Yahoo!ニュース

高プロの法案を全文チェックしてみた。【真の後編】

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長
(ペイレスイメージズ/アフロ)

 さあ、お待ちかね、真の後編です!

ここまでのあらすじ

 まず、前編で、

 1)委員会を設置する

 2)委員会で5分の4以上の多数決で決議をする

 3)決議したことを労基署へ届ける

 4)2号に該当する労働者から同意を取る

 5)1号に該当する業務をやらせる

 6)3号から5号の措置を講じること

 以上をやると

この章で定める労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定は、対象労働者については適用しない

となることが分かりました。

 そして、後編で、1号から5号までの解説をしたところです。

 1号 対象業務 厚労省が決める

 2号 対象労働者 書面で職務決めてるとか、年収とか

 3号 「健康管理時間」把握

 4号 104日の休日とか

 5号 健康確保措置 4つのうち1つ選べばOK

 さて、真の後編は6号以降の解説です!

講じる措置

六 対象業務に従事する対象労働者の健康管理時間の状況に応じた当該対象労働者の健康及び福祉を確保するための措置であつて、当該対象労働者に対する有給休暇(第三十九条の規定による有給休暇を除く。)の付与、健康診断の実施その他の厚生労働省令で定める措置のうち当該決議で定めるものを使用者が講ずること。

 労働者の健康がやばそうになったら、有給休暇を与えたり、健康診断したりすることを定めとけよ、ということです。

与党と維新とで修正した条項

 7号はこれです。

七 対象労働者のこの項の規定による同意の撤回に関する手続

 これは政府与党と維新との間の修正協議で入ったものです。

 いったん高プロの適用に同意した労働者が、同意を撤回できる手続きを定めること、ということになります。

 しかし、これでは撤回が権利として労働者に付与されたとみることはできません。

 もし、手続きを「撤回を会社が認めた場合」としたらどうなるんでしょうかね。

 まぁ、ここまで露骨なことをしないまでも、「3年経過後に撤回できる」とか、「撤回に正当な理由が必要」などとしてしまえば、事実上、撤回が困難になるでしょう。

 なので、ほとんど意味がないです。

 もっと、直接的に、「対象労働者は、いつでも同意を取り消すことができる。」とかにしてしまえばいいと思うのですが、そうしないのはなぜなのでしょう?

苦情処理

 次は8号です。

八 対象業務に従事する対象労働者からの苦情の処理に関する措置を当該決議で定めるところにより使用者が講ずること。

 これは、とりあえず苦情処理手続き決めておけよ、ということです。

 まぁ、おまじないのようなもんです。

不利益取り扱い禁止

 9号は、

九 使用者は、この項の規定による同意をしなかつた対象労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこと。

 同意しないからといって、不利益な扱いをしてはいけないよ、ということです。

 一応、こうした定めがあるので、不利益な扱いはしてはいけないのですが、企業も馬鹿じゃないので、「こいつ、高プロの導入に同意しなかったから嫌がらせしまーす」というのはありません。

 だいたい別の理由をひねり出して不利益な扱いをするわけです。

 ですので、ないよりはあった方がいい条文ですが、実効性は高くはありません。

その他

一〇 前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項

 その他もろもろ厚労省が定めたら、それにも従えよ、ということです。

 以上の、後編から真の後編にかけての1号~10号までを委員会で決議しなさいよ、ということです。

実施状況の報告義務

 条文の第2項は次の通りです。

前項の規定による届出をした使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、同項第四号から第六号までに規定する措置の実施状況を行政官庁に報告しなければならない。

 使用者は労基署へ104日の休日の措置などの実施状況について報告義務があります。

裁量労働制からの引用

 第3項は裁量労働制の条文からの準用です。

第三十八条の四第二項、第三項及び第五項の規定は、第一項の委員会について準用する。

 労基法38条の4の第2項は裁量労働制の委員会について定めた条文です。

 ざっくりいうと、次のことが定められています。

 ・委員会の半数は、労働者代表とすること。

 ・議事録を作って、保存して、労働者に周知すること。

 これを高プロの場合も準用するよ、ということです。

 労基法38条の4の第5項は条文の読み替えが書いてありますが、ここは細かい話なので割愛します。

 第4項は、裁量労働制において、委員会の委員は、厚労省が定める指針に従うように決議しないとダメだよ、という条文の引用です。

第一項の決議をする委員は、当該決議の内容が前項において準用する第三十八条の四第三項の指針に適合したものとなるようにしなければならない。

 高プロでも指針を作ることを想定しているので、この条文が必要になります。

行政官庁は、第三項において準用する第三十八条の四第三項の指針に関し、第一項の決議をする委員に対し、必要な助言及び指導を行うことができる。

 第5項は、労基署は委員に助言・指導をすることができるよ、という条文です。

 あとは18歳未満には高プロは使えないよ、とする60条1項と、高プロの委員会の決議は周知しなければいけないよ、という106条の修正があります。

第六十条第一項中「及び第四十条」を「、第四十条及び第四十一条の二」に改める。

第百六条第一項中 (略)「第三十八条の四第一項及び第五項」を「第三十八条の四第一項及び同条第五項(第四十一条の二第三項において準用する場合を含む。)並びに第四十一条の二第一項」に改める。

まとめ

 以上が法案の全部です。

 どこかに成果で賃金とか書いてあったでしょうか?

 書いてないですよね。

 それが、政府のウソですし、一部のマスコミが政府の説明を信じて垂れ流してきたウソなのです。

 こうした高プロが、6月19日に採決を強行するというウワサがあります。

 すでに、ヒアリングした12名というのも、後付けだったことが判明しています。

 一体、だれが、どう望んだ制度なのでしょうか?

 多くの疑問や疑念、そして懸念を抱えたまま、とにかく採決ありきで進んでいる現状を非常に危惧しています。

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

佐々木亮の最近の記事