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チアリーダーらを撮影するため朝日新聞の記者を装った男 問われた意外な罪とは

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:イメージマート)

 チアリーダーらに対する盗撮が社会問題となる中、大学野球が開催された神宮球場で朝日新聞の記者を装い、取材の名目でチアや応援団の学生らを撮影しようとしたとして、消防職員の男が意外な罪で警視庁に逮捕された。刑法の私印等不正使用罪だ。容疑を認めているという。

名刺がポイントに

 警察官や検察官などの公務員を詐称したら、それだけで軽犯罪法違反に問われる。しかし、民間企業の社員を装っただけだと、罪にはならない。それに加え、一流企業の社員だと信用させてお金をだまし取ったり、契約書などを作成したりすれば、詐欺罪や私文書偽造罪などに問われることになる。

 しかし、今回の男は、記者になりすましただけでなく、応援団の学生らに朝日新聞の記者の名刺まで渡していた。この名刺が犯罪の成否を分けたポイントとなる。というのも、他人の印章や署名を不正に使用した場合、刑法の私印等不正使用罪が成立するからだ。

 最高で懲役3年であり、罰金刑がないから、罰金を払って終わりということにはならない。たとえ私人による署名などであっても、社会的信用性を保護する必要性が高いからである。

 そこでいう「署名」は自署に限らず、印刷された記名を含むというのが判例の立場だ。したがって、他人の氏名が印刷された名刺を使い、本人を装って渡したら、私印等不正使用罪に問われることになる。

余罪の解明も焦点に

 男はことし4月頃から同様の犯行を繰り返し、実際にチアらを撮影したケースもあったという。一向に記事にならないことを不審に思った大学側から朝日新聞に連絡があり、警視庁に相談して発覚した。

 名刺に氏名が印刷されていた社員は実在したものの、退職者である上、男の自宅からは「報道」と記載された腕章のほか、同様の名刺が多数発見されたという。男が記者の名刺を勝手に自作したのであれば、私印等偽造罪にも問われることになる。余罪の解明も焦点になるだろう。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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