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「おっぱい次官」「落ちませんおじさん」は、OS(昭和)のアップデートを怠った組織の被害者かもしれない

藤代裕之ジャーナリスト
飲み会で女性に絡むセクハラ気味のおじさん(いらすとや)

記者にセクハラ発言を行い辞任した財務次官「おっぱい次官」や司会にもかかわらず記者に向かって指図し笑いものになった「(日大ブランド)落ちませんおじさん」、選手へのパワハラで対戦相手に怪我をさせた日大アメフト部前監督に、くだらない質問を浴びせるワイドショーの記者たち…。今の時代こんなこと言ったら、やったら問題になるのになぜ分からないのか、と呆れている人も多いでしょう。しかし、これら時代錯誤おじさんは、OS(昭和)をアップデートしなかった組織の被害者かもしれません。

仕事の評価が社会とズレた要因

時代錯誤おじさんは、いずれも仕事では高く評価されています。

財務次官は東京大学を出て、キングオブ省庁とも呼ばれる財務省のトップに上り詰め、アメフト部前監督は、甲子園ボウルを制し、大学の常務理事も務めています。日大の記者会見で司会を担当したのは、共同通信の元記者で特派員や経済部長や論説委員長も務めたとのこと。聞こえてくるのは「昔はあれで良かったのだが…」という声です。

社会的な共通認識であるOS(昭和)は、戦後復興、高度成長へと日本の経済が成長していく中で、爆発的に普及しました。マスメディアの力は強く、消費が憧れでした。作動するアプリケーションは、働き方では「サラリーマン」で、「モーレツ社員」「企業戦士」、家庭では「専業主婦」でした。

しかし、バブルが崩壊し、新たなOS(平成)がローンチされます。企業はグローバル化し、ソーシャルメディアが登場し、消費よりも体験やつながりを重視する社会になっていきます。昭和OSの特徴は「社畜」「ブラック企業」とネガティブな響きに変化し、働き方では「ダイバシティ(多様性)」「グローバル&ローカル」、家庭では「イクメン」などのアプリケーションが生まれます。

時代錯誤おじさんは、セクハラやパワハラといったハラスメント、ダイバシティ(多様性)に対する意識が欠如し、ソーシャルメディアでの拡散や生中継によるメディア環境の変化にも疎いように見えるのは、OSが変化したのに、アプリケーションがそのままだからです。

OSがアップデートされない組織

古いアプリケーションを新しいOSで動かそうとすると、適切に表示されなかったり、突然フリーズしたり、セキリュティが脆弱になりウィルスに感染してそれを撒き散らしたり、します。ピクリとも動かないこともあります。

なぜ、このようなことが起きるのか。その要因は、官僚、体育会、マスメディアは、昭和の時代に社会で高く評価された組織や業界であること、直接消費者やユーザーと向き合わないこと、そして組織の外に出る人はいても、外から入ってくる人がいないという共通項にあります。このような組織の構成員は、OSの変化に鈍感になりますし、場合によっては新しいOSのほうが悪いと言いかねないのです。

セクハラで批判された財務省ですが、入省時や役職ごとの研修はあるものの、幹部が集まってセクハラ研修を受けるのは初めてだったそうです。研修の写真を見ると、多くの幹部が配布資料だけを前に置き、ペンすら持っていないことが分かります。これは研修を受ける態度でありません。

マスメディア企業の方からは「優秀な学生が来なくて」と相談されることが年々増えていますが、記者会見でくだらない質問をしてネットで叩かられたり、落ちませんおじさんという末路を見たら、まともな学生はマスメディアに行きません。時代遅れ感が半端ない。むろん、マスメディアも対応を進めていますが、ある新聞社の方に聞いたところ、管理職向けに研修をすると、講師に対する「意見」や「批判」がアンケートにこれでもかと書き込まれるのだそう。

OSの変化を受け入れることが出来ないおじさんたちを作ってしまった組織の罪であり、それが社会から罰を受けているのです。

社会の変化をチャンスと捉えよう

変化を受け入れないのは研修のあり方にも要因があります。

ハラスメント、多様性といった社会の変化に関する研修は、コンプライアンス、問題を起こさないリスク管理に位置付けられがちです。そうすると「面倒なこと」「表面的に守っておいたらいいのだろう」というネガティブな捉え方になり、変化に向き合うことが出来ない人が生まれます。なにより、参加していても楽しくありません。

多様性、寛容性、などはビジネス組織や都市の競争力、新たなアイデアを生み出す源泉として注目されています。リスク管理ではなく、研修は新しい世界を知る、チャンスであり、オポチュニティである、とポジティブに考えられるはずです。

おじさんを笑う女性も若者も、いずれ、おばさん、おじさん、になっていきます。インターネット業界も、年齢を重ねて、ふと経営陣を見るとおじさんばかり、という状況が生まれています。若かった組織も歳を取ります。若くしたり、女性にしたり、も大切ですが、もっと大切なことは、常にアップデート出来る組織にどうするかです。だからこそ、組織は社会というOSのアップデートに向き合い、変化を促していく必要があるのです。

ジャーナリスト

徳島新聞社で記者として、司法・警察、地方自治などを取材。NTTレゾナントで新サービス立ち上げや研究開発支援担当を経て、法政大学社会学部メディア社会学科。同大学院社会学研究科長。日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)代表運営委員。ソーシャルメディアによって変化する、メディアやジャーナリズムを取材、研究しています。著書に『フェイクニュースの生態系』『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』など。

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