15歳でカナダ留学!超話題『SPY×FAMILY』キャストの木内健人は「そこにいる人になりたい」
2022年の流行語大賞やYouTube流行語大賞などで、そのタイトルや登場人物が選ばれるなど大ヒットとなった『SPY×FAMILY』が今春、ミュージカルとして開幕します。舞台キャストに選ばれたのは、端正な顔立ちに抜群のスタイルというステージ映えする姿が印象的な、木内健人(きのうち・けんと)さん。カナダ留学を経て、特技は英会話。カナダでの生活、ミュージカルの世界に入るまでなど、気になる素顔に迫ります。
―今年最も話題のミュージカルの一つ『SPY×FAMILY』に出演が決まった時の感想は?
まず、この作品のオリジナルキャストになれたことが本当に嬉しいです。内容は、スパイ(父=ロイド・フォージャー)、超能力者の子供(娘=アーニャ)、殺し屋(母=ヨル・フォージャー)という“かりそめの家族”の物語です。
お話があった時はまだ本を読んだことがなくて、僕が演じるフランキー(主役のスパイに協力する情報屋)はどんな役だろうと思って見たら、アニメの中のアーニャと同じ感想で「もじゃもじゃ!?」でした。髪の毛がくるくるで見た目のインパクトもあるし、一癖も二癖もある役です。実感が湧いたのは写真撮影の時で、メイクさんにコテで髪を巻いてもらったら、フランキーの気分になってきました。ちなみにポスター写真は全部地毛です。
最初は活字だけで役作りをしましたが、難しいのはここからです。外面ありきで考えていくのか、言葉を大事にして内面から作っていくのか。どのアプローチがこの作品を作り上げるために一番大事なのか、演出家のG2さんともお話をして、自分なりのフランキーを作っていけたらと思っています。
―カンパニーの雰囲気がいいですね。
すごく良くて安心しています。共演者がいい方たちばかりで、特に若い子たちがかわいくて(笑)。僕はお酒を飲まないので、度を越すほどにはなりませんが、人とコミュニケーションを取るのが好きで、誰とでも仲良くなれるタイプです。「イエーイ!」というノリではないですが、人に楽しんでもらうことがすごく好きです。
―去年から続いている『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』のパブロ役では、ノリノリでお客様を楽しませていますね。特に木内さんがカーテンコールで客席を巻き込んで盛り上げるシーンは最高でした。
最後にお客様も一緒に踊ってもらうスタイルは、初演の途中から始まったそうです。今回は再演を重ねて4回目ですけど、同役の前任者が本当に素晴らしい方たちで、ジャニーズの林翔太さん、事務所の先輩の上口耕平さん、まさに三者三様のやり方です。
基本的に振り付けは決まっていますが、注意事項で「2・3階の方は立たない」とか、特に僕の場合はコロナ禍なので「声を出さない」とか、言うべきことがしっかりあります。その中で、お客様を退屈させず、嫌な気持ちにさせずに、面白い作品を観てもらった後なので、いかに一緒に楽しんだという気持ちを持って帰ってもらえるかが、僕の役目だと思いました。
約2000人の観客の中で、誰よりもテンションを上げないといけない。学生の貸し切り公演日で男子学生が多めだと、斜に構えて全然反応してくれないこともあったので、「お願いだから楽しんでくれ!」と、汗びっしょりでやっていました。
スペイン語を話す役でしたが、ちょっとした合いの手がどうしても日本語しか浮かばない。スペイン語講座を受けて言葉を考えていました。台本にはありませんでしたが「ヘニハル!」と叫んでいたのは「最高!」という意味です。
―この世界に入ったきっかけは?
母がミュージカル好きだったので、小学生の頃からミュージカルスクールやタップダンスに通っていました。フレッド・アステアという、1930年代~アメリカのミュージカル映画全盛期を担ったトップスターに憧れて、あとチャップリンも好きでよく真似をして踊っていましたね。中学卒業までは徳島県で過ごして、高校3年間はカナダに留学しました。
―何故カナダに?
