女王・ベレーザを破ったパルセイロ・レディース。試合の舞台裏を探る(監督・選手コメント編)
なでしこリーグ第17節。
すでに前節、優勝を決めている首位の日テレ・ベレーザ(以下:ベレーザ)は、ホームに3位のAC長野パルセイロ・レディース(以下:長野L)を迎えた。
ベレーザのホーム最終戦となったこの試合後には、リーグ戦の優勝セレモニーが行われた。
しかし、試合は長野Lが2-0でベレーザを下し、ベレーザの連勝を5でストップ。なでしこジャパンでも活躍する横山(長野L)がスーパーゴールでベレーザの11試合無失点記録を破るなど、波乱の90分間となった。
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試合後の両チームの監督および選手のコメントから、試合を振り返る。
【試合後の監督・選手コメント】
★森栄次監督(ベレーザ)
ーー試合を振り返って
手を抜いて入ったわけでもないし、一生懸命やった試合ではあります。勝って優勝を迎えたかったのですが、相手の守備のブロック、ゴール前の厚みが際立ったゲームになってしまいました。先制点を取られると、どうしても早く点を取らなければと焦ってしまうので、いつものようにゲームをコントロールできなかったのは残念でした。気持ちを引き締めていても、気の緩みは少しあったのかもしれません。それは反省して、皇后杯に向けてやっていかなければいけないと思います。うちがもしリードしていたら、(先日まで合宿に行っていた)U-20の選手たちを総取っ替えしようかなと考えていたのですが、そのプランは使えませんでした。
ーーゴールを決めた横山選手への対応は。
彼女が長野の核というのもあるし、絶対に彼女の元にボールが集まってくるということは分かっていたので、そこは潰していこうと話していたんですが、潰しきれなかったですね。あとは、中盤のところでもう少しボールの出どころをハッキリさせれば良かったかなと。次の対戦ではそこをしっかり修正していきたいと思います。
★DF岩清水梓(ベレーザ/キャプテン)
ーー皇后杯に向けた課題が出た試合だったのではないでしょうか。
最低でも「1」失点で終われたらよかったんですが、複数失点はいただけない結果ですね。まずは、自分たちの守備を見つめ直すところと、ボールの奪われ方を見直したいと思います。(味方同士の)距離感も今日は遠かったので。全体的にコンディションが整わなかった面もありますが、みんなでもう一回ハードワークしてやっていかなければいけないということを思い知らされたゲームでした。皇后杯は負けたら終わってしまう大会だし、その前に気付けたことがあって良かったです。いい薬にしなきゃいけないなと思います。
ーー連覇についての喜びはいかがですか?
年間を通して勝ち続けたチームということなので、そこは嬉しく思っています。個人的にも連覇への思いはずっとありましたし、キャプテンとしては初めてなので、違った重みのある2連覇ですね。またこのチームで歴史を作り直したいと思っていますし、その序章だと思います。ただ、こういう試合(敗戦)もあるので、そこはトレーニングで引き締めて、強くなりたいです。
今年は3冠(リーグ、リーグカップ、皇后杯)を目指してシーズンを戦っていますので、何が何でもタイトルを獲りたいですし、リーグ最終戦も皇后杯への弾みとなるような試合にしたいと思います。
★MF阪口夢穂(ベレーザ)
ーー試合を振り返って
最近、先に失点することがなかったですからね。それでも1失点した時は、「まだ2点取ればいける」と思っていましたが、2点目を取られるとは思っていませんでした。お客さんには申し訳ないですね。せっかく優勝セレモニーをやっていただいて、これだけのお客さんが来てくれた中で勝てなかった申し訳なさが、負けた悔しさよりも私自身は大きいです。優勝が決まったからどう、ということはなかったですし、コンディションが整わなかったのもありますね。
ーーこのスタジアムとの相性は?
