沖縄県知事選、候補者の公約は「ファクトチェック」の対象として適切か
9月30日投開票が予定されている沖縄県知事選挙では、ソーシャルメディアなどで広がる不確実な情報に対し、新聞やネットメディアにより確認作業が行われています。一部メディアは、候補者の公約にも「ファクトチェック」対象を拡大していますが、選挙戦への影響や報道の公平性から問題が大きいと考えます。
候補者の公約を「ファクトチェック」
公約に関する「ファクトチェック」の事例として以下の2つの記事があります。これらは、ソーシャルメディアで拡散する不確実確認を扱っているように見えますが、実態は特定の候補者に関する公約を扱っています。
実現可能性が低い公約は「フェイク」か
琉球新報は候補者の公約の実現可能性が低いこと、バズフィードは有権者との間の認識のズレを、指摘しています。
まず、実現可能性ですが、民間企業の誘致や外交問題など国や県だけでは実現可能性が測れない公約もあります。また、過去には「ミニスカートとそれに類するものの廃止」(又吉イエス候補)、「政府転覆」(外山恒一候補)、などの公約もありました。これらの公約はすべて「フェイク」となってしまうのでしょうか。
次に、有権者との認識のズレですが、対象となった候補者の該当する公約だけがズレているとは言い切れないはずです。公平性を保つためには、すべての候補者の、すべての公約について「ファクトチェック」の必要があります。
このように、これらの記事は、特定の候補の、特定の公約だけを取り上げた恣意性が高いものと言えます。
選挙期間中の報道は異例
そもそも、公約は候補者が有権者に行う未来の約束であり、どのような約束を打ち出そうと、それを判断するのは有権者自身であるはずです。報道機関が公約を評価すること、それも選挙期間中に実施することは、報道が選挙に影響を与える可能性があります。
そのため、選挙報道では、公約の比較(各候補者や各党の公約を一覧にして比較する記事は見たことがあるでしょう)や背景解説などが中心となります。選挙が終わり、半年や1年の区切りに公約がどこまで実現したかを検証することもあります。が、このような記事公開は、これまでの選挙報道からすれば「異例」とも言えるでしょう。
さらに、記事は「ファクトチェック」の一環として公開されており、公約が「フェイク」と受け取られれば影響が出ます。
残念なことですが、これらの記事を引用して「ウソツキ」や「酷いものです」といった言葉が付け加えられて拡散しています。右側はある政党によるもので(認証マークつき)、「ファクトチェック」が党派的に使われてしまっています。
特定の党派に偏らず公平に行う必要がある
フェイクニュースが社会問題化していくなかで、「ファクトチェック」も注目を集めていますが、その一方で「ファクトチェック」を報道する社の論調や支持する陣営に都合が良いように使っているのではないかという批判が起きており、国際ファクトチェックネットワーク(International Fact-Checking Network、IFCN)の加盟団体が守るべき5つのコードの1番目には「特定の党派に偏らず公平に行う」と書かれています。
有権者に適切な情報を届けるために「ファクトチェック」は重要な役割であることに異論はありませんが、選挙戦への影響や公平性についても考える必要があります。報道機関は「ファクトチェック合戦」に陥ることなく、慎重に行う必要があるでしょう。
関係性の開示:筆者は、琉球新報と沖縄タイムスの担当記者に、IFCNのコードや、政治家や専門家の意見を確認する「ファクトチェック」とソーシャルメディアへのユーザー投稿を確認する「ベーリフィケーション」の違いなどを説明しています。また、沖縄タイムスのフェイクニュース確認に協力しています。