『ふたりっ子』『海岸列車』に登場した日本海と漁港を望む駅 山陰本線 鎧駅(兵庫県美方郡香美町)
「海が見える絶景駅」は全国各地に存在するが、その中でも数多くの作品に登場して知名度の高い駅の一つが兵庫県北部の香美町にある鎧(よろい)駅だろう。平成8(1996)年10月から平成9(1997)年4月にかけて放送されたNHK連続テレビ小説『ふたりっ子』の最終回のロケ地となり、宮本輝の小説『海岸列車』の舞台にもなった。平成13(2001)年冬の青春18きっぷポスターにも登場。キャッチコピーの「なんでだろう。涙がでた。」を覚えておいでの方も多いだろう。
鎧駅は明治45(1912)年3月1日、山陰本線香住~浜坂間の延伸に際して開業。昭和45(1970)年12月15日に無人化されている。駅舎は昭和55(1980)年2月改築の二代目だ。
駅があるのは日本海に面した漁村・鎧を見下ろす高台で、駅前には10軒ほどの民家が建っている。ホームからは日本海を望むことができる。
ホームは単式1面1線。かつては相対式2面2線だったが、平成20(2008)年3月ダイヤ改正より海側のホームは使われなくなり、平成24(2012)年秋に線路が撤去された。上写真右奥が旧1番ホーム、右手前が旧貨物ホームだ。貨物ホームは展望台のようになっていて開放されているが、旧1番ホームは閉鎖されていて立ち入れない。
駅舎から海側の旧貨物ホームへは地下通路で連絡している。この地下通路はホーム間の行き来に使われていたもので、駅の棒線化後も駅舎と海側を結ぶ通路として残されている。
旧貨物ホームは日本海を見下ろす崖っぷちで、申し訳程度にフェンスが建てられているものの、眺望を遮るものは少ない。フェンスの背は低く、一部途切れている部分もあるので、足元に注意してフェンスに凭れ掛からないようにしよう。石標は国の天然記念物「釣鐘洞門」を示すものだ。鎧駅からは4キロ以上も離れている上に海からしか行くことができず、最寄りは隣の餘部駅だが、石標が建てられた当時は餘部駅が開業していなかったので鎧駅に建てられたのだろう。
駅から眼下に見下ろせるのは小さな入り江につくられた鎧漁港。急峻な地形によって周囲からは隔絶されており、昭和40年代に車道が通じるまでは鎧駅が外に通じる唯一の交通手段だったという。
必然的に鎧漁港に水揚げされた漁獲物の搬出にも鉄道を頼ることになり、その昔は斜面に敷いたレールの上に台車を走らせるインクラインで漁港から駅まで魚を運搬していたという。日本海と漁港を見下ろす絶景駅・鎧、その歴史は崖の下の漁村と密接に結びついている。