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薬物で妻を昏睡状態にさせた夫、そしてレイプした51人の男性たちの裁判(4) 混迷する被告たちの弁明

プラド夏樹パリ在住ライター
2024年9月2日、アヴィニョン裁判所の被告席で頭を抱える共犯者の一人(注)

成り行きレイプに情状酌量はあるか?

今、フランスで注目されている裁判がある。50年来結婚しているカップルの夫が妻に大量の睡眠薬を与えて眠らせ、チャットサイトで募った男性72人あまりに9年間にわたってレイプさせ、その様子を録画していたという事件の裁判である。アヴィニョン市で9月に始まり12月20日まで続く予定だ。

(注)写真の出典先は11月27日のLe Monde紙電子版。CHRISTOPHE SIMON/AFP

行為は認める、しかし、あれはレイプではなかった

裁判の初めから、主犯者で被害者ジゼルさんの元夫であるペリコー氏は「私はレイプ犯です。ここにいるほかの被告と同じように」と有罪を認めた。

ところがペリコー氏がチャットサイトに出した募集「妻が眠っている間に」に応じて同氏の自宅に赴き、薬物で昏睡させられている妻ジゼルさんをレイプした共犯者たちのうち、今回の裁判で裁かれる共犯者50人はどのように供述したのだろうか?

その中で、ジゼルさんが薬物で昏睡させられていることを知っていたと自白し、レイプを認めたのはたった一人だった。それ以外は全員が、レイプを否認した。証拠物件であるフィルムが法廷で映写されて、自分の行為が白日のもとに晒されてもである。「自分がした行為は認めるが、あれはレイプではなかった」と、彼らは頑なに主張した。

混迷する弁明の数々

その一人、44歳、アルコール中毒の過去があり、12、13歳頃に性的虐待を受けた過去を持つリオネル・R氏はこう供述した。

R氏:「ジゼルさんの同意があったわけではないから、レイプだったと言われても反論はできないのですが、最初からレイプをするつもりはなかったのです。」

原告弁護人:「それでは、『意図的ではなかったレイプ』ということですか?」

R 氏:「 はい。朝起きて『今日はこれからレイプしに行こう』と思って車に乗に乗り込んだわけではないのですから、意図的ではありませんでした」

パトリス・N(55歳)電気技師は「ペリコー夫妻に招かれたと思った」と弁明した一人である。映像によるとジゼルさんの膣、肛門、口に指と性器を数回挿入しているが、彼も「行為は認めるが、レイプする意図はなかった」と主張し続けた。最後には、「この裁判が若者たちにとって『性的同意』が何かよくわかる機会になるかと思っています。私は息子とその友人たちに、『女には気を付けろよ。俺のような羽目に陥らないように、同意はしっかりとれよ』って口を酸っぱくして言い聞かせています」と、自分こそが被害者であることを強調した。

2人の娘の父親であり、元トラック運転手のジャック・ C氏は、供述の間、数回にわたって「いや、私は女性を尊重しているんです」、「女性の複雑さ、その多様性ゆえに彼女たちを愛しています」と繰り返した。そして、「私はペリコー氏に騙されて、ジゼルさんは昏睡しているのではなくて、眠っているふりをしていると、こういうプレイが好きなカップルなんだと勘違いしたのです。ですからペリコー氏の言うなりにジゼルさんに性行為をしただけなんです」と言い、「様子はおかしいし、警察に届け出ようとも思ったのですが、まあ、そのうち日常生活に追われて忘れました」と付け加えた。

「はあ、でもあの頃、私は同意ってなんだか知らなかったので」

「ジゼルさんは眠っているフリをしていると思った」と言った被告は多かったが、しかし、法廷内で映写された映像では、ジゼルさんは鼾が響き渡るほど深く眠っていた。別の共犯者ヨアン・K氏は裁判長の質問に以下のように答えた。

裁判長:「この映像を見ても、あなたには彼女に意識がないことがわからなかったと言えるんですか?深く眠っていて同意を表明できない状態にあることは明らかのように思えますが。」

K氏:「意識がないというのはわかりました。でも同意の有無はわからなかったんです」

裁判長:「でも昏睡状態にある人が同意できるでしょうか?」

K氏: 「はあ、でもあの頃、私は同意ってなんだか知らなかったので」

性的同意。この言葉が社会に広がったのは2018年前後のことで、今、フランスでは毎日のように聞く言葉になったが、この言葉も意味も実際にどれほど社会全体に浸透しているのだろうか?今回の裁判では、被告から「夫であるペリコー氏から家に招待されたっていうことは、奥さんからも招待されたってことでしょ?」、「ペリコー氏の家に招かれて、寝室に入っていいって言われて、ベッドも使っていい、奥さんと何してもいいって言われたんです。夫がokしてるんだからいいんじゃないかと思って」という珍答を聞くと、疑問に思わざるをえない。

平均12.9年の禁固刑

11月27日、検察側は4年から20年の求刑をした。主犯で被害者の元夫ペリコー氏は20年、他の共犯者は10年から18年の懲役刑、平均して12.9年の求刑だ。挿入しなかったものの性的侵害(atteinte)をしたジョゼフ・C氏(69歳)のみが4年を求刑された。

この求刑で、フランスの司法では、「意図はなかったけど成り行きでしてしまったレイプ」に情状酌量はなく、計画的であろうと成り行きであろうとレイプには一種類しかないことを明らかにした。

検察は、「この裁判で、自分の欲望を満たすことにしか興味がなく、他者が望んでいることに対する理解や配慮が欠如している人間が存在することが明らかになりました。……あなた方は全員、ジゼルさんが何を望んでいるかをまったく顧みることなく、ただただ手軽に手に入る自分の欲望だけに駆られて行動したのです。『ペリコー氏の誘いに乗った』とは言えども、あなた方は、同氏の家に行く前も、レイプ後も、ジゼルさんの同意については一瞬も考えたことがなかったのですから」と締め括った。

今回の裁判では、何度も「性的同意」について言及されたが、現在のところ、フランスではレイプは「暴力、威し、身体的・精神的拘束、不意打ちで他者に性的挿入を強要すること」と定義されており、同意の有無は法的定義の中にまだ含まれていない。

欧州では、欧州委員会が性的同意の概念をベースにしたレイプの定義をEU加盟国内で統一しようしており、これに対して、フランス政府はポーランド、ハンガリーといった国々と共に反対の姿勢を貫いてきた。しかし、このペリコー裁判をきっかけに、フランスの社会でも「同意の有無」を今後は定義の一つにという要請が高まっている。

パリ在住ライター

慶応大学文学部卒業後、渡仏。在仏30年。共同通信デジタルEYE、駐日欧州連合代表部公式マガジンEUMAGなどに寄稿。単著に「フランス人の性 なぜ#MeTooへの反対が起きたのか」(光文社新書)、共著に「コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿」(光文社新書)、「夫婦別姓 家族と多様性の各国事情」(ちくま新書)など。仕事依頼はnatsuki.prado@gmail.comへお願いします。

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