アマゾン訴訟で、他社サブスクにも厳しい監視の目 ウォルマートやベストバイに自動加入や煩雑な解約
米アマゾン・ドット・コムは、欺瞞(ぎまん)的な手法を用いて、顧客を有料会員プログラム「Prime」に入会させたとして訴えられたが、こうしたサブスクリプション(定額課金)サービスを巡って非難されているのは同社だけではないようだ。
誘導と煩雑な解約手続きを問題視
ロイター通信によれば、米小売り最大手のウォルマートや米家電量販大手ベストバイなどにも監視の目が向けられている。
これらを含む多くの小売業者は、「送料無料」や「利用し放題の技術サポート」、「割引販売」といった特典を設け、顧客から定額料金を徴収している。
英調査会社ユーロモニターが米国人3万7720人を対象に行った調査によると、2022年時点で30%が何らかのサブスクサービスに加入しており、17年の20%から増加した。
米連邦取引委員会(FTC)は23年6月、アマゾンが同意なしに顧客をPrimeに加入させ、かつ解約を妨害したとして、同社を提訴したと明らかにした。
FTCが問題視したのは、「ダークパターン」と呼ばれる手法だ。これは、クリックしやすい場所に「同意する」ボタンを配置するなど、利用者が望まない操作を行うように誘導し、自社ビジネスを有利にするデザイン手法である。
FTCはサブスクが解約しにくい状況になっていたことも問題視した。解約するためには、何度も辛抱強くページを切り替える必要があったという。
加えて、解約を試みるとリダイレクトされ、割引料金でサブスクを継続するよう促されたり、解約を思いとどまるよう求められたりする場面に遭遇したという。アマゾンはこれに対し、「事実と法律の両面で誤りだ」と、真っ向から反発している。
「小売業者は非常に懸念すべきだ」
アマゾンは2005年にPrimeを開始した。Primeの米国での年会費は現在139ドル(約1万9000円)。米調査会社のCIRP(コンシューマー・インテリジェンス・リサーチ・パートナーズ)によると、Primeの米国会員数は2023年3月時点で約1億6700万人。
アマゾンは22年に年会費を119ドルから値上げしており、それ以降、会員数が伸び悩んでいるという。だが、ロイターによれば、それでもPrime会員の支出額はアマゾンの売上高の大部分を占めている。
アマゾンは22年、欧州連合(EU)の消費者保護規則を順守するため、「2回のクリック」で解約できる仕組みを域内で導入した。23年初めには米国でも解約プロセスを見直した。アマゾンは、以前のプロセスと新プロセスは共に法を順守していると述べている。
米ジョージ・ワシントン大学法科大学院の教授で、元FTC委員のウィリアム・コバチック氏は、「FTCによるアマゾンの提訴は、同社の商慣行を変えさせ、業界標準を策定するための手段になる」と指摘した。
FTC消費者保護局の元補佐官であるキャサリン・ベンウェイ氏は、「契約の自動更新条項や煩雑な解約手続きなど、多くのサブスクサービスで広がっている慣行に対しFTCが行動を起こした」とし、「裁判所がこの種の慣行の適切性を検討するのは初めてだ。小売業者は非常に懸念すべきだ」と述べた。
ウォルマートとベストバイにも問題ありか
ウォルマートは20年にアマゾン対抗のサブスクサービス「Walmart+」を開始した。年98ドル(約1万4000円)の会費で、追加料金なしの食料品配達サービスを提供している。米モルガン・スタンレーの推計によると、その会員数は23年5月現在で2000万人だ。
しかし、22年に米ミシガン州で顧客がウォルマートを相手取って訴訟を提起した。訴状によると、原告は「ウォルマートには欺瞞的なサブスク慣行がある」と批判した。
具体的には、無料トライアル終了後に自動的に料金を徴収された。解約手続きが妨害されたほか、解約を明確に選択した後もそれを受け入れてもらえなかったという。その後両者は和解に達し訴状は取り下げられたと、ロイターは報じている。
一方、ベストバイは21年に、技術サポートや割引販売を提供するサブスクサービスを始めた。23年6月には、年49.99ドル(約7000円)と年179.99ドル(約2万5000円)の、2つの会員プログラムを開始した。
ベストバイを巡っては、22年に集団訴訟が提起された。こちらは、顧客がネットでテレビを購入したところ、告知なく2つのサブスクサービスに加入させられた、というものだ。
1つは月19.99ドル(約2800円)の「Total Tech Support Monthly Membership」と呼ぶ技術サポート。もう1つは月2.99ドル(約420円)のアンチウイルスプログラム。原告側は、「オンラインによる解約手続き手段が用意されていなかった」と、同社を非難している。
- (本コラム記事は「JBpress」2023年6月28日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)