「どうする家康」まだまだあった。徳川家康と井伊直政の邂逅に関する異説
大河ドラマ「どうする家康」では、徳川家康と井伊直政との邂逅のシーンが描かれていた。今回は、家康が直政に邂逅したときの異説について、詳しく考えることにしよう。
『徳川実紀』によると、鷹狩の道すがら、家康の目にただものとは思えない小童が入った。この小童こそが直政である。直政は父の直親が「遠州忩劇」（今川氏と国衆との争乱）で亡くなって以後、三河国（鳳来寺）に潜んでいた。
その後、家康は、直政が松下源太郎の養子になっていたことを知った。そこで、家康は、すぐに直政を招き寄せて、配下に加えたというのである。
ここでは、家康と直政の邂逅は、偶然ということになっている。また、直政のことを「ただものではない」と書いているが、これは割り引いて考えるべきなのかもしれない。
新井白石の『藩翰譜』にも、家康と直政の出会いについて、次のように記されている。
天正３年（１５７５）２月１５日、家康が鷹狩のため浜松城を出発し、道端をご覧になると、面構えが尋常でない子供（直政）がおり、何事かとお考えになった。
家康は「誰の子供であるのか」と尋ねたところ、よく知っている人がいて「この子こそ遠江の井伊（直親）の孤児である」と述べ、昔のことを説明した。
すると、家康は「不憫である。私に仕えなさい」と直政を召し抱えたところ、さすがに名のある武士の子である。家康は頼もしいとお考えになり、本領を与えた。
この記述も、家康と直政の出会いを偶然の出来事としている。『徳川実紀』と『藩翰譜』の内容が共通しているのは、幼少期の直政のただならぬ姿（内に秘められた才覚）、家康の人の能力を見抜く力である。
家康は、小童が井伊家の流れを汲むとは知らず、その面構えや身体から発する気迫のようなものを感じ取った。いずれの史料も江戸幕府が関係しているので、家康の慧眼を称賛している可能性が高い。
以上のように、家康と直政の出会いが事前にセッティングされたものか、あるいは偶然なのかわからないが、偶然のほうが劇的である。やはり、創作臭が漂うところであり、２人の邂逅の事情はさらに検討を要しよう。
