新鮮だから生で食べても大丈夫というのは本当?
「鮮度が良い○○ですので、生でも美味しく食べられます」
生食人気を背景に、今までは生で食べる習慣がなかった食材まで生食を売りに提供される事例が増えてきているようで、最近ではSNSでキノコの生食を推奨するような記述をみかけました。危険が既に指摘されている生レバーによる食中毒など健康を損なうおそれがあるような食べ方もいまだに見かける状況なのは、鮮度の良い食材は生で食べても大丈夫である、という誤った認識が根底にあると考えています。
このような誤解は刺身と同様、鮮度が良ければ食中毒はおこらないという発想と思いますが、新鮮であっても生で食べれば危険な食材はたくさんあります。身近にある生食が不適な食品と、新鮮であることが安全を保証しない理由を簡単に説明したいと思います。
■身近にある生食不適な食品
これらの食品は基本的に生食不適です。新鮮であっても自然栽培でも安全ではありません。
【豚肉・豚の内臓】
E型肝炎ウィルスやカンピロバクターなどの細菌による食中毒、寄生虫感染の危険性があります。食品衛生法でも生食目的の販売は認められておりません。
【牛レバー】
O157など、重篤な食中毒を起こす細菌が内部にまで入り込んでいる可能性があり、生食不適です。生食目的の販売は禁止されています。筋肉などの部位は生食用に販売できる基準を満たす必要があり、鮮度が良くても危険です。
【鶏肉】
カンピロバクターが付着していると考えられますので、基本的に生食不適です。
【キノコ】
生食用マッシュルームやトリュフ以外は生で食べないほうが無難です。生シイタケではシイタケ皮膚炎を起こす危険性があります。エノキタケにも溶血作用のあるフラムトキシン※1という毒成分が見つかっており加熱が推奨されます。
【マメ類】
生の豆類にはサポニンやレクチンの仲間の有害な化合物を含むものもあるため、豆を食べるときには十分に加熱することが大切です。他にもマメ類はデンプンを多く含むため、消化が悪いので生食が不向きな食品です。
■新鮮でも危険がある理由
魚介類の刺身は新鮮さが求められることの多い食品ですが、食中毒予防の観点と劣化の早さが関係します。肉などに比べ組織が崩れやすく、自分自身の酵素によって分解されやすいからです。細胞が崩れると細菌などの微生物が繁殖しやすくなり、食中毒の危険性や異臭の原因になりますので商品価値が著しく低下します。また、赤身魚(主に回遊魚)にはヒスチジンというアミノ酸含量の高いものが多く、これが付着している細菌などによりヒスタミンという物質に変化するとアレルギー反応に似た、食中毒を起こすことがあります。温度管理が悪いとヒスタミンは生成しやすいため、サバやイワシ、などは低温で新鮮なうちに食べることが奨められるわけです。余談ですが、生鮮食品の管理が不十分だった昔には、サバなど傷みやすい魚が原因のヒスタミンによる食中毒が多く、サバアレルギーがあると誤解している人が結構いらっしゃいます。新鮮な魚であっても、内臓や筋肉に寄生虫がいることがありますので、注意が必要です。
豚や牛肉、ジビエなどの生食が問題※2になるのは、新鮮であることが安全といえない理由があるからです。食中毒を起こすカンピロバクターやO157などの病原性大腸菌類は元々腸内に生息している細菌で、解体の時に肉の表面に付着することが多いとされます。これらはとても少ない菌数で食中毒を引き起こすことが知られており、新鮮であっても予防することはできません。他にもウイルスや寄生虫などの問題もありますから、畜肉類は基本的に十分な加熱をして食べる物であるという認識が必要です。
今回の記事で例に挙げた食品以外にも、生食する習慣のなかった食品を生で食べる機会が増えてくれば今まで知られていなかった食中毒が起こる危険があるでしょう。現在は禁止されている豚の内臓の生食が規制されていなかったのは、生で食べることを国は想定していなかったからです。
最後になりますが、新鮮であるという売り文句は安全性を保証するものではありません。生食可能な食品以外はしっかりと加熱して食べることをおすすめします。
※1 Bernheimer AW, Oppenheim JD.Some properties of flammutoxin from the edible mushroom Flammulina velutipes. Toxicon. 1987;25(11):1145-52.
※2 ウイルスやO157などの感染は喫食者本人だけでなく、周囲の人に感染させるおそれがあるため、公衆衛生上の問題がある。本人の自己責任という単純な話しで済まない問題、という認識が必要。