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過酷な環境を生き抜いた【供血犬】 シロちゃんが突きつけるペット輸血の課題とは?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
イメージ写真(写真:PantherMedia/イメージマート)

犬や猫は、病気になると輸血が必要なときがあります。人間の医療のような献血制度がありません。ボランティアにより献血してくれる犬や猫を探します。または、動物病院によっては、献血用に犬や猫を飼っている場合もあります。

今回、ニュースになっている【供血犬】は、動物病院の地下室で劣悪な環境にされ、そこから救い出されて里親の元に行ったというものです。

今日は、犬の輸血や供血犬の問題を考えてみましょう。

糞尿まみれだったシロちゃん

イメージ写真
イメージ写真写真:Paylessimages/イメージマート

それでは、救出されたシロちゃんの様子を見てみましょう。

ABCニュースの伝えるところによりますと、シロちゃんは東京のある動物病院の地下室で供血犬として飼われていたそうです。供血犬とは、輸血が必要なときに、その犬の血を抜いて、病気の犬に血をあげる犬です。

供血犬や供血猫を飼っている動物病院は、割合にあります。しかし、シロちゃんは、2匹一緒にずっと飼われていて、地下のケージの中で2匹が新聞1枚敷かれて糞尿にまみれたような状態で過ごしていたそうです。その動物病院で働いていた看護師が、見るに見かねてシロちゃんを救出して京都の里親を探しました。シロちゃんは、いまは新しい里親のところで幸せに暮らしているそうです。

シロちゃんのようなことはあってはならないことです。

まして動物の命を救う動物病院で起きていたとは、驚きです。そのような闇を持った動物病院があることは問題ですね。

獣医師の名誉挽回のためにも伝えておきますが、一般的な動物病院の供血犬はマスコット犬のように飼われて、もし血が必要なときに、献血してもらい、そのため普段は大切にされています。筆者の病院には、供血犬や供血猫はいませんが、知り合いの動物病院に遊びに行っても、ここから先は入ってはいけないゾーンみたいなものはなく、供血犬はスタッフのエリアで愛想を振ってかわいがられているという風景です。

それではなぜ、このようなシロちゃんのような供血犬を生み出してしまったのかを、ペットの輸血の構造にあるので、次はそれを見ていきましょう。

どんなときに輸血するか?

犬や猫が貧血をしている場合に輸血をします。以下のような場合です。

・がん

・交通事故

・腹腔内出血

・血液疾患

・骨髄疾患

などです。

輸血の方法

写真:Paylessimages/イメージマート

輸血には、2種類の方法があります。

・ひとつは、シロちゃんのように供血犬を動物病院で飼育し、輸血が必要な場合は採血して輸血する。

・もうひとつは、動物病院で篤志家の飼い主にお願いして飼い犬や飼い猫を登録し、必要な時に献血をお願いして輸血する。ただそれほど多くの登録がないのが実情のようで、常に血液が不足している状況です。

それに加えて、犬や猫の血液型もあり献血した血をどの子にも輸血ができないケースもあります。つまり高度な治療をする病院ほど血が必要で、犬の輸血用血液を販売している会社があったのですが、残念ながらすでに廃業しています。このことは、後に書きます。

ドナー登録の条件

写真:アフロ

どんな犬でも献血できるわけではありません。ドナーが献血した後に、病気になるとよくないので、以下のことが望ましいと言われています。

□ 年齢 1~7歳

□ 体重 20kg以上

□ 性別 交配予定のないオスまたは妊娠・出産経験のない避妊メス

□ 健康であり、フィラリア予防、ワクチン接種、ノミやダニの感染予防を受けている

□ 血液検査(血液型、肝機能・腎機能などの生化学検査、止血機能検査、フィラリア、バベシアなど感染症の検査)が正常

□ これまでに輸血を受けたことがない

□ 麻酔・鎮静処置をせずに献血採血が可能な性格である

□ 生活環境は、屋内飼育でも屋外飼育でもどちらでも可能

このような条件にあえば、4カ月に1回お願いする場合もあります。献血した後は、採血後に十分に止血したのち、採血量と同量以上の静脈点滴または皮下点滴をおこないます。また、鉄剤とビタミン剤を処方いたします。もちろんドナーのことも配慮します。

ブルー十字動物血液センターとは?

いまから約30年前に、人間の医療のように、動物の血液会社がありました。それでは、歴史を紐解いてみましょう。

「ブルー十字動物血液センター」が1991年、福井市で医療機器販売会社として発足しました。日本初の犬と猫を対象とした動物血液センターでした。犬で9種、猫で3種ある血液型を、瞬時に判別する試薬や新鮮な血を動物病院に提供してくれるというものでした。

しかし、経営はうまくいかず1997年に倒産。採血用の犬猫が、約400匹置き去りにされ、当時、社会的に問題となったことを思い出します。

犬や猫の輸血には、このような暗い歴史もあります。

献血のドナー登録を

犬や猫の治療に輸血を必要とすることがあります。動物医療では人間の医療のような献血制度がないため、輸血によって尊い命を救うためには飼い主の皆さまのご理解とご協力が必要です。いまは、京都で幸せに暮らしてシロちゃんが、突きつけたペットの輸血について理解していただき、ドナーの条件に合う犬の飼い主は、かかりつけ医にドナーになっていいとお伝えいただけると助かります。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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