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日本とカナダで同時進行する「スポーツ振興くじ改正」の共通点と相違点

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:アフロ)

以下、朝日新聞からの転載。

toto バスケも対象に 売り上げ期待、八百長心配

https://www.asahi.com/articles/ASNCX3R8DNCXUTQP003.html

toto(スポーツ振興くじ)が変わりそうだ。サッカーに加えてバスケットボールが新たな対象となり、1試合の結果を予想する「単一くじ」、リーグ戦の優勝などを占う「順位予想くじ」の導入も検討される。売り上げは上がるのか?八百長対策は? あの競技はどうなるの? 関係者の胸に期待と不安が渦巻く。

本法の改正が実現すれば、これまで同日に開催される複数の試合の混合予測のみが賭けの対象となっていたtotoくじにおいて、単一試合の結果予測や年間を通じての順位予測など、様々なバリエーションでの賭けが実現する事になります。

冒頭でご紹介したのは朝日新聞の記事ですが、頭から反対論調丸出しで記事化するカジノ案件と違って、歯にモノが挟まったかのような報道ですね。まあ、立憲民主まで含めて共同提出されたこの法案には反対論調を作り難いですかね。流石、「ジャーナリズム()宣言」で有名な朝日新聞であります。

この様に日本において着々と進むtotoくじの規制緩和方針ですが、実はこれと時を同じくして海外から同様のニュースが入って参りました。以下、カナダ法務省のアナウンスメントからの転載。

スポーツベットに関連するカナダ刑法の改正提案

Proposed changes to Canada’s Criminal Code relating to sports betting

https://www.canada.ca/en/department-justice/news/2020/11/proposed-changes-to-canadas-criminal-code-relating-to-sports-betting.html

2020年11月26日、カナダ法務省および司法長官は、「シングルイベント・スポーツベット」を非違法化する規制緩和を提案。シングルイベント・スポーツベットとは、単一のスポーツ競技の結果に対して賭けを行うものである。

On November 26, 2020, the Minister of Justice and Attorney General of Canada introduced a bill that proposes to decriminalize single event sport betting. Single event sport betting is placing a bet on the outcome of one single sporting game.

この改正案は、各州および準州に、自州内で行われる単一のスポーツ競技を選定し、シングルイベントスポーツベット商品の提供を行うことを可能とするものである。シングルイベントスポーツベットの提供を決めた州や準州においては、カナダ市民はオンラインもしくはベッティング施設において適正な規制環境下において、その(ベッティングの)機会を享受する事が出来るようになる。

The proposed changes will give provinces and territories the ability to offer single event sport betting products and the discretion to manage single event sport betting in their respective jurisdictions. In provinces and territories that choose to offer single event sport betting, Canadians would have an opportunity to engage in this activity in a regulated environment, either online or in physical facilities.

実は現在のカナダのスポーツを対象とした賭けの取り扱いは日本のtotoの現状と全く同じ。複数のスポーツの試合を対象とし、「くじ」形式のベットのみが認められている状態でありました。その現状を法改正によって打開しようというのが、カナダの現政権の方針であります。

一方で、日本で現在論議がまさに行われているtoto法改正との違いは、今回の日本の法改正は単一試合の結果予測を可能とする点ではカナダのそれと類似していますが、そのゲームの形態をあくまで「富くじ形式」での提供に留めていること。一方、上記で紹介したカナダの法改正案は単一試合の結果予測を認めると共に、固定オッズ制と呼ばれるいわゆる「スポーツベッティング」と呼ばれるゲームの提供に一歩踏み込むものであります。

このカナダの決断の背景には、現在世界中で広がっているスポーツベッティング合法化の波が影響しており、特にカナダにとっては現在米国各州でスポーツベッティングの合法化が広がっているのが大きな一因となっています。アメリカとカナダは同じく英語を母国語として使用する国であり、同時に両国で人気の3大スポーツの一つである、アイスホッケーなどにおいては両国をまたがる形でプロリーグが存在している状況。その様に非常に近しい関係にある隣国各州で続々とスポーツベッティングが合法化されてゆく中で、スポーツベッティング需要が国境を越えお隣のアメリカに流出して行っています。このスポーツベット需要の流出は、本来、国内スポーツ産業に還元されるはずのスポーツ振興予算と各チームの商機を失っている事に他ならず、カナダにとっては由々しき事態であったわけです。

我が国は、米国とカナダほど国境の往来が自由に行える隣国は持っていない為、その環境の差が奇しくも両国で同時に進むスポーツくじに関連する法改正の「形式の差」となっているといえます。一方で、あくまで「くじ形式」の賭けしか認められていない現状で、本来は存在するハズのスポーツ振興予算と各チームの商機を逃しているという事に関しては変わりがありません。

実は今回のtoto法改正に関しては私も色々と絡んできたのですが、本法案を共同提出した与野党および文科省の「握り」の中で、固定オッズ方式の採用までもを改正案の中に組み込むことが出来なかったのが実態。一方で、今回のtoto法改正が我が国のスポーツを対象とした賭博行為の是非を改めて考えるにあたっては良き材料であるのは事実であり、この機会を有効に利用しつつ、引き続き我が国においてのスポーツベットの合法化を推進して参りたい所存です。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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