シリア北東部のフール・キャンプでクルド赤新月社の救急隊員がイスラーム国と思われる2人組によって殺害
シリア北東部のハサカ県にあるフール・キャンプで1月11日、クルド赤新月社の救急隊員1人が何者かによって殺害された。
フール・キャンプとは?
フール・キャンプはアルホール難民キャンプなどと呼ばれる。クルド民族主義組織の民主統一党(PYD)が主導する自治政体の北・東シリア自治局が支配するシリア北部および東部における最大の難民・国内避難民(IDPs)収容施設である。
湾岸危機・湾岸戦争が発生した1991年にイラクからの難民を収容するため、フール町近郊に建設された。その後、一時閉鎖されたが、イラク戦争が勃発した2003年に再開され、同戦争、そしてその後のイラク国内の混乱を逃れてきたイラク人難民を収容し、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)や同人道問題調整事務所(OCHA)といった国連機関が支援を行ってきた。
2014年にイスラーム国が台頭すると、イラクからの難民だけでなく、シリアのIDPsを収容する施設としても利用されるようになり、その規模も一気に拡大し、現在に至っている。
キャンプは6つの区画、8つのブロックから構成されている。6つの区画のうち、第1区には、イスラーム国とつながりがないシリア人IDPs、第2区と第3区にはイラク難民、第4区にはイスラーム国とつながりがあるとされるシリア人IDPs、第5区には欧州出身のイスラーム国メンバーの家族、そして第6区にはそれ以外の外国人戦闘員の家族が収容されている。
一方、8つのブロックのうち、第1、2、3、7ブロックにはイラク人難民が、第5、6、8ブロックにはシリア人IDPsが、第4ブロックにはイラク人難民とシリア人IDPsの両方が収容されている。
また、この8ブロックとは別の場所に、シリア、イラク以外の国の出身者が収容されている。
キャンプは、北・東シリア自治局が所轄するキャンプ局の管理下に置かれ、「アサーイシュ」の名で知られる内務治安部隊や、PYDの民兵組織である人民防衛隊(YPG)を主体とするシリア民主軍が治安警察活動を担っている。だが、2019年3月のダイル・ザウル県バーグーズ村での戦闘に際して投降した6,000人とも言われるイスラーム国メンバーとその家族を収容して以降、キャンプ内の治安が悪化し、殺人、集団暴行事件が後を絶たない。
治安の混乱、そして劣悪な人道状況ゆえに、フール・キャンプは、イスラーム国(ダウラ・イスラーミーヤ)をもじって、「ドゥワイラ・フール」(フール小国、「ドゥワイラ」は国家を意味する「ダウラ」(dawla)の縮小語)、あるいは政治犯の収容で知られる政府支配下のサイドナーヤー刑務所(ダマスカス中央刑務所)にちなんで「サイドナーヤー・カスド」(カスド(QSD)はシリア民主軍のアラビア語名の頭字語)などと呼ばれることもある。
事件の詳細
PYDに近いハーワール・ニュース(ANHA)によると、11日に殺害されたのは、キャンプ内に設置されたクルド赤新月社の医療ポイントで医療活動にあたっていたムハンマド・ムハンマド氏(1995年生まれ)。
犯人はキャンプ内で活動を続けるイスラーム国のセルのメンバーと思われる2人組。偽造IDを携帯し、患者を装って医療ポイントに侵入し、ムハンマド氏に銃弾2発を放って殺害したという。
殺害の動機は不明。
クルド赤新月社は欧州のNGO
ムハンマド氏が参加していたクルド赤新月社は、ドイツ、スウェーデン、英国で慈善団体として登録している複数のNGOが1993年に統合して結成した組織。北・東シリア自治局の支配地域を中心に活動を行っているがシリアのNGOではなく、シリアの法律のもとに公認された慈善団体でもない。また、国際赤十字赤新月社連盟は、1カ国1組織を原則としているため、この組織を承認していない。