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今も忘れられない美智子さまからの“お言葉” 島田歌穂が歩んだ50年の歴史

島田薫フリーアナウンサー/リポーター
今年デビュー50周年を迎える島田歌穂さん(撮影:すべてTOMO)

 特撮テレビドラマ『がんばれ‼ロボコン』のロビンちゃん役でデビューしてから50年。不朽の名作ミュージカル『レ・ミゼラブル』ではエポニーヌ役として1000回以上も舞台に立ってきました。現在は、建て替えのための休館(2025年)を発表している帝国劇場のクロージングラインナップの1つである『Endless SHOCK』に出演中です。あの日、上皇后美智子様からかけられた忘れられないお言葉とは。日本の女優として初めて、英国王室主催の御前コンサートに出演、グラミー賞受賞など、記録にも記憶にも残るエピソード満載です。

―50周年おめでとうございます

 『がんばれ‼ロボコン』のロビンちゃん役から50年も仕事を続けさせていただけるとは、ビックリしています。子役時代、アイドル歌手時代…アイドルとしては売れなくて落ち込んだ時期もありましたが、ミュージカルのオーディションをきっかけに舞台女優としての道を歩み始め、たくさんの素晴らしい作品との出合いに恵まれて、一つ一つが本当に宝物です。

 様々な現場で、プロデューサーやトップの役職の方が、こっそり恥ずかしそうに「ロビンちゃん、好きでした」と言ってくださったり、ある時はプリマバレリーナの方に「ロビンちゃんに憧れてバレエを始めました」と言っていただいて感動したこともありました。

 ロビンちゃん役の頃から、こういう仕事は続けたいと思っていました。この世界以外にやりたいことがなかったかもしれないです。気づいたらずっと好きなことを続けさせていただいていた、って本当に幸せなことですよね。

―転機は?

 大きく人生が開かれたのは『レ・ミゼラブル』ですが、その少し前、井上ひさしさんの「こまつ座」のお芝居出演も転機でした。当時「こまつ座」ができたばかりで、栗山民也さんのこまつ座初演出作となった『日本人のへそ』に、歌って踊れる元気な子(笑)としてお声がけいただきました。

 それまでは「ミュージカル楽しい♪」というだけの私でしたが、井上先生との出会い、演劇界の素晴らしい役者さんとご一緒させていただいたことにカルチャーショックを受けました。セリフの一言、一文字に込められたものの重み、言葉の大切さ、背景にある思い…あまりに多くのことを学ばせていただきました。

 そんな中『レ・ミゼ』のオーディションがありました。これはすべて歌で綴られた作品ですが、歌ではなくセリフとして表現することに、芝居で学んだ「言葉の大切さ」が生かされたように思います。

 例えば「オン・マイ・オウン(On my own)」という歌では、もちろん歌うのですが、セリフを言っているように、語るように歌う。どれだけその歌を、芝居として表現できるか、言葉に込められたものをどこまで伝えられるか。演出家のジョン・ケアード氏が1シーンずつ丁寧に演劇的に作っていった稽古は、感動と発見の連続でした。それまでの経験のすべてが繋がったんです。どこまでも芝居で表現する。これは永遠のテーマです。

―『レ・ミゼラブル』のオーディションは応募人数も多かったそうですね

 全体では1万2000人くらい、私が受けたエポニーヌ役は3000人程で、一番競争率が高かったと聞きました。日本初演(1987年)に向けたオーディションだったので、作品を観たこともないし何も分からず、年齢設定でコゼットかエポニーヌのどちらかだと思いました。

 役の説明がそれぞれ1行ずつ書いてあって、コゼットは「美しく清純な乙女」とあったのでちょっと違うