ひじきの鉄が激減(?)
私たち栄養士が根拠に基づいた栄養相談を行う上では欠かせない大切な本がいくつかあります。中でも栄養士必携といっても良いものが食事摂取基準と食品成分表です。
日本食品成分表はこれまで大きな改訂が何度か行われてきましたが、その最新版である2015年版が先日公表されました。収載食品が増えたこと、惣菜の栄養価計算の参考例、分析精度の向上などなど注目点の多い改訂となりましたが、一般の方の注目を集めたのは「ひじき」の栄養価でした。
■製法でこんなに違う鉄含有量
これまで「ひじき」の栄養成分は乾燥品の栄養価を分析したもののみ掲載されており、鉄の成分値は100gあたり55.0mgとなっておりました。これは様々な食品の中でもトップレベルの数値で、比較的不足しやすい鉄が補給できるありがたい食品として親しまれてきました。
2015年版では釜の材質による影響を考慮し、製法や調理操作ごとに「ひじき」だけで6種類の成分値を公表されました。
同じく成分表よりひじきの栄養価を一部抜粋します。
ステンレス釜と比べ、鉄釜で製造した乾燥ひじきには約9倍もの鉄が含まれており、乾燥ひじきの鉄の大部分が釜の鉄が溶け出したものであることがわかります。これは私の予想以上でした。ひじきは鉄がとても多い食品ではなく、鉄釜で製造した乾燥ひじきは鉄の多い食品なんですね・・・。
ひじきを使った料理を栄養計算するときには100gあたり55mgで鉄を計算していたわけですから、ステンレス釜製の製品を使っていた場合には期待するほど鉄が摂れていなかったということです。どおりで貧血が改善しなかったはずだ、という人もいるかもしれません。
■もう少し考えてみる
さて、成分値を抜き出してみたのでもう少し考察してみます。成分表には「ゆで」た場合の栄養価も示されておりまして、ひじきは水に戻してから使うことがほとんどですので、実際に食べる場合にはこちらの値の方が参考になるはずです。水で重量が増えた分、100gあたりの他の成分値は相対的に減るのは当然のことで、元の栄養価の10分の1から12分の1程度の少なくなることが予想されます。鉄を見ると、20分の1程度になっていますので、比較的水に溶け出しやすいと考えられますので、実際に食べて栄養としてとることができるのは「ゆで」の成分値に近いと考えるとよさそうです。
ステンレス釜加工の「ゆでひじき」では100g食べても鉄が0.3mgですから鉄だけを考えると補給は期待できないことがわかりますが、カルシウムは鉄製もステンレス製も同じであり、茹でても損失があまりないということはおぼえておいて良いでしょう。
■多様な食品からが正解
ひじきと鉄の話をしてきましたが、食べものと健康問題を考えるときには忘れてはならないことがあります。それは一つの栄養素や健康効果を期待して同じ食品ばかり食べることには危険がある、ということです。少量では有用であったり害が少ない成分であっても、食べ過ぎてしまえば体に悪い影響がでるという例はいくつもあります。生命維持に必要不可欠な食塩もそうですし、糖質や脂質も生活習慣病の元になります。
ひじきは鉄分が豊富だからという理由で妊産婦や子どもにも勧められることが多い食品ですが、じつは無機ヒ素という健康に悪い影響を与える物質を多く含む食品です。加工肉で話題になった国際がん研究機構の研究でも発がん性が明確に確認されている物質です。ひじきの食習慣がこれまでなかったイギリスやオーストラリアなどでは高濃度の無機ヒ素を含むおそれがあるのでひじきを食べないようにという注意喚起を行っているほどです。今回話題になったことで、案外ひじきでは鉄の補給ができないという話をきっかけに、あまり好きでない人が妊娠や出産を切っ掛けにひじきを無理に食べるようなことが少なくなればよいなぁと個人的には思っております。
また、一部の動物性食品を食べない食事健康法ではひじきの戻し汁も活用して調理をするというレシピもあるようですが、無機ヒ素の危険性を考えるとそれは勧められない食べ方といえるでしょう。
■今回のまとめ
・乾燥ひじきは製法によって鉄の含まれている量が10倍くらい差がある
・製法による栄養価の違いは鉄の他はほとんどない
・ひじきの鉄は水戻しをしてもけっこう抜ける
・ひじきは発がん性が指摘される無機ヒ素の多い食品
・栄養素は色々な食品からとることがやっぱり大事
とはいえ、ひじきが好きな人は今までと同じように食べて頂いて問題ないと思います。これを機会に妊産婦にやたらとひじきを勧める風潮に歯止めがかかれば・・・と願います。