「渋谷ハロウィンは若者が勝手に集まった」は本当か? 過去の記録を調べてみると……
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今年も渋谷ハロウィンがやってきたということで、忠犬ハチ公像の周辺が封鎖されたりスクランブル交差点に厳戒態勢が敷かれたりと若者による迷惑行為が警戒されていますが、そもそも渋谷ハロウィンはどういう流れで生まれたのでしょうか?
SNSでは「若者が勝手に集まった」とか、「いやその前に行政が集め始めたんだ」などの意見が出ていますが、実際のところはどうだったのか気になったので調べてみました。
結論から先に言うと地元商店街が秋の祭りにして人を集めようと仮装パレードを始めたことがきっかけです。
1980年代に渋谷区恵比寿・代官山周辺の商店会や企業が仮装パレードを開催
新聞・雑誌記事横断検索サービス『G-Search』で「渋谷 ハロウィン」を調べたところ、一番古い報道として1987年に地元の商店街や企業が「街の秋の名物行事にしたい」という考えから仮装パレードを開いたことを伝える記事が見つかりました。
ハロウィン仮装、楽しいゾ 東京・恵比寿、代官山に2000人 商店会など企画
キリスト教の聖者を祭る万聖節の前夜祭、ハロウィンを日本でも楽しもうと、渋谷区の恵比寿・代官山周辺の商店会や企業が、この三十一日、盛大な仮装パレードと大会を開く。二千人が参加する予定。成功すれば、長く地元の“秋祭り”にしたいと、関係者は意気込んでいる。
(中略)
仮装の中心になるのは、周辺の町会や企業関係者約四百人。一般の参加は、仮装をしてくることが唯一の条件。昨年は、ロボット、人間タワーも出現し、周りの笑いをさそった。主催者は子供たちに、意表をつく仮装で、小さな楽器を持って集まり、盛り上げて欲しいと呼びかけている。
読売新聞 1987.10.18 東京朝刊
百貨店もハロウィンイベント商法で売上を狙う
また、翌年の1988年にはハロウィンであまり商品が売れなかったため、全国の百貨店が10月16日を「ボスデー(上司の日)」と称して記念日ビジネスとしての売上を狙っていたことも報じられていました。
売れるかな 10・16「ボスデー」 遊び感覚でギフト企画
10月16日を「ボスデー(上司の日)」と称して、百貨店は全国的にキャンペーン中だが、商戦もいよいよ佳境に入った。5兆円といわれるギフト市場の拡大をあてこんだ新手の“記念日ビジネス”。若者の遊び感覚をねらった、たくましい商魂だが、米国からきたこの記念日が日本に定着するかどうか。仕掛人の百貨店側も確信はない。
(中略)
「昨年あたりから始めた10月31日のハロウィンも、パーティーウエアが売れる程度で、ギフト商戦としてはいまひとつ。ボスデーは業界にとってみれば格好のイベント」(西武百貨店渋谷店)。クリスマス前で、やや停滞気味の商戦の“活性剤”というわけだ。
朝日新聞 1988.10.13 東京朝刊
このハロウィン商戦はこのあと1990年になっても続いていっていることが伺えます。
5万円で究極の変身 西武渋谷・ロフト館にSFXメーク登場 東京
この2、3年、デパートのハロウィン商戦が活発化しているが、西武百貨店渋谷店・ロフト館に本格的なSFXメークが登場した。「SFXで究極の変身」と若者受けを狙う。オオカミ男など好きなものに仮装できる。衣装類まで含め5万円のコースという。
朝日新聞 1990.10.30 東京地方版
当時は地元商店街も企業も、とにかくハロウィンで売らんかなとしていたようです。
外国人や日本人が大暴れして警察が出動
そしてハロウィンで人を集めた結果、5年後の1992年には外国人や若者による騒動が発生し、警察が出動する事態が起きています。
ハロウィン用に仮装した外国人500人が駅で大暴れ 駅職員や警察が出動
キリスト教国の恒例行事「ハロウィン」にあたる10月31日、東京の山手線ホームや電車内で、ハロウィン用に仮装した外国人、日本人が大暴れし、駅職員や警察が出動する騒ぎが起きた。
渋谷駅などによると、この日午後9時15分ごろ、顔を真っ白に塗るなどの仮装をした外国人に日本人も交じって500人以上の男女が気勢を上げながら渋谷駅から山手線に乗り込み、電車内で歌を歌うなどの騒動を繰り広げた。仮装した男女は一駅ごとに乗り降りを繰り返し、新宿駅まで行った後、また渋谷駅まで引き返し、2時間にわたって騒ぎを続けた。
渋谷駅では昨年の10月31日も電車内の照明が割られるなどの被害が続出。今年は駅員がホームに出て、通報を受けた警察も警戒に当たっていたところだった。
日刊スポーツ 1992.11.01
このさらに5年後の1997年にも警察が出動する騒ぎになっています。
ハロウィン仮装の外国人 電車内で300人大騒ぎ、2人を逮捕 山手線に遅れ