芝の相性(長めでボールスピードが出ない)はあるかもしれませんね。ただ、「芝の相性がある時点であかんな」という話は、以前監督ともしていたんですよ。「この芝だからベレーザのパスサッカーができない」と言っているようじゃまだまだだな、と思います。どこの芝でも勝てるし、同じサッカーができるようにしないといけないな、と。
ーー負けている状況でも、テクニックを生かして観客を楽しませるプレーをしていたのが印象的でした。
悪い癖ですね。あれは勝っているときにやるサッカーですよね? やっぱり、魅せるサッカーが好きというか、どうしてもお客さんを喜ばせたいというところが出てしまうんです。ブーイングされたらどうしよう?とソワソワしてしまいました(笑) 。
ただ、もう一つ、「私は焦っていないよ」ということを見せたかったのもあります。ベレーザは割とパスをつないで崩すサッカーですが、先に失点してしまうと、時間があるのにどうしても慌ててしまって、勝ち目のない、蹴るだけのサッカーになってしまうことが去年はあったので。「大丈夫だから、落ち着いてやっていこう」と、プレーで伝えたいなと思いました。ただ、その中でもう1失点してしまったのが響きましたね。
ーー横山選手のゴールについてはどうですか。
ボールタッチがすごく上手だと思いましたし、鉄壁だと思っていた守備がやられてしまったので。まだまだうちのディフェンスに伸びしろがあるということだと思います。
ーー最終戦に向けて、気持ちの面での切り替えは。
もちろん、そんなつもりはないんですが、たとえば「私たちは強いぞ」みたいな過信があったとしたら、立ち還れると思うし、負けてもよかったと思えるような今後にしたいです。この負けを引きずることはないですが、皇后杯に向けて、いいサッカーができればいいかなと思います。
★本田美登里監督(長野L)
ーー試合を振り返って
前節のベレーザの仙台戦(の仙台)の守備が良いお手本でした。前から押し(プレッシャーをかけ)に行くスタイルで、相手のサイドバックにうちのサイドハーフが押しに行って、ベレーザの中盤のところで奪おうと。できなくても、怖がらずに、引かないぞと。元々引けるチームではないんですけれど(笑)そういう自分たちのスタイルと、攻撃では横山を中心に前から突っ込んでいく、それが自分たちのスタイルです。目の前で相手の胴上げを見ることもなかったので、良かったですね。試合後はすべての選手が足を攣(つ)っていました。
ーー横山選手のスーパーゴールはどのようにご覧になりましたか。
見ているお客さんが「おっ!」と言ってくれるようなゴールですし、また横山を見たい、という人も増えるでしょう。これだけやれる選手が出てきたことは日本の女子サッカー界にとっていいことだろうと思います。得点女王も気にしていないとは言ってるけど、気にしているだろうし、最後まで得点女王争いをさせてあげたいというのはありました。ラスト5分はちょっとサボっていましたけれどね。
ーー前節の黒星(0−5)からどのような切り替えをしたのですか?
INAC神戸レオネッサ戦(0−5)では、本当にメンタルをやられました。惜しかったね、という試合ではなかったですし、あれだけ点を取られたら開き直るしかないですよね(笑)。そこからは、自分たちのサッカーを残り2試合やろう、と。ただ、(前回対戦した)INACよりもベレーザのポゼッションはゆっくりだったので、スピードに目は慣れていました。これが逆(ベレーザ戦→INAC戦)だったら、2試合ともやられていたかもしれません。そう考えると(INACに負けたことは)悔しいけれど、順番的にはいい順番でした。
ーー守備面では、1週間でどのような修正を加えましたか。
当たり前なんですけれど、やっぱり、マン(ツーマン)では付ききれなかった。その中で、ベレーザに対してはスペースを守りながら人に付きました。ベレーザは中にボールを入れてくる特徴があるので、そこを閉じて、しっかりとシステムで守備をしよう、と伝えました。先週のマン(ツーマン)のディフェンスよりは、全員が意識してやれたことが多かったと思います。どう守っても取られるし、どうシステムを変えても点を取られるんだったら、いつも通りに行きましょう、と(笑)いい意味で開き直りました。
ーーPKを止めた林崎(※)選手について。 ※崎の右側は「大」ではなく「立」(以下同)
ベレーザの今シーズンの4つのPKがすべて(GKから見て)左に蹴っていたので、(GKの林崎)萌維も含めて、堤GKコーチのスカウティングを信じました。その成果ですね。あれで同点になっていたら、(最終的には逆転されて)1−3ぐらいで負けていたと思います。
ーーこの勝利は自信になったのでは?
