できるようになったが、セブンはライバル2社に比べて、長らくキャッシュレス決済の選択肢の幅が狭かった。
ファミリーマートの情報端末「Famiポート」、ローソンの「Loppi」にあたる存在も、セブンにはない。チケット発券などはマルチコピー機にその機能を持たせている。商品でも、たとえばホットスナックの取り組みも歴史が浅い。30年以上「からあげクン」を売るローソン、01年から「ファミチキ」前身のフライドチキンを売るファミマに比べ、セブンの本格参入は07年になってからのことだ。同年11月16日付産経新聞記事にも〈揚げ物などの店内調理で後発のセブン-イレブン(中略)フライドチキンや和風鶏唐揚げなど5種類の販売を始めた〉とある。
おそらくだが、コーヒーやpay対応、ホットスナックなどは、あまり商機を見出せず、セブンは参入を渋っていたのではないか。だが、ライバルが始めていたため「相対的に」自社が不便な存在になり、やむなくスタートした……という側面が強いと思われる。それでここまで発展させるのは十分凄いのだが。
◆成功サラダチキン、失敗ドーナッツ
断っておくと、セブンが「ファーストペンギン」を避けているわけでは、決してない。例えば大ブームを起こし、コンビニ各社がこぞって販売した「サラダチキン」を13年に始めに販売したのはセブンだった。「行ける」となれば、突出した徹底力で成功させるのがセブンなのだ。また「売れるモノしかやらない」哲学が必ず成功している、と言いたいわけでもない。コーヒーの成功に気をよくしたのか、そのお供として始めたカウンタードーナッツは大失敗だった。あくまでセブンは「売れるモノ」しかやらない独自の判断基準を持っており、ファミマやローソンに比べ「他社」を意識する部分が小さいと言いたいのだ。
では、フラッペはどうか。私は積極的に展開しないセブンに理があると思っている。
同じ「冷たいスイーツ」でも、気温が22度を超えるとアイスクリームが売れるようになるが、30度を超えると、今度はフラッペのような氷菓子が売れるようになるという。裏を返せば、気温が30度を超えないとフラッペの売れ行きは鈍いのだ。いくら季節性商品といっても、条件が限定的すぎる。
ファミマやローソンにしてみれば、セブンとの差別化を目的に「フラッペ」をアピールする意味はあるだろうが、コーヒーで十分利益をとれているセブンが、わざわざフラッペに参入する意味はあまりないように思う。ローソンのようなオペレーションの妨げになりかねない提供方法はもちろんやらないし、ファミマ形式のように「ミルク」を出す機能を持たせたマシンを新たに導入するメリットも薄い。だから現状のコーヒーマシンを活用して作る「カフェラテスイーツ」が、セブンの最適解なのだろう。