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G.G.佐藤が北京五輪エラーを“自虐ネタ”にするワケ。福岡社会人チーム「下剋上コーチ」就任で明かす

田尻耕太郎スポーツライター
北九州市内で就任会見を行ったG.G.佐藤氏

 公式戦未勝利のチームを3年以内に都市対抗へ出場させると誓った。福岡県北九州市を拠点とする社会人クラブチームGENESIS FUKUOKA(以下GENESIS)の「下剋上コーチ」に就任したG.G.佐藤氏が26日、北九州市内で就任会見を行い、就任の経緯や今後の展望を情熱的に語った。

 G.G.佐藤氏は「今まで私にコーチのオファーをしてくるチームは一切なかった。やっと俺の魅力に気づいてくれたチームが現れました(笑)。選手たちに楽しんで野球をやってほしいし、何より記憶に残るチームを作りたいと聞きました。だから俺なのか、と。記憶に残ったG.G.佐藤が記憶に残る選手やチームを作っていきたいと思ってます」と意気込みを口にした。

創設3年目で公式戦未勝利のチーム

現役時代にファンを楽しませた「きもてぃ~!」を再現してもらった
現役時代にファンを楽しませた「きもてぃ~!」を再現してもらった

 GENESISは2022年に日本野球連盟(JABA)へ加盟。歴史の浅いチームは昨年、オープン戦も含め3勝15敗2分の戦績だった。また、未だ公式戦初勝利を収めておらず、昨年大会での総得点は1点どまりだった。

 圧倒的な打力不足を解決すべく、G.G.佐藤氏へのコーチ依頼を同チームの矢野勇太部長と松本大樹監督が思いつき「インスタグラムでDMを送った」ことがきっかけで正式なオファーに発展。「同チームを公式戦未勝利のチームから社会人野球日本一のチームへと下剋上を成し遂げる」との共通した思いから、球界初(チーム発表で日本球界初の肩書)の下剋上コーチとして基本合意に至った。

「バッティング指導はもちろん、フィジカルが技術を引き出すこともある。僕も実際そうでした。それに守備に関しても捕れない気持ちは誰よりもわかる。そういう意味では心に寄り添った指導ができると思ってます。また、大学4年間は補欠でした。当時の僕を見てプロ野球選手になれると思った人は1人もいなかった。それがプロになるんです。まだまだ選手たちは可能性の塊だと思う。自分の可能性を信じて、夢や目標に向かって頑張ってほしいと本気で思ってます。必ず成し遂げられると思ってるんで、それを応援していきたい」とG.G.佐藤氏。

ノムさんの言葉が救ってくれた

 また、会見の中でG.G.佐藤氏が北京五輪のエラーについて、一度は人生のどん底を味わうほどの経験をしながら、現在はその失態と明るく向き合っていることについて問われるとこのように話した。

北京五輪での失策
北京五輪での失策写真:築田純/アフロスポーツ

「そのエラーとずっと向き合うことができなかったんですけど、恩師のノムさん(野村克也氏・中学時代に野村沙知代氏がオーナーを務めていた「港東ムース」でプレー)の言葉で変わった。ノムさんに言われたのが『あのときの北京オリンピックで人の記憶に残ってるのは誰だ? 星野とお前だけだ。記憶に残ることがどれだけ大変で、素晴らしいことかわかるか? お前の勝ちだ。その経験を活かして生きていきなさい』って言われたところから、自分の思考や考え方が180度変わった。思い切ってやってみようと自虐ネタをぶっこんだ。もっと炎上するかなと思いました。だけど『元気が出ました』『勇気をもらえます』『G.G.さんのエラーに比べれば、僕の失敗は大したことありませんでした』って。死にたいとまで思った出来事でも、捉え方や向き合い方によって過去すら変えられる。タイムマシンに乗らなくても過去は変えられるんだと、ノムさんの言葉をきっかけに気付けた。GENESISの選手たちもこれからいろんなことあると思いますけど、野球も失敗のスポーツです。人生も失敗が多いと思います。失敗のない人生には成功もないというメッセージを常に届けていきたい。チャレンジし続ける、そして目標のために努力を続ける選手たちになってもらって、さらにその姿を見た人たちに勇気を与えられるような選手、チームにしていきたいと思ってやっていきたい」

 なお、G.G.佐藤氏によれば、野村克也氏からはその言葉を授かったのは「亡くなられる10日前だった」という。「中学時代はチームの中で大勢の1人。認識してもらえるような選手じゃなかったと思うけど、プロになって挨拶に行ったら嬉しそうにしてくれた。気にかけてくださっていたのだと思う」とぽつりと話した。

伊東勤氏との師弟対決実現へ

左からGENESIS FUKUOKAの矢野勇太部長、松本大樹監督、G.G.佐藤‟下剋上コーチ”、内野光次(株)GENESIS代表取締役、徳永直樹キャプテン
左からGENESIS FUKUOKAの矢野勇太部長、松本大樹監督、G.G.佐藤‟下剋上コーチ”、内野光次(株)GENESIS代表取締役、徳永直樹キャプテン

 下剋上コーチとして、当面の目標は「3年以内に都市対抗を目指す。絶対に出場する。あと個人的には、日本一のチームを目指そうかなと思ってます。日本で最も応援されて、日本で最も愛され、日本で最も影響を与えることができるクラブチームを目指した先に3年以内の都市対抗出場がある。監督ともしっかりコミュニケーションを取りながらやっていきたいと思ってます」としている。

 今後は月2回以上下剋上コーチ(外部コーチ)として指導にあたるほかに、中高などを対象にした講演会や野球教室などの地域貢献活動にも積極的に参加していく意向だ。そして3月31日の福岡教育大学(福岡教育大グランド)とのオープン戦より本格的に指導開始となる見込み。

 また、GENESISと同じ福岡県内で活動する新鋭クラブチーム「ARC九州」は伊東勤氏が総監督を務めている点も注目したいところ。伊東氏は、G.G.佐藤氏が西武入りした際の監督で、ロッテでもやはり監督と選手としてともにユニフォームを着た関係。今後、公式戦などで対戦する可能性はかなり高い。

「先日の西武ライオンズのOB戦でご挨拶をしたら『裏切り者!』とジョークを飛ばされました(笑)。一緒に福岡、九州を盛り上げていきたいと思ってます。ただ、最終的には師匠越えを、そこも下剋上したいと思います。いや、します。申し訳ないですけど。でも敵というより本当に一緒に盛り上げていきたいなと思ってます」とにやりと笑った。

(※会見写真については筆者撮影)

スポーツライター

1978年8月18日生まれ、熊本市出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。卒業後、2年半のホークス球団誌編集者を経てフリーに。「Number web」でのコラム連載のほかデイリースポーツ新聞社特約記者も務める。2024年、46歳でホークス取材歴23年に。 また、毎年1月には数多くのプロ野球選手をはじめソフトボールの上野由岐子投手が参加する「鴻江スポーツアカデミー」合宿の運営サポートをライフワークとしている。

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