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女子ゴルフツアー中止でプロキャディは完全失業の状態? 選手よりも辛い無給生活の窮状とは

金明昱スポーツライター
プロキャディの収入は試合ごとに選手から支払われるのが一般的だ(写真:ロイター/アフロ)

 国内女子ゴルフツアーでトッププロのキャディを長年務め、数回優勝経験もあるプロキャディのA氏は開口一番、こう嘆いた。

「はっきり言ってつらいです」

 3月5日から開催予定だった国内女子プロゴルフツアーは、開幕戦の「ダイキンオーキッドレディス」と「明治安田生命レディス ヨコハマタイヤゴルフトーナメント」(3月13日~)が新型コロナウイルス感染拡大を受け、開催を中止した。

 3戦目「Tポイント×ENEOS ゴルフトーナメント」(3月20日~)、4戦目「アクサレディスゴルフトーナメント」(3月27日~)の開催も不透明だ。

「試合がないので今は自宅で過ごしながら、状況が改善されるのを見越して、いつでも動けるように大会が開催されるのを待っている状況です。選手たちはそれぞれが練習やトレーニングをしている最中なので、そこにキャディが帯同することはありません。今はほとんど何もすることない状態です」

 1つの試合が開催されないことで、多方面に影響を及ぼしているのは言うまでもない。

 大会を主催するスポンサーや日本女子プロゴルフ協会は断腸の思いだろうし、もっとも試合に出場しなければ賞金を稼げない選手たちにとっては、今後の生活も心配になってくる。

「試合がなければ無職も同然」

 そんな状況の中、プロゴルファーのバッグをかつぐプロキャディも例外ではないのだ。プロキャディのA氏が語る。

「自分たちのようなプロキャディは、試合がないと収入はゼロです。無職も同然なので正直、きついです。新型コロナウイルスの感染が広がっている以上、中止は仕方ないと思いますが…。正直に言うと、無観客でも試合はしてもいいのではないかと思います。同じような考えをしている選手やキャディは多いと思います」

 そもそもプロキャディの収入はどうなっているのか。

「選手のバッグを担いだ週は10万円が収入になります。大会は3~4日間ですが、練習日やプロアマ戦があるので一週間で10万円の計算です。この金額はほとんどのキャディが飛行機や新幹線、宿泊代などの経費込みなんです」

 女子ゴルフツアーは南は沖縄、北は北海道まで、全国各地で開催される。経費だけもバカにならず、週10万円では赤字だ。

「そこで選手の成績によって、追加で報酬が支払われます。たとえば、優勝したら獲得賞金の10%、トップ10入りで7%、予選通過なら5%という形で選手から支給されます。予選通過できなければ赤字が続きます」

気軽にアルバイトもできない

 仮に今年の開幕戦だった「ダイキンオーキッドレディス」の優勝賞金は2160万円なので、その10%だと216万円が手に入る。つまり実力のある選手のキャディになれば、稼ぎも増えるわけだ。

 ただ、新型コロナウイルスの影響で大会中止が続けば、プロキャディは自然と生活苦を強いられる。

「試合の開催可否が確定しないので、自分の予定は空けておく必要があります。仮に今すぐに稼ぎが欲しいのであればアルバイトもできますが、オフにしていたキャディ以外の仕事を入れても、試合が開催されたからといって都合よく急にやめたりもできません。本当にもどかしいです」

 ゴルフコースを熟知し、的確なアドバイスで選手の右腕となるキャディは選手にとって心強い存在だ。そんな彼らもまた選手同様、今かとツアーの再開を心待ちにしている。

 筆者は無観客でも試合を開催してもらいたいと思うのだが、自粛ムードの中で今後どのような判断が下されるのかは未知数だ。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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