投資をすると幸せになれる!?~投資とウェルビーイングについてひふみの新投信を見て感じたこと~
【YouTubeに解説動画アップされてます。リンクは記事末尾に】
投資をすることで私たちは幸せになれるのか?
ひふみ投信の新しい投資信託「ひふみクロスオーバーpro」が話題です。国内の未上場企業を中心に投資する投資信託で、かつ上場後も安易に手放さず成長を支援する、という触れ込みです。従来であれば個人が小口投資できなかったところに食い込んでくる、よい商品だと思います。
さて、この商品のプロモーションにおいて、投資信託「ひふみ」シリーズの最高投資責任者(CIO)としてメディアにも露出の多い藤野英人さんが「ウェルビーイング」というキーワードをコメントしていたのが気になりました。
私が拝見していた記事広告において、このような記載がありました。
ここでは「投資をした人は幸せになれるか」というテーマが示されています。
実は私、ウェルビーイング学会(ファイナンシャル・ウェルビーイング分科会)に所属していて、お金とウェルビーイングの関係についていろんな方々と議論をしています。今月中旬には日本FP学会でファイナンシャル・ウェルビーイングについて発表を予定していて、そこで「投資とウェルビーイング」についてどこまで話そうかと考えていたところでした。
ちょうどいいタイミングなので、ここでちょっと、「投資とウェルビーイング」についてまとめてみたいと思います。
参考)Forbes スタートアップ成長に橋を架ける 結実した10年の夢 「クロスオーバー投資信託」
お金を稼げることは確かに幸福度向上につながる それは否定できない
最近よく耳にする「ウェルビーイング」という言葉、個人にとっては「幸せ」、行政視点では「福祉」と訳されたりしますが、個人の幸せ、豊かさを幅広く捉えている言葉です。
ウェルビーイング研究が近年進んでおり、企業経営にこれを活かそうという動きもあります(例えば幸福度の高い社員の生産性はそうでない社員と3割違うという)。
一方で、ウェルビーイングの文脈では、しばしば「お金と幸せは関係ない」「お金がなくても幸せになれる」と説明されます。確かに預金通帳の残高よりもメンタルの安定、家族との良好な関係や趣味・生きがいから感じられるウェルビーイング向上が重要なのは確かです。例えば推し活はお金を出費しますがウェルビーイングを高めます。
しかしながら、一定水準を下回る年収や貯蓄ゼロの状態では、どんなに家族が仲良くても満足のいく日常生活を営めません。将来不安を消すことができません。
内閣府調査などでは、やはり世帯年収が一定水準以下、具体的には年収300万円以下だと幸福度が明らかに低くなっています。確かに年収が300万円を超えてこないと日々の生活にまったく余裕が生まれないでしょう。幸福を実感しにくいはずです。
お金と幸せは無関係だとするのではなく、やはり安定した仕事をし、日常生活に困らない稼ぎを得ることは、私たちのウェルビーイング実現の一歩目だと向き合う必要があると思います。
一方で、何千万円も稼げば幸せが倍々ゲームに増えていかないことも研究では分かっています。同調査では年収3000万円を超えると幸福度がむしろダウンしていて、年収1000~2000万円未満と同程度になります。
年収1000万円を超えたあたりからは、「より多く稼げば幸せというわけではない」という問題に向き合っていく必要があります。この先は仕事の楽しさや人間関係、世の中の役に立っている実感などがウェルビーイングを高める要素となってきます。
参考)内閣府「満足度・生活の質に関する調査」に関する第1次報告書
資産額が多い人、順調に増やしている人ほど、幸福度は高い傾向がある
まずは「年収と幸福度」について触れてみましたが、次に「資産額と幸福度」について考えてみます。貯金ゼロの人よりも貯金100万円の人のほうがいきなり会社をクビになっても耐えられます。資産がある人のほうがお金の不安は小さくなるため、幸福度は高まると考えられます。
一方、何千万円貯めれば幸福度は落ち着くのか、という問題もあります。いくら貯めてもお金の不安が消えないという人もいますし、収支トントンでも働き続けることができれば十分に幸せという人もいます。MUFG資産形成研究所のレポートでは、2つのポイントが示されています。