一日午後十時ごろ、東京都渋谷区道玄坂のJR渋谷駅で、駅職員から「山手線外回りの電車内で外国人が騒いでいる」と警視庁渋谷署に連絡があった。
渋谷署の調べでは、四両目の車内で顔にメーキャップするなどハロウィンの仮装をした外国人約三百人が酒を飲んで騒いでおり、うち約二百人が同駅で下車していた。
混乱を収拾しようと署員が駆けつけたところ外国人に暴行を受けるなどしたため、ニュージーランド人ら男性二人を公務執行妨害などの現行犯で逮捕した。
産経新聞 1997.11.02 東京朝刊
つまり、ここ最近だけが荒れていたわけではないようです。
渋谷ハロウィンは30年前も荒れてました。
商店会のハロウィンを使った人の呼び込みは続く
とは言え、こうした事態を受けても商店街側はイベントの開催をやめることはなく、その後も仮装パレードは続けられていきました。
3000人がハロウィンの仮装パレード 渋谷・表参道 /東京
キリスト教のお祭りの一つのハロウィンにちなんだ仮装パレードが三十一日、渋谷の表参道であり、魔女や妖精(ようせい)姿の親子連れや若者たち約三千人が奇抜な衣装を競った=写真。
地元の商店会が一般から参加者を募って催した。表参道には高級ブティックや外資系企業が多く、地元意識が薄いのが商店会の悩みだった。ハロウィンなら関心をひけ、客も集まるのではと昨年から始めた。
朝日新聞 1993.11.01 東京地方版
1997年の記事では仮装パレードは17回目にもなることがわかりました。
ハロウィン盛り上げよう 26日、東京・原宿の表参道で仮装パレード
「ハロウィン」にちなんだ仮装パレードが二十六日、原宿の表参道で開かれる。十七回目を迎え、原宿の秋の風物詩としても定着し、今年も歩行者天国となる表参道を、約一時間かけて歩く。
「ハロー ハロウィーンパンプキンパレード」と題し、地元商店街組合の「原宿シャンゼリゼ会」が主催するイベント。最近では、在日外国人らの家族連れなどを含め、約二千人が参加するまでになった。
読売新聞 1997.10.19 東京朝刊
『G-Search』で最古の記事は1987年でしたが、単純計算で1980年から仮装パレードイベントが始まっていたことが分かります。
2000年代から企業が渋谷ハロウィンに乗っかり始める
こうして地元商店街や企業が頑張った結果、ハロウィン=渋谷という文化が出来上がりました。
そうした文化に、今度は首都圏の企業が乗っかり始めました。
例えば川崎市や横浜市でも同じようなハロウィンのお祭りが開催され始めたり、
米は活況ハロウィン3400億円市場 日本もじわり浸透、各地で催し
三十一日には、渋谷区で「原宿表参道ハローハロウィーンパンプキンパレード2004」が開催されるのをはじめ、「カワサキ ハロウィン」(川崎市川崎区)、「よこはまハロウィン祭り2004」(横浜市青葉区)など各地でイベントが開催される。
東京ディズニーランド(千葉県浦安市)やユニバーサル・スタジオ・ジャパン(大阪市此花区)といったテーマパークも、この時期になると大々的なイベントを開催する。
各地や大型テーマパークで行われるこうしたイベントは、ハロウィンの認知度をあげる効果もある。クリスマスのように幅広い層にまで浸透すれば、日本でも米国同様の「ハロウィン市場」の誕生となるだろう。
日本工業新聞社 2004.10.31 FujiSankei Business i
パレードを開いていた商店街とは異なる渋谷公園通商店街振興組合や明治通り宮下パーク商店会などが連携してハロウィンパレードを含むイベントを始めたり、
「JK渋谷シンデレラ-」MCに浜田ブリトニー
女子高生の聖地、東京・渋谷で28日に参加型ショッピングイベント「JK渋谷シンデレラショッピング」(主催・JK渋谷シンデレラショッピング実行委員会)が開催される。
渋谷シダックスビレッジクラブの1フロアを借り切って、女子高生が厳選したブランド商品などを特別価格で購入できるショッピングモールを開設。宮下公園周辺では仮装した女子高生によるハロウィンパレードも行われる。
サンケイスポーツ 2012.10.21 サンスポ エンタメ/芸能界
テレビ番組や芸能人がハロウィンを取り上げたりしていきました。
きゃりーぱみゅぱみゅ(19)ハロウィーンイベントでコスプレ披露 / いつの間にかこんなに… 日本中でハロウィーンフィーバー
きゃりーぱみゅぱみゅがハロウィンイベントでコスプレを披露したことについて紹介。数匹のゴーストを頭に抱えた奇抜な衣装で登場したが、イベント開始13分後に重くて外してしまった。番組が選んだ、2012年ハロウィン仮装写真展を紹介。渋谷スクランブル交差点で一般人が戦隊もののコスプレで整列したり、マクドナルド前ではドナルドの格好をした人が集結した。
株式会社ワイヤーアクション 2012.11.04 TBS アッコにおまかせ! 芸能
2000年代は、「ハロウィン=仮装パレードをするお祭り」として日本で広く認知された時代だと言えます。