どうでしょう?こういう試合をした後に、来週の試合で引き分けたり、負けちゃったりして、得失点差で4位になるというのはよくあるパターンですから。そこはもう一回最後にネジを締めて、3位以上で終われるように頑張ります。
ーー勢いだけではなく、中身も伴ってきた手応えはありますか。
中身はまだ伴ってないですね。今年は最後まで、とにかく勢いでいきたいと思います。来年にかけては、もう少し中身が濃く失点の少ないチームにしていきたいと思いますが、今年は「点を取られても取り返す」サッカーでいいんです。ただ、次にいい試合をしないと、今日勝った意味がなくなってしまうので。しっかり、賞金も取りに行きたいですね!(笑)
★DF坂本理保(長野L/キャプテン)
ーー1年間少しずつ積み上げてきた自信が結果につながった?
そうですね。前半戦からそうですが、一人一人が前に出る意識や、守る時は守る、という割り切ったサッカーができたのかな、と思います。とにかく、良い状態で最終戦に臨みたいと考えていました。ベレーザには前期の試合で大敗(1−5)したこともありますし、一回でも何かを起こしたいな、と感じていたので。自分たちが1シーズンを1部で戦ってきた経験と勢いを最後までぶつけて、いい形で終わりたいです。個人としては、自分が納得するようなプレーはできていないですし、周りの選手が潰してくれたから私のところで取れた場面も多く、すごく頑張ってくれていたな、と感じます。
ーー周りを動かすコーチングも印象的でしたが。
一人では守れないですからね。1人で狙ったところで奪えずに、違うところを狙われてしまうこともあるので、周りを動かして自分のところで奪えるように「狙いどころ」を作っていっています。「周りをもっと動かせる選手になれ」と、監督からも言われています。悪く言えば、楽をして奪い切れるような選手になりたいな、と思います。
ーー1対1の球際で意識していたことは?
相手の選手がそこまで大きくない場合は、体を寄せられると嫌がるので。チーム全員で、1対1の球際は強くいこうと統一してやっていました。
ーーホーム最終戦に向けて。
リーグ戦はこれで一回終わるので、自分たちが1年間戦ってきた集大成ということで、今までで一番いいゲーム、お客さんもワクワクするような長野らしく、攻撃的なサッカーを見せたいですね。
★FW横山久美(長野L)
ーー試合と、ゴールを振り返って
攻められる試合になるのは覚悟したんですけれども、本当に少ないチャンスを決め切ることができて勝利につながったと思います。(ゴールの場面は)カウンター気味で、その前のプレーで監督に「前を向いて自分で勝負しろ」と言われていたので、思いきって、自分で勝負をしに行きました。常に前を向く意識を持つことを監督から言われているので、それが身についているのではないかと思います。
ーーアシストをした2得点目については?
自分で(シュートに)行こうかパスをしようか迷っていたんですが、1点目の場面があったので、相手もマークに近づいてきていました。トマ(泊)がいい動きをしていたので、確実に決められる方を選択しました。
ーー自身としても、(1点目は)今季のベストゴールでしょうか。
個人的には、INAC戦(第8節○3−2)で決めた同点弾(2点目)の方が(ベストゴールの)イメージは強いですね。今回は、シュートが良かったというよりは、その前のドリブルが良かったと思っています。
ーードリブルの秘訣は?
とにかくボールに触ることです。これまで本当に、たくさんボールに触ってきました。
ーーチームを勝たせるゴールが多いですね。
特にホームの試合では、自分が決めることによってサポーターも湧きますし、サポーターの声がまたチームの力にもなると思います。それに、自分が決めたらチームのみんなも少し安心すると思うので。そういうことを意識しながら、常にゴールを狙っています。
ーーこれだけ決めている中でも、あえて課題を上げるとしたら?
シュートチャンスは少ないですけれど、その中でも決められるチャンスがあったので、それをものにできなかった反省もあります。最近ゴールから遠ざかっていたので、今日決められたことで波に乗れたらいいなと思います。
ーー今季1部に昇格して、こういう試合ができるようになった手応えは?
昇格1年目ということで、ここに立っている自分たちの姿は想像できなかったです。ここから自力で3位まで上り詰めることができますし、賞金が取れるかもしれないので、チームのためにも頑張りたいと思います。今日勝っても、次に勝たないと意味がないですから。
★FW大宮玲央奈(長野L)
ーー完封勝利でした。
チームとして、前回、大敗してしまったので、みんなでもう一回、一から取り組んできました。今日は2点取れたことが良かったと思います。
ーー今日も2列目の3選手の献身的な働きが大きかったと思いますが。
私は、個人的には3試合絡めていなかったので、すごくフレッシュな気持ちで、90分間持たなくても良いから、やれるところまで全力でやろうという気持ちで走りきりました。
ーー皇后杯に向けてはどうですか?
