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なぜラツィオ同僚は鎌田大地を擁護した? “魔術師”の経験は「水を得た魚」への希望となるか

中村大晃カルチョ・ライター
8月27日、セリエA第2節ジェノア戦での鎌田大地(写真:ロイター/アフロ)

鎌田大地のイタリアでの冒険は、厳しい船出となった。

8月27日、ラツィオはセリエA第2節でジェノアに0-1で敗れた。逆転負けした開幕戦に続き、今季ホーム初戦で昇格組を相手に黒星とあり、マウリツィオ・サッリ監督のチームは酷評されている。

レッチェとの初戦で大きなインパクトこそ残せなかったものの、ところどころでクオリティーをうかがわせた鎌田は、再びスタメンに名を連ねた。しかし、開幕戦よりも評価は厳しい。

■鎌田の2戦目の評価は?

レッチェ戦も及第点の6点を下回る採点は多かったが、「すべてはこれから」と感じさせる評価も少なくなかった。だが、ジェノア戦では“ツッコミどころ”があった。

ひとつは、中盤でのパスが通らず、ボールを失ったことが、ジェノアの決勝点につながったこと。もうひとつは、前半終了間際の得点機会を決められなかったことだ。結果を重視するイタリアだけに、採点と評価に響いたことは想像にかたくない。

衛星放送『Sky Sport』や『La Gazzetta dello Sport』紙、『TUTTOmercatoWEB』、ラツィオ専門サイト『Lalaziosiamonoi』などは、及第点を下回る5点採点だった。『calciomercato.com』は4.5点、『cittaceleste』は3点。チームワーストやワーストタイとしたメディアもあった。

多かったのはやはり、サッリの戦術にまだ適応できていないという評価だ。

「動き方を理解しなければ」

「何をすべきか分かっていない」

「サッリのプレーをつかまないと」

「まだ水から飛び出した魚のよう」

このように、チームに溶け込めていないとの指摘が随所で見られた。サッリは試合後、「自分はイタリアで最も適応に時間がかかる監督のひとり」と話している。自他ともに認める高難度の戦術だけに、馴染むのに時間が必要なのは、当初から満場一致で言われていた。

その時間が1カ月では不十分、2カ月は必要と話したのが、ルイス・アルベルトだ。

■ルイス・アルベルトのリアルな経験

ラツィオで8年目を迎えたルイス・アルベルトは、“エル・マーゴ”(魔術師)の愛称で知られる技巧派MF。エースのチーロ・インモービレとともに、近年のチームを支えてきた大黒柱のひとりだ。

だが、加入当初は試合に出られず、ラツィオでの1年目は公式戦出場10試合。以前のインタビューで、当時を「キャリアで最も難しい時期」と振り返った彼は、異なる環境で戦う難しさをよく知る。

その後は絶対的なレギュラーとなったが、2021年夏のサッリ就任以降は、時折危うい立場に置かれた。サッリ戦術においてセルゲイ・ミリンコビッチ=サビッチとの共存は不可能との声も上がるようになり、しばしば移籍の可能性も噂された。

去就が騒がれたのは、契約を巡るクラブとの衝突もあったからだ。ただ、ともに気難しい性格と言われるだけに、選手と監督のフィーリング問題も取りざたされた。ルイス・アルベルトは昨季、サッリの映像を使った毎日の分析が「どれも長くて、たまにまぶたが下がってくる」と話している。

それでも、互いにプロフェッショナルな姿勢で理解を深め、ルイス・アルベルトはサッリのチームで再び絶対の地位を手にした。昨季の年明け以降、国内ではケガによる1試合の欠場を除き、先発出場を続けている。“魔術師”は、サッリの下でやっていく術を学んできたのだ。

■期待と重圧の狭間

そのルイス・アルベルトが具体的に2カ月は必要と話したことは、適応の難しさをリアルに感じさせる。当然、周囲の助けは欠かせない。ルイス・アルベルトも、従来の選手が新戦力をけん引しなければいけないと話している。

鎌田にとって味方との連係は重要だ。クオリティーの高さは誰もが認めている。チームメートとの関係性が築ければ、「水を得た魚」となれるかもしれない。ただ、その構築には時間がかかる。おまけに、まだコンディションは不十分だ。

しかし、連敗発進でチームには重圧がかかり始めた。早々に結果を残さなければならない。さらに、ラツィオは次節から王者ナポリ、さらにユヴェントスと、アウェーでの厳しい連戦に臨む。

これらの矛盾する状況を、砂時計の砂が勢いよく落ちる中で、鎌田は乗り越えなければいけない。

「非常に強い選手と確信している」。サッリはこう話し、鎌田の状態が上がるのを待つとした。この信頼に応えることはできるか。確かなのは、1段階ギアを上げなければいけないということだ。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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