地元商店街は子供向けのイベントに路線変更。しかし、若者の暴動は止まらない
ただ、上記で紹介したように人が集まるにつれて問題も多々起きるようになっていきました。
そのため、ハロウィンがテレビなどでも大きく取り上げられ始めた2010年代には、当初から仮装パレードを開いていた地元商店街は参加者を「子供と保護者」に限定しています。
親子でハロウィーン 仮装パレード 無料貸衣装も
27日に開催予定で今年で31回目を迎える「原宿表参道ハローハロウィーンパンプキンパレード」は、12歳以下の仮装した子供と保護者が東京都渋谷区の表参道周辺をパレードする。商店街振興組合の原宿表参道欅(けやき)会の主催で、約30の協力店舗を回るとお菓子がもらえる。参加には、子供1人1000円の参加証購入が必要となる。
読売新聞 2013.10.14 東京朝刊
※筆者注:地元商店街は商店街振興組合として法人化しており、名称が「原宿シャンゼリゼ会」から「原宿表参道欅(けやき)会」に変更されています。
しかし、そうした対応をしてもすでに若者は集まってくるようになっていたため、2014年には機動隊が出動し、
仮装ハロウィーンの金曜日 機動隊も…渋谷が大混乱
ハロウィーンの金曜日渋谷などに仮装した人たちが集結し、お祭り騒ぎになっていた。異常な雰囲気の中、大混乱の交差点に警察や機動隊が出動する事態になった。外国人の方に話を聞くとイタリアではこんな仮装をした人はいないや奇妙な光景でこんなハロウィン見たこと無いなどと話している。海外のハロウィンは家を装飾したり子どもがお菓子を貰いに来たりするもので、大人がコスプレをするのは日本流だ。外国人の中にはいっしょにコスプレをする人や写真を撮る人など興奮している人たちもいた。
株式会社ワイヤーアクション 2014.11.02 関西テレビ 新報道2001
2015年も警察を殴って逮捕される若者が出ました。
エアガンで警察官殴り逮捕も
ハロウィンの夜、東京渋谷のスクランブル交差点とその周辺に数えきれない程の若者らが集まり、警察官と口論になる人や酔っ払って逮捕される人、中には道交法に違反する恐れのある行為をする人などがいた。こうした様子は海外でも報じられた。スクランブル交差点近くの商店では土曜にも関わらず夕方に店を早仕舞いせざるを得なかった。
株式会社ワイヤーアクション 2015.11.02 テレビ朝日 スーパーJチャンネル 報道
このようなことが続いた結果、もはや渋谷ハロウィンは地元商店街にとっては売上の上がらない悪夢のイベントになってしまったというわけです。
厳戒 地元怒り「渋ハロ」本番
今夜本番の「渋ハロ」で厳戒態勢。28日、一部が暴徒化し逮捕者が出た。昼から若者が集まり始めた。年越しやサッカーW杯時もお祭り騒ぎになる。日曜、券売機に水を入れられ壊されたラーメン店は映像を公開し、男性が謝罪に。名乗りでたことで被害額160万円を請求し、被害届は取り下げた。「経済効果があるから良い」という若者もいるが多くの店は客が入れない状態になり売り上げダウン。問題になっているのは着替え。紳士服店では仮装者の入店を拒否するところも。駅付近の駐輪場では着替えスペースと仮設トイレを設置。警視庁は厳戒態勢で警備にあたる。
株式会社ワイヤーアクション 2018.10.31 テレビ朝日 スーパーJチャンネル 報道
こんなことになるとは当時は誰も分からなかったはず
今回、渋谷ハロウィンについて調べた結果、最初に始めたのは地元の商店街や企業であることが分かりました。
ただ、彼らにいま起きていることのすべての責任があるのかと言うとそういうわけではないと思います。
地元でイベントを開催して人を集めた結果、暴れてしまう人たちが現れ、警察官が警戒していても自然発生的に大暴れする若者が集ってしまうようになった。
この結末を当時から想定するのはムリがあります。
また、渋谷ハロウィンと比較して「カワサキハロウィン」はあまり問題がないという話がSNSで展開されているのを見かけましたが、これはイベントの開催側が間違った認識であり、「怒られ続けてきた」と明かしています。
22年目“川崎ハロウィン”が、「不良のたまり場」イメージから脱却できたワケ
最近、渋谷との比較で『カワハロ』が必要以上に“美化”されていますが、我々はこの20数年間ずっと“怒られ続けて”きました。毎年、大小さまざまな問題が見つかりますし、今も収まっていない問題もあります。『カワハロ』が、報道されているような“お行儀のいい”イベントというわけではないんです。
ORICON NEWS 2018-11-08
実際、コロナの影響とモラルの低下を受けて「カワサキハロウィン」は2021年に終了しています。
結局のところ、いまや渋谷ハロウィンも「どうやって終わらせるか?」という段階に来ているのではないでしょうか。