まだ皇后杯のことまでは考えていなくて、まずは目の前のベガルタ戦に向けて、いかにいい準備ができるかということを考えています。そのベガルタ戦がうまくいけば、皇后杯もうまく入れると思います。今は2位で終わる可能性も、4位で終わる可能性もあるので、まずは最終戦でしっかり勝って上位で終えたいですね。
ーー大勢の観客が入っている長野で迎える最終戦に向けて
リーグ戦を通して応援してくれた方々のためにも、恩返しの気持ちを出して、最後に勝利のラインダンスをして終わりたいと思います。
★MF國澤志乃(長野L)
ーー試合を振り返って
前節ホームで対戦した時は1−5で散々にやられてしまいましたし、今日はベレーザの優勝セレモニーがあるということで、気持ち良くやらせるわけにはいかないな、と思っていました。自分たちの最終順位も上げたいと思い、勝ちに行くつもりで試合に入ったので、無失点で終えられたことも良かったです。
ーー前節から守備面で変化したところは?
昨日、移動のバスが渋滞にはまってしまったんです。その移動中に、ベレーザと仙台の試合を丸々一試合観る時間があって、その試合で仙台がすごくいい守備をしていたので、その試合を参考にして、こういう試合ができたらいいなと。実際、今日の試合でも自分たちがある程度前からプレッシャーをかけに行くことができて、それがはまって、得点にもつながったと思います。INAC戦よりはマークを掴みやすかったんですけれど、相手のサイドの選手が中に絞ってきた時のマークをどうするかということが課題です。ベレーザは一人一人が上手いので、個人技でやられた部分もありましたが、最後の最後で足を出してカバーし合えたんじゃないかなと思います。
ーー中盤の球際で、相手選手への寄せ方ではどんなことを意識しましたか。
(阪口)夢穂さんとか、相手のディフェンスの選手から中に入れてくるボールを注意しようと、監督からの指示もありました。中盤はそこを閉じて、パスはサイドに散らすことを意識していました。
ーー今年はアウェイでも多くのお客さんを沸かせていますが、試合中は楽しんでプレーしていますか?
私は、(試合中は)必死すぎて、楽しむ余裕はあまりないんです(笑)。でも、今日の試合ではインターセプトもできていたので、ある程度冷静にはなれていました。でも、試合後は足を攣ってしまいました。
ーー次のホーム最終節に向けて。
せっかく、優勝が決まったベレーザさんに勝っていい流れを作れたので、次に負けたらもったいない。ホーム最終戦ではたくさんの応援を背に受けて、自分たちのサッカーでリーグ戦を締めくくりたいです。
★GK林崎萌維(長野L)
ーー完封勝利でした。
これまで失点が多いことに責任を感じていたので、この試合は無失点で終えられて良かったです。ベレーザが相手ということもあったので、自信にもなりました。前節5失点をしてしまった後はさすがに落ち込んでしまったんですが、次に気持ちを切り替えて、自分たちは失うものが何もないチャレンジャーという気持ちで、走り負けないことと、気持ちの部分で負けないことは練習から常に意識していたので、いい形で試合に入れたと思います。
ーー攻撃的なサッカーをしている中で、キーパーとしてはどんなことを意識していますか?
ディフェンスラインを上げる分、後ろの(広い)スペースをカバーすることはいつも考えています。前後だけではなく左右のポジショニングも意識しています。
ーーいいセーブが多く、時間の経過とともに、乗ってきた部分もありましたか?
いえいえ。試合が早く終わって欲しい、という気持ちの方が大きくて、時計ばっかり見てしまいました。メンタルも強い方ではないので、とにかく「早く終われ」と思っていましたね(笑)
ーー今季、1部でプレーする中でついてきた自信は?
想像していたよりもできるな、とは思いましたが、INAC戦で前節は5失点もしてしまって、実力以上の差も感じました。これから個々もチーム力も、すべての部分で質を上げていかなければいけないなと思います。
ーー最終戦に向けて
長野の地域柄ということもあると思いますが、いつもたくさんのお客さんに来ていただいているので、恥ずかしい試合はできないですね。(次節の)ベガルタも強い相手ですが、ベレーザ戦の勝利を無駄にしないためにも、ホームの勢いを力に変えて、いい形でシーズンを終えて皇后杯につなげたいですね。