鬼滅の主人公・竈門炭治郎の嗅覚は警察犬並みか!? シェパードの臭気選別能力から考察
吾峠呼世晴(ごとうげ・こよはる)さんの『鬼滅の刃』は現在公開中の映画も数々の記録を打ち立てていて、社会現象になるほどの人気ですね。
コロナ禍の中、みなさんを感動させる物語の主人公は、何が凄いのか獣医師の視点から考えてみました。今回は、竈門炭治郎(かまど・たんじろう)の鋭い嗅覚について考察してみます。
炭治郎の鋭い嗅覚(ネタバレを含みます)
アニメの第一話『残酷』の冒頭部分で、街に炭を売りに行っている場面に以下のようなものがあります。
「…皿を割った犯人にされているんだ俺、助けてくれよ。嗅いでくれ」と濡れ衣を着せられた少年に頼まれています。
すると、炭治郎は、割れた皿のニオイを嗅ぎます。
「…フンフン 猫のニオイがする」と炭治郎が言います。そのことによって少年が皿を割っていなかったこと、真犯人は猫であることが証明されます。まるで探偵というか、警察犬のようですね。
それに加えて、知り合いの三郎爺さんは、夕方に自宅に帰ろうとする炭治郎に一泊するよう引き止めています。その場面でも
「俺は鼻が利くから平気だよ」と炭治郎は言っています。
三郎爺さんの家を後にして、竈門家に到着する前にも
「幸せが壊れるときは、血のニオイがする」と炭治郎はつぶやきます。
このように、炭治郎が、人とはかけ離れた鋭い嗅覚を持っていることとそれが物語で重要な役割を果たすことは、アニメの第一話から分かります。ちなみに、モチーフの「炭」がニオイと深く関わり、非常に高い消臭効果、脱臭効果を持つことは日常にあるお馴染みの商品からもみなさんよくご存知でしょう。
この炭治郎の生まれ持った能力も『鬼滅の刀』の魅力のひとつなのでしょう。次は、炭治郎の嗅覚と犬のコミュニケーションとしての嗅覚を見ていきましょう。
犬はニオイでコミュニケーションをしている
一般的な人は、言葉でコミュニケーションをしています。言葉以外の情報伝達の形はまったくと言っていいほど、関心を持っていません。
その一方で、炭治郎は猫や血のニオイを嗅ぐだけで分かります。犬の鼻には平均3億ほどの嗅覚受容体があります。人の鼻には500万しかありません。人は犬の60分の1ほどの嗅覚受容体です。この解剖学的な事実を見ても一般的な人は、嗅覚が犬に比べて鈍い点は、納得できますね。これで、炭治郎は皿を嗅いだだけで猫のニオイが分かるので、一般的な人の60倍以上は嗅覚が優れているのではないか、と筆者は推測しています。
犬は鼻を使ってものを見る
一般的な犬でも雄犬は、雌犬の排卵のニオイを嗅ぎつけることができるのです。
筆者が、高校時代に飼っていた雌犬のシェパードがヒート中(発情中)のとき、家の前には、家から脱走した雄犬が並んでいました。ヒート中に雌犬を散歩させていると、雄犬が寄ってくるので散歩中は注意が必要です。これも雌犬のニオイのためです。
その他に、犬はニオイで自分自身のものかそうじゃないか、理解できます。犬は嗅覚がずば抜けて敏感なのです。例えば、散歩中でも立ち止まってクンクンをしています。もちろん、診察室でも他の犬や猫のニオイがするのか、床のニオイもしつこいぐらい嗅いでいます。どんな犬が来たのかとか、嫌がって診察を受けたなどをニオイから分かっているのでしょう。犬の中でも特に、警察犬になるシェパードは嗅覚が優れているといわれています。それも見ていきましょう。
警察犬にもなるシェパードの嗅覚の鋭さ
犬は人より嗅覚が優れています。その中でもシェパードはその嗅覚で警察犬にもなっています。
シェパードの嗅覚の優秀さは、人の100万倍、あるいは1億倍であると主張する研究者もいます。シェパードなどは、汗に含まれるブチル酸などを物質に対しては人の100万倍も反応があると言われています。
例えば、汗を嗅ぎわけるものとして「小石投げ実験」というものがあります。6人の人たちが、めいめい小石を拾ってできるだけ遠くに投げます。犬は、この人たちの手のニオイを嗅ぎ、それぞれに人が投げた小石を間違えずに拾ってくるのです。つまり投げたときに、一瞬でついたニオイを嗅ぎ分けることができるのです。
他にも人の双子児が、一卵性か二卵性かが見分けることができます。人のニオイも遺伝によって決まった固有のニオイがあり、一卵性の双子児は、同じニオイがして、二卵性は異なるニオイがするそうです。
このような犬の特性、特にシェパードは嗅覚が鋭いので警察犬として、臭気選別ができます。
・臭気選別とは
犯人の物と思われる遺留品を想定し、そのニオイを元に犯人の物かどうか判断されるものです。
容疑者のニオイのついた布片を犬に嗅がせ、他のニオイの中から、選別させる能力です。
このような能力がある犬にかかれば、強いニオイの香水やスパイスなどでおおわれていても犬には分かるのです。
ニオイを嗅ぐ幸せ
犬は仕事でニオイを嗅ぐこともします。
でも、ニオイを嗅ぐ行為は、運動をすると同じように幸せなのです。米国のコロビア大学の心理学者・アレクサンドラ・ホロウィッツ氏(『犬であるとはどういうことか』(白揚社)の著者)よれば、犬はニオイを嗅ぐのが得意だけでなく、その行為を楽しんでいると言っています。炭治郎も多くのニオイが分かり、それから情報を得られるので嗅ぐ行為から、自分の強みとはっきり認識して、鬼と対峙するために生かしているのでしょう。アニメの八話『幻惑の血の香り』では、炭治郎は、家族を殺した宿敵・無惨( むざん)のニオイを記憶すると、別のシーンでは、相当な人混みの中で、すれ違った瞬間にそのニオイを嗅ぎ分けて特定してしまいます。まるでシェパード並みの臭気選別能力と言えるでしょう。
まとめ
作者の吾峠呼世晴さんは、このように人以外の動物の優れた五感に対しても深い知識を持たれて、登場人物のキャラクターをより魅力的に描かれています。炭治郎はこの嗅覚が鋭いことで、相手のニオイで位置を把握できる「隙の糸」や体調や心情まで読み取れるようになっていますね。他にも我妻善逸(あがつま・ぜんいつ)は聴覚、嘴平伊之助(はしびら・いのすけ)は触覚が優れています。
筆者が高校時代に飼っていたシェパードは、家族の誰かが出かけて家に戻ってくるとき、姿が見える前から、玄関のドアが開く前にニオイで分かっていました。鼻をあげてニオイを嗅ぎだしたなと思っていたら玄関に向かいます。すると家族の者が帰宅していました。音ではなくニオイでもそんなに理解できるのか、と驚いたことがありました。
炭治郎は、他者を思いやり優しいキャラクターで情に流されそうになりますが、この嗅覚を持つことで、より鬼を察知できるのでしょう。是非、この炭治郎の嗅覚も注目してみてください。