母が英会話塾を経営していて、留学という提案をしてくれたんです。小さい頃から英語を学んでいたとはいえ、よく15歳の子供を徳島県からカナダに出しましたよね。本当はアメリカかイギリスを考えていましたが、ちょうどアメリカ同時多発テロがあった時期で、受け入れの問題からカナダになりました。
3年間、ほぼ勉強しかしてないです。カナダの高校は単位制なので、大学同様、単位が取れないと卒業できません。19歳までに卒業しないと高校中退にもならず、中学卒業の扱いになるので、単位を取るのに必死でした。
授業・生活はすべて英語。必修科目はありますが、例えば美術だと絵以外にカメラや建築のコースもあるので、自分が興味のあるものにアプローチして単位を取ることができます。僕は祖父が建築士なので、建築に興味が湧いて勉強したり、カナダの数学は比較的簡単だったので、数学で単位を稼いだりしていました(笑)。
―カナダ留学から何故ミュージカルの世界に?
カナダでの最後の1年で進路に迷い、カナダと日本の大学どちらに入るかを考えていた時に、「東宝ミュージカルアカデミー」という養成所があると教えてもらい、新たな選択肢が出てきました。その時、お芝居がしたいという気持ちがあったのと、自分の特技はダンス、と考えるとミュージカルの世界が一番合っていると思えました。人生1回だし、母もこの世界が大好きで応援してくれたので、やってみようと。
アカデミーは1年間の全日制で、入学するにはオーディションがありました。そこから更に学びたい人にはアドバンスコースがあり、1/3くらいがふるいにかけられます。それに残ることができたので、僕は合計3年くらい通いました(現在は閉校)。
卒業後に発表会があり、観に来ていた現在の事務所が声をかけてくれて所属することになりました。卒業しても何の保証もないし、舞台に立てないまま他の仕事に就く方がほとんどの世界です。僕も事務所が決まったとはいえ、いきなり大きな役をもらえたわけでもなく、初めはアンサンブルの中でも全くセリフがない役からスタートしました。
―役がもらえるまでの期間はつらかったですか?
20歳で初舞台を踏み、26歳で初めて役をもらいました。でも、その後もまたアンサンブルをやりましたし、どちらも大変なことに変わりはないです。つらいというよりは必死だったという感じですね。
自分には経験が必要だと考えていたので、とにかく先輩や演出家の先生に話を聞きに行き、教えていただくことに必死でした。あえて言うなら、自分は頑張れると思っていました。
―憧れの俳優はいますか?
映画版の『レ・ミゼラブル』でアンジョルラスを演じたアーロン・トヴェイトという方が、歌もお芝居もうまくてスマートな、本当に憧れの人です。
ものすごく好きなのは、成河(ソンハ)さんです。とにかく本を大事にする方で、戯曲・翻訳・原文に対して、作者がどういう思いで書いているか、翻訳者がどういう意図で翻訳しているかを大事にされているのが、客席から観ていても伝わります。1度ご一緒したことがあるのですが、その時も本を大切に、役にトライもされている。演出家とディスカッションするときも同じです。僕もそこを大切に舞台に挑んでいくつもりです。
―今後の目標は。
観る度に印象が違う、役としてその場にいる…と思われることが、俳優にとっては一番素晴らしいことだと僕は思っているので、あまり好きな言葉ではないですけど「カメレオン俳優」という言葉が近いのかな。役を全うできる俳優、自分を捨てて“役としてそこにいる”ことができる人になりたいと思います。
漫画に登場するキャラクターを演じるのは、僕にとって『SPY×FAMILY』が初めてのこと。おそらく大きな壁にぶち当たるだろうと思っています。新しいチャレンジ、頑張ります。いい作品・曲に出合ってお客様に届けること、これが僕のやるべきことです。
■インタビュー後記
木内さんは「次世代センター候補」と聞いたことがあるので本人に伝えると「僕より若くて素敵な人はたくさんいますよ」との答え。勝手にアグレッシブな意見を想像していたことに気づき、思い込みを反省すると同時に、この方は個が優先するのではなく、本当に作品全体を考えているのだと確信しました。これからも役としてそこにいることを貫き、素敵な作品を届けていただきたいです。
■木内健人(きのうち・けんと)
1989年8月3日生まれ、徳島県出身。東宝ミュージカルアカデミー・アドバンスコース修了。2009年初舞台、『タイタニック』『天保十二年のシェイクスピア』『レ・ミゼラブル』『ガイズ&ドールズ』など出演多数。ミュージカル『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』にパブロ役で出演中(長野・ホクト文化ホール、1/21~22)。『SPY×FAMILY』(東京・帝国劇場、3/8~29)にはフランキー役で出演予定。