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高プロの法案を全文チェックしてみた。【前編】

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長
(写真:アフロ)

 いくら言っても、高プロは成果で賃金が得られる制度だって政府が言うので、こうなったら法案の全文を読んで、確認してみましょう。

 成果で賃金が決まるって、書いてあるでしょうか?

見出し

 まず、高プロ制度の最初は見出しです。

 法案には次のとおり書いてあります。

第四十一条の見出しを削り、同条の前に見出しとして「(労働時間等に関する規定の適用除外)」を付し、第四章中同条の次に次の一条を加える。

 見出しには高度プロフェッショナル制度(高プロ)とか成果型賃金という見出しはありません

 ただ、「労働時間等に関する規定の適用除外」と書いてあるだけです。

 これは嶋崎弁護士も指摘しているところです。

 次から条文です。

 生の条文なのでわかりにくいですが、解説を交えながら読んでいきましょう。

委員会の設置など

第四十一条の二

賃金、労働時間その他の当該事業場における労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対し当該事項について意見を述べることを目的とする委員会(使用者及び当該事業場の労働者を代表する者を構成員とするものに限る。)が設置された事業場において、

 まずは、「委員会」というものを設置します。

 委員会の構成員は、使用者と労働者代表とされています。

 人数や労使の配分などについてはここには書かれていません。

当該委員会がその委員の五分の四以上の多数による議決により次に掲げる事項に関する決議をし、

 その委員会が5分の4以上の多数決で議決をする、と書いてあります。

 議決する項目は後で説明しますので、ここでは議決をするという点だけを理解すればOKです。

かつ、使用者が、厚生労働省令で定めるところにより当該決議を行政官庁に届け出た場合において、

 その議決を労基署へ届け出してね、ということです。

第二号に掲げる労働者の範囲に属する労働者(以下この項において「対象労働者」という。)であつて

 あとで出てくる第2号には、高プロが適用される可能性のある労働者の範囲が書いてあります。

 その範囲内の労働者でないとダメだよ、ということです。

同意要件

書面その他の厚生労働省令で定める方法によりその同意を得たものを

 ここで出てくる同意要件です。

 労働者が高プロの適用に同意しないとスタートしません。

 ただ、労働者と使用者の力関係を考えると、同意を歯止めにしたところで、うまくいくはずがないというのは、多くの人が指摘するところです。

 「君、明日から高プロ適用だから、サインして」と言われて、「いやです」と言える人がどのくらいいるか、想像してみるといいと思います。

 労働基準法は、現実では使用者が強いために、労働者から見て理不尽な内容でも同意を取ることができてしまう状況を想定して、同意でも破られない最低基準を定めています。

 その労働基準法に「同意」を要件とする制度を入れること自体が、本来は矛盾なのですが、企画業務型裁量労働制などでも導入されており、底割れ現象が起きつつあります。

 さて、続きです。

当該事業場における第一号に掲げる業務に就かせたときは、

 あとで出てくる第1号の業務に就かせた場合に限られることになります。

ここまでのまとめ

 ここまでをまとめると、

 1)委員会を設置する

 2)委員会で5分の4以上で議決

 3)議決したことを労基署へ届ける

 4)2号に該当する労働者から同意を取る

 5)1号に該当する業務をやらせる

ということになります。

どうなるのか?

 で、そうすると、どうなるかというと、

この章で定める労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定は、対象労働者については適用しない

 ということになります。

 つまり、1日8時間、週40時間の規制はありません

 そうした規制がないので、36協定というものもありませんし、当然、残業代もありませんし、深夜手当もありません

 さらに、1日6時間で45分、8時間で1時間の休憩もありません

 こうなります。

ただし、第三号から第五号までに規定する措置のいずれかを使用者が講じていない場合は、この限りでない。

 後編で解説する第三号から第五号までの措置を講じていないと、高プロは適用できないよ、ということです。

 ここまで、成果で賃金が決まるとか、そういう記載はありません。

 後編では各号の解説となりますが、そこで出てくるでしょうか?

 後編へ続きます

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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