まず、保有資産の増はおおむね幸福度の向上につながるということです。保有資産ゼロの状態のウェルビーイングと比べ、保有資産が1500万円を超えるところでほぼ2倍のスコアとなっています。資産の有無は幸福度に大きく影響しているということです(一方で5000万円を超えたあたりで幸福度の上昇は打ち止めになります)。
また、年収が同程度であった場合、資産額が多い人のほうがウェルビーイングが高くなる傾向も示されています。年収が同程度で資産が多い、ということは、年収の多くを資産形成に回せる人ほど幸福度が高い、といえるわけです。
家計が安定していることは年収によらず幸福度を高めるという調査が、第一生命経済研究所のデータでも示されており、やはり方向感は一致しています。
参考)MUFG資産形成研究所 データで読み解くファイナンシャル・ウェルビーイング
参考)第一生命経済研究所「第12回ライフデザインに関する調査」
投資はお金を増やすことと、世の中が良くなったことにお金が使われることで、幸せになれる
投資からもたらされるウェルビーイングについてもう少し考えてみます。といっても、投資は本質的には「お金を増やす」行為です。ここを無視すると、しばしばあやしい投資話に誘導されますのでご注意ください。
「資産はマイナスだけど、いい会社に投資をしているので私は幸せだ」というのは、資産増を必要としていないならOKですが、投資はあなたの資金ニーズを実現するためのお金を増やす手段であることは第一です(資産額が増えることが幸福度向上になるのは前述のとおり)。
元本割れしていることそのものは事実として受け入れる必要があると思います。そのうえで、短期的にはマイナスになるがそれも投資の一過程である(最終的には増えるはず)、と整理できていれば、マイナスの容認としてOKです。
また、お金を増やす投資を、悪いことやズルいことと考える視点から脱出する必要もあります。ズルいことでお金を増やすのであれば、私たちは投資からウェルビーイングを感じることができないからです。
一般的には投資でお金を増やすことはズルいことと誤認されていたり、楽をしてお金を増やす手段として軽視されています。しかし、私たちがNISAやiDeCoなどを通じて、少額の長期積立分散投資を行うとすれば、経済の成長や発展、世界の日々の経済活動の積み上げからその資産価値の上昇が得られるはずです。
確かに、社会経済の発展が投資資金の増をもたらしてくれたと実感しにくいのも事実です。株価は現実に先行して評価を行うことがあります(例えば、nVIDIAのように成長力が高い会社の場合、何年も先の成長も加味して株価が形成されるため異常に値上がりしたり急落することがある)。
しかし、短期的には投機家が株価を動かすことはあっても、長期的には実体経済とつながって、消費者に受け入れられなければ企業は成長しません。株価も同様です。
iPhoneを発売し、世の中を便利で豊かにしたからApple株は上昇したわけですし、フリースに代表される安価で高品質なアパレルの提供が社会に評価されてユニクロ(ファーストリテイリング)を成長させたわけです。そこにズルや悪いことは何もありません。
そう考えることができれば、投資家は「世の中の成長や豊かさの獲得が私の投資資金を増やしてくれた」と感じることができ、ウェルビーイングを二重に高めることになります。豊かさへの寄与と、そもそもの資産価値の上昇のふたつです。
ところで、投資そのものが幸福度を高めるかとズバリ聞いたデータとしては、ブラックロックの調査があります。投資をしている個人は、投資をしていない個人よりも幸福度が高いかという観点で、投資をしている人のほうが幸福度が20ポイントも高い結果となったそうです。
参考)ブラックロック 資産とウェルビーイングに関するグローバル調査
最後に、インデックスよりアクティブ運用や個別株投資がいいのかという問いが出る
企業の成長を実感できる投資は、投資をする個人のウェルビーイングを高めてくれる、とするなら「インデックス運用」より「アクティブ運用」あるいは「個別株投資」のほうがいいのではないか、という議論が出てきます。
