空想科学で検証!『プリキュア』に「高い高い」で宇宙まで投げ上げる…という驚愕エピソードがあった!
こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。
マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。
さて、今回の研究レポートは……。
このたび角川文庫から『空想科学読本「高い高い」で宇宙まで!』という本を刊行させてもらった。
「宇宙まで!」までが正式書名なのだが、すると誰もが不思議に思われるだろう。
「高い高い」で宇宙まで? いったいどういうこと?
それを実践したヒトが、2018年の『HUGっと!プリキュア』にいたのである。
『プリキュア』シリーズは子ども向けのアニメだが、意表を衝く設定や展開がちょいちょいあるので、油断してはなりません。
簡単に紹介すると、それはこんな話であった。
主人公・野乃はな(キュアエール)たちの通うラヴェニール学園に、ルールー・アムールが転校してきた。
ルールーは『源氏物語』を暗唱するなど頭脳明晰で、テニスのサーブでボールを破裂させるくらい体力もすごい。
でもその正体は、悪の組織クライアス社が作ったアンドロイドで、プリキュアの情報を収集するために転入してきたのだ!
しかし、はなたちはルールーの正体に気づかず、保育園での「お仕事体験」に連れていく。
はなたちが園児たちに「高い高い」をしていると、そこへハリーがやってきた。
このハリー、正体はハムスターみたいな動物なのだが、普段は長身なイケメンに扮している。
そしてルールーに、自分にも「高い高い」をやってくれとせがむ。
それは冗談だったのかもしれないが、アンドロイドのルールーに冗談は通じなかった。
彼女はハリーの両脇腹に手を当てるや、シュパッ!と投げ上げた。
絶叫するハリー。
グングン上昇していくと、眼下には丸い地球が!
やがて、ハリーが落ちてくると、ルールーはあちこち移動しながら落下地点を見きわめ、両手でバシッと受け止めた。
これに、保育園の赤ちゃんたちは手を叩いて大喜びするのだった。
恐るべきことである。
目の前でいま、ヒト一人が宇宙へ行ってきたのだ。
アニメに描かれた地球の見え方から計算すると、ハリーは地上4万1900kmまで上昇したとみられる。
それすなわち地球の直径の3.3倍。静止衛星軌道(地上3万5800km)よりも高い!
重力で運動する物体の「滞空時間」は高度だけで決まるから、高度4万1900kmに到達するまでに5時間4分かかる。
そこから落下して地上に達するのにも、5時間4分かかる。
つまり、計10時間8分!
たいへんな宇宙の旅である。
しかも10時間も宇宙に飛び出していたら、その間に地球は152度も自転してしまう。
ハリーが東京で真上に投げ上げられたとすると、落ちてくるのはイタリアの南方海上だ。
これを受け止めるには、10時間でイタリアまで移動しなければならず、ルールーも大変……!
――などなど、筆者には気になる問題もあるのだが、劇中ではそうはならず、投げてから9.5秒で、投げたのとほぼ同じ場所に落ちてきたのだった。
不思議だが、ルールーの偉業を前にして、細かいことを気にしている場合ではない。
地上から、物体を高度4万1900kmまで上昇させるには、秒速10.4194kmの速度を与えなければならない。
この数値、ハリーにとって不幸中の幸いである。
地上から秒速11.1846km以上の速度で発射された物体は、地球の重力を振り切って二度と落ちてこない。
つまり、もしルールーが劇中の速度より7.3%速く投げ上げていたら、ハリーはお星さまになっていたのだ!
これほどの行為を目にしても、はなたちはまだルールーがアンドロイドであることに気づいていなかった。
科学的にはそれがモーレツに不思議である。
新しく出した角川文庫版にこの話を収録したのは、既刊(今度の本で角川文庫は4冊目)の読者の半分が女性と聞いたからだった。
筆者は「読者の大半は男子かな」と思っていたので、これに驚いて、「女子ウケしそうなには『プリキュア』だ!」と短絡的に考えたのだった。
でも、いま話を紹介してみて実感したけど、ぜんぜん女子ウケしそうもないですね。
ひどい売行きにならないことを祈りたい。