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進まぬ立憲と国民の合流 果たして玉木雄一郎だけが悪いのか

安積明子政治ジャーナリスト
同床異夢の枝野氏と玉木氏(写真:アフロ)

玉木氏からの電話を無視した枝野氏

「表でも裏でもいい、近いうちに代表同志で話し合えないか」

 8月6日に広島市で開かれた原爆戦没者慰霊式・平和記念式。式典が始まる前に国民民主党の玉木雄一郎代表は、隣の席の立憲民主党の枝野幸男代表にこのように問いかけた。両党は合流に向けて交渉中だが、新党名を選挙で決め、憲法、経済、コロナ対策などの政策で意見がまとまることを合流の前提とする玉木氏に対して、枝野氏の考えはそうではない。玉木氏の提案に対して枝野氏は表情を変えず、「幹事長に任せている」とだけ回答。とりつくしまもないその様子に、玉木氏は小さくため息をついた。

 その前日の5日夜、広島に宿をとった玉木氏は枝野氏に電話をかけていた。呼び出し音は鳴るが、枝野氏は出なかった。玉木氏は留守電にメッセージを吹き込んだ―「電話をください」。しかし枝野氏からの折り返しはなかった。

 「明日の朝、枝野さんに直接会談を申し込んでみるよ。式典では隣の席だから」。玉木氏は同行した国民民主党の議員に、このように話している。おそらく枝野氏は応じないだろう。だが話を前に進めるには、この手しかなかった。野田佳彦元首相ら元民主党のベテラン無所属議員たちは、7日までに合流協議で一定の結論を出せと迫っている。だが立憲民主党と国民民主党が合流して成立する新党は、党名の決定などその誕生手続きは民主的でなければならない。最初から“いわく”が付いていては、何のための新党結成なのか―。

いまも根強く残る分裂時の恩讐

 元は同じ民進党(民主党)だったが、2017年9月に分裂した両党の“因縁”は深い。蓮舫代表の突然の辞任劇から始まったこの騒動は、11年半振りの前原誠司代表誕生で党の崩壊へと舵を切った。前原氏は新執行部の“目玉”として幹事長に山尾志桜里衆議院議員を抜擢しようとしたが、週刊文春が報じた男性スキャンダルであえなく頓挫。その隙を狙って、安倍晋三首相が衆議院の解散を打ってきた。

 前原氏らは人気絶頂だった小池百合子東京都知事の「希望の党」に合流して勢力回復を図ろうとしたが、小池知事が「排除発言」で求心力を喪失し、その期待は一気に萎んだ。その結果、希望の党から排除された枝野氏らが結成した立憲民主党が野党第一党の地位を得たのだ。

 新党を語る時に、忘れてはならないのはこの「恩讐」だ。衆議院側のみならず、参議院側にもしこりは残った。「あの時、我々も早く新党に参加したかった。だが『そのうち一緒になるので、しばらく民進党で待ってくれ』と言われた。にもかかわらず、幹部たちが次々と離脱して立憲民主党に参加した」―ある参議院議員が当時の様子を、恨めし気にこのように述べている。

 実際に福山哲郎元官房副長官は早々と民進党を離党して立憲民主党に入党し、党のナンバー2でる幹事長に就任。自らのスキャンダルが民進党解党のきっかけとなった山尾氏と民進党代表の地位を放り投げた蓮舫氏はその年末、競うように立憲民主党に入党した。無責任さが横行する無秩序にうんざりしたのは、有権者ばかりではない。

国民不在の合流は無意味

 2党の合流の話は今年の初めにも持ち上がったが、頓挫したという経緯がある。今回の合流は立憲民主党側から改めて持ち掛けて始まった話だ。「立憲民主党は7月15日に書面をもって申し込んできた。だから我々も書面で返答した。その回答を待っている」と玉木氏は言うが、立憲民主党はそのつもりではないようだ。

 6日午後には小沢一郎氏が枝野氏と面談した。小沢氏は「党名を選挙で選ぶべき」と決断を迫ったが、枝野氏は「考えさせてほしい」と返答。事実上の決裂と周囲は見ている。

 不思議なのは、にもかかわらず両党が粛々と合流に向けての協議を重ねている点だ。立憲民主党の福山幹事長と国民民主党の平野博文幹事長は5日に会談し、代表会談については合意しなかったものの、代表選や党規約について意見を交換している。

 7日には連合事務局長を交えた両党の幹事長・政調会長会談も行われる。早期に合流話をまとめたい連合は、必然的に多数の立憲民主党の意向に沿うことになる。だがそのような連合の態度に対し、ある議員は「希望の党結成の大失敗を、立憲・国民の合流で挽回したいだけだ」と痛烈に皮肉った。それぞれの思惑がバラバラでは、到底まとめられるはずがない。

 野田政権時に民主党幹事長兼民主党参議院議員会長を務めた輿石東元参議院副議長は、8月4日に収録した動画で「(立憲民主党と国民民主党は)心をひとつにすべきだ」と述べている。

「大きなかたまりになって、自公と対峙することは重要だ。しかしその大きなかたまりはどういうかたまりなのか、国民有権者にはどう見られているか、どう受け止められているかというのが大事ではないか。次の衆議院選に向けての数合わせだと国民が見たら、決して支持をしてくれない」

 先達が語るこの言葉を聞いて胸が痛まないのなら、一時的に大きなかたまりになろうとも全く意味がない。

 

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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