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ビデオからプリントもできるスマホプリンタで写真と向き合い直す

松村太郎ジャーナリスト/iU 専任教員
間もなく21周年を迎えるインスタント写真「チェキ」からのスマホ時代の提案とは

確かにスマートフォンで撮った写真はオンラインサービスでシェアする事が前提になりましたが、それでも写真を手渡せたり、並べたりできる体験は古びない楽しさがあります。「スマホと写真プリントをきちんと融合させよう」という意欲策が、新しいスマホ用のチェキです。

チェキはカメラとプリンタ一体型の製品で2018年11月で20周年を迎えています。すでに普通のフィルムカメラはプロや愛好家など限られたマーケットへ縮小しましたが、インスタントカメラとして生き残っているチェキがスマホ時代にどんな提案をしているのでしょうか。

2019年10月11日に、富士フイルムはスマートフォン向けプリンタ「instax mini Link」を発売しました。209gの手の平サイズで、800×600ピクセル、62mm × 46mmサイズの写真をどこでもプリントすることができます。1パック10枚のフィルム10パック分を1度の充電でプリントできるバッテリーも内蔵しており、十分なサイズです。

3色展開でスマホ連携するの手の平フォトプリンタ、instax mini Link(公式サイトより)
3色展開でスマホ連携するの手の平フォトプリンタ、instax mini Link(公式サイトより)

スマートフォン用プリンター “チェキ” instax mini Link

専用アプリから写真を選んでプリントする、というのが誰もが想像する基本的な操作方法ですが、この新製品ではプリンタ自体をリモコンのように操って、傾きでズームしたり、プリントボタンをシャッター代わりに活用する事もできます。スマホを固定してグループ写真を撮ったら、12秒で手元にすぐに写真が出てくるなんて、魔法のような体験と言えます。

本体のプリントが出てくる口を下にしてボタンを押すと、直前にプリントした写真を何度も再プリントできます。いちいちアプリから操作しなくてもよく使う機能がジェスチャーで利用できる点は、上手い設計だと思いました。スマホアプリにコントロールを集中させると使いにくくなるジレンマを上手く回避できているのではないでしょうか。

もう一つモダンだと感じたのは、ビデオからフレームを選んでプリントできる点。

スマホカメラで撮影するのは写真だけでなく、ビデオ、スローモーション、タイムラプスなど様々です。そうしたスマホにあるコンテンツからプリントとして切り出せるようにすることで、Instagram世代だけでなく、TikTok世代も取り込むことができるのではないか、という挑戦に挑むことができます。

複数の人がアプリを開いて写真を組み合わせてプリント、というシーンも提案されていますが、ちょっとハイコンテキスト過ぎて使いこなすのが難しそうな印象。全ての機能は、ビデオで紹介されています。

スマホ写真をプリント向けに選別というアイディアが重要な理由

このintax mini Linkは写真をプリントして誰かと共有する、スマホからすれば新しいシェアの体験をもたらしてくれます。しかし写真が一般化して以降スマホ以前までの写真の当たり前の体験に立ち戻った、「写真のシェアの原点」を身近で手軽に実現してくれている、とも思います。

もう一つ、この製品を使って見たいと強く感じた理由は、写真の選別というふり返り作業がより楽しくなる可能性を感じた点。

スマートフォンのカメラはメモリという制限こそありますが、基本的には無尽蔵にシャッターが切れるようになりました。そこに1パック10枚のプリンタが加わってくることで、手持ちのフィルム枚数という制限が加わります。例えばちょっと行楽に出かけて200枚の写真を撮っても、2パックしか持っていなければプリントできるのは20枚だけ。

これは「自分で残したい写真選ぶ体験に触れる最後のチャンス」になります。

Google PhotosもiPhoneの写真アプリも、その日のイベントのベストショットをAIで選り抜いてくれるようになりました。いわば、機械が無意識なシャッターの中から「記憶するべきいい写真」を選んでいるような状態です。長い目で見れば、AIがアシストするクリエイティブが当たり前になるでしょうが、そこで何が起きているのかを知り、使いこなすセンスを磨くための、ラストチャンスだ、と思いました。

ジャーナリスト/iU 専任教員

1980年東京生まれ。モバイル・ソーシャルを中心とした新しいメディアとライフスタイル・ワークスタイルの関係をテーマに取材・執筆を行う他、企業のアドバイザリーや企画を手がける。2020年よりiU 情報経営イノベーション専門職大学で、デザイン思考、ビジネスフレームワーク、ケーススタディ、クリエイティブの教鞭を執る。

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