インデックス運用というのは日経平均株価やS&P500、あるいはオールカントリーなどの株価指数の採用銘柄を投資対象とし、値動きも基本的に株価指数の動きに準じるものです。その分、低コスト運用が可能になります。例えばオールカントリー系で全世界へ投資をする人気の投資信託は年0.06%くらいしか運用コストがかかりません。ただし、たくさんの会社に同時投資されすぎてしまい、どの会社に投資をしているかはほとんど分かりません(分散投資としては有意義ですが)。
これに対してアクティブ運用は、運用会社が投資信託ごとに投資対象や投資方針を定めて、一律にインデックス銘柄を買わない投資方法です。AI関連だけ買うとか、成長の余地が大きい会社だけ買うとか、投資信託ごとにその特色を競います。冒頭に紹介したひふみ投信はアクティブ運用の会社であり、新ファンドもアクティブ運用の仲間です。
アクティブファンドのほうが投資実感を持ちやすいのは間違いありません。著名な運用責任者(ないし投信会社の経営者)が顔を出して、投資方針について熱く語ってくれます。さらに投資対象となった企業が直接出てきて自社の取り組みについて語ってくれることもあります。こういう経営者の話は感動的なものばかりです。
これと比べると、インデックスファンドは実感が持ちにくいでしょう。「とりあえず日本の上場企業全部、自動的に買っておきます(TOPIXのインデックス運用)」では、投資のウェルビーイングを持ちにくいところはインデックス運用のウイークポイントです。(アクティブ運用を行う会社の人たちがウェルビーイングを熱く語ることは、インデックス運用との差別化の理由もある)
一方で、インデックス運用は投資の負担が軽くてすむ、つまり投資を実行するストレスが軽減される効果もあります。私はほとんどの個人はインデックス運用で十分だと考えています。なぜなら、日々の仕事に集中したり、家事育児、趣味の時間を確保することが人生の優先事項であって、誰もが個別銘柄やアクティブファンドの値動きについて時間を割くような負担をしえないと考えるからです。
また、アクティブ運用はその性格上、高コストにならざるを得ません。仮に年1.5%のコストを必要とすれば、前述の年0.06%との差は圧倒的です。
あなたがもし、インデックス投資からスタートし、投資に興味を持ち、参加意識を持ちはじめたなら、個別銘柄を選んだり、投資信託を選択するのもあっていいと思います。
ウェルビーイングと投資の関係について「アクティブじゃなくちゃダメなのか」問題については、まだ議論も十分でなく、データも不十分です。ここでは結論を出さないことにしたいと思います。
投資は幸せになるツールと考えてみたい
今日伝えたかったポイントをもう一度まとめますと
- お金と幸福度の関係は強い。このことを抜きにウェルビーイングを語ることはできない。
- 年収が一定額を上回るほど、また資産形成が順調な人ほど幸福度は高い。
- 投資は社会を発展させる力であり、かつ資産額を増やす手段と考えれば、これもウェルビーイングを高める一要素である。
というところでしょうか。
投資を金儲けの手段としてだけ捉えるのはもったいないことです。あなたの未来の幸せを確実に手にするために経済的安定を確保することは「ウェルビーイング向上手段」ですし、投資そのものが世の中を発展させ豊かにする力を持つ「ウェルビーイング向上手段」です。
投資は何重の意味においても、私たちを幸せにできる「ファイナンシャル・ウェルビーイング」の仕組みだと考えてみてはどうでしょうか。
……以下本記事テーマに関連するおしらせです……
※「ファイナンシャル・ウェルビーイング」という本、出してます。出版社のリンクこちらにつけておきます
※2024年9月21日、日本FP学会で「FP が意識するべき顧客のファイナンシャル・ウェルビーイング〜幸福度向上をライフプランニング、マネープランにどう組み入れるか〜」を報告します。CFPの方は学会員でなくても受講可能です。
※2024年9月30日から全6回で、早稲田大学エクステンションセンターで「ファイナンシャル・ウェルビーイング入門」を開講します。興味がある方は、早稲田大学エクステンションセンターHPをご確認ください。
※YouTubeでも解説しています。チャンネル登録よろしくお願いします。