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ネットメディアはオリンピック報道のバイアス是正に貢献しているのか。

谷口輝世子スポーツライター
(写真:アフロ)

 連日の日本人選手の活躍で、ピョンチャンオリンピックは盛り上がっている。日本代表選手の好結果は、新聞の一面やテレビニュースでもたくさん取り上げられているようだ。

 新聞やテレビといった伝統的メディアは、紙面のスペースや放送時間が限られているため、すばらしい結果を出した選手や注目の競技の報道が中心になる。そのため、他国の選手のパフォーマンスや、注目度の低い競技種目や選手については伝えたくても、十分に伝えることができない。

 では、スペースや時間の制約を受けにくいインターネットメディアならば、できるだけ多くの競技の多くの選手を取り上げることができるのだろうか。

 2012年のロンドン五輪で6カ国のオンライン媒体を調査した研究結果がある。A Unified Version of London 2012: New-Media Coverage of Gender, Nationality, and Sport for Olympics Consumers in Six Countries

 オーストラリアのグリフィス大学と米国のインディアナ大学の研究者によるものだ。

 過去の新聞やテレビでのオリンピック報道は、自国の選手、男子選手、特定の競技の報道に偏る傾向があり、問題として指摘されてきた。オンラインによる報道でも、同じ傾向があるかどうかを調べたものだ。

 過去のオリンピック報道が自国の選手、男子選手、特定の競技に偏りやすいことは、複数の調査結果に明らかになっている。

 調査対象となった6カ国は、オーストラリア、ブラジル、中国、英国、ケニア、米国。それぞれその国の主要なインターネット媒体を1つ選び、その媒体がオリンピック期間中に配信した記事を分析したものだ。オーストラリアはナインMSNニュース、ブラジルはテラニュース、中国は新華社電子版、英国はBBCニュース、ケニアはザ・デイリーネイション、米国はヤフーを対象にしている。

 調査結果は、インターネットメディアは、伝統的メディアよりに比べて、

 男子選手ばかり報じるということはほとんどない。

 自国の選手ばかり報じるということはほとんどない。

 特定の競技ばかり報じるということもほとんどない。ということが分かった。

 インターネット媒体でも、男子選手に関する報道のほうが、女子選手よりも多かったが、代表選手の性別の割合はこれまでの報道と比べると偏りは少ないそうだ。

 また、自国の選手の報道については、オーストラリアのナインMSNニュースとケニアのザ・デイリーネーションが全体の50%強を占めているが、その他の4つの媒体では30%台にとどまっている。

 種目別については、ケニアでは、サッカーの報道が全体の66%と突出し、以下は陸上が16.9%、ボクシングが2.3%だった。オーストラリアは水泳が約20%、陸上が18.5%、バスケットボールが6.8%。開催国のメディアであるBBCでは、陸上が9.9%、水泳が7.9%、ボクシングが4.3%だった。

 オリンピック・パラリンピックは短期間に多くの競技が行われるという巨大で特殊なスポーツイベントだ。伝統的メディアは、スペースと時間に限りがある。オンラインメディアは伝統的メディアを補う存在になってきたのかもしれない。この調査では報道のひとつひとつの内容までを精査したわけではないので、オンラインメディアのオリンピック報道のなかにナショナリズムを過剰に煽る表現があったかどうか、性差別を助長する表現があったかどうかは分からない。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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