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ムンクの『叫び』で恐れる人が、絵画から消えた理由 #家にいよう #StayHome

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
Photo: Nasjonalmuseet / Borre Hostland

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぎ、地域医療の崩壊を防ぐためにも、「家にいよう」。

呼びかけが相次ぐ中で、「あの」世界的な有名人も動いた。

Edvard Munch,
Edvard Munch, "The Scream" (edited), 1893. Photo: Nasjonalmuseet / Borre Hostland

団結しましょう。

家にいましょう。

あなたの「ソリダリティ」を、見せてください。

出典:ノルウェー国立美術館 インスタグラム 

今、ノルウェーでは、「団結」や「連帯」を意味する「ソリダリテ」(solidarite)という言葉を毎日聞く・見るようになった。

出典:朝日新聞GLOBE+ 新型コロナと「おもいやり」 ノルウェーでの対策と議論

画家、エドヴァルド・ムンクの名作『叫び』は、数ある名画のなかでも、最も有名な作品のひとつだ。実は、ムンクは北欧ノルウェー出身。

両手で耳をふさぎ、口を開けた不安のポーズは、多くの人がどこかで目にしたことがあるだろう。

なんと、『叫び』を所有する国立美術館は、有名な絵画を編集して、恐れおののく人を絵画から消してしまった。

恐れる人も、今は外出はせずに、自宅で過ごしていることを伝えるためだ。

有名な絵画を大胆に編集してしまう行為は、自由を重んじるノルウェーでも、あまり見たことがない。

同館の広報であるシメン・ヘルスヴィグさんに取材をして、その狙いを聞いた。

今の世界の状況を、名画で表現するなら?

「国立美術館としては、所有するアートをデジタルでも広めることが、重要な役割だと考えています」

「今は特別な時期でもあります。この状況を、アイコン的な作品を使い、どう表現できるか?結果、『叫び』を編集する考えがうまれました。人がいなくなった道路や広場の世界中の写真を、ここ数週間で見ていましたからね」

「『政府からの家にいるようにという推奨を、市民にお願いする手法として、びっくりするような、おもしろいアイデアだね』という反応を、たくさんいただいています」

美術館がムンクの作品を「編集」するのは、今回が初めてだそうだ。

観光施設やアートにできること

毎年、首都オスロには、世界中からのムンクファンが、『叫び』を一目見ようと観光に訪れる。

『叫び』は複数点ある。しかし、『叫び』を鑑賞できるムンク美術館も国立美術館も、現在は新美術館の建設のために、一般公開はしていない。

いずれにせよ、新型コロナの影響と政府の指示により、観光客はノルウェーには入国できず、美術館などは一時閉鎖中だ。

ノルウェー政府は、在宅勤務を推奨し、外出を控えるように要請しているのみで、「外出禁止令」は出していない。

この自粛期間、観光スポットや施設、企業などは、少しでも国のために何かしたいと、家で楽しく過ごす方法や、自粛をうながす呼びかけを試みている。

それにしても、恐れおののく人は、どこに住んでいるのだろう?

※現在建設中の新国立美術館は、2021年にオープン予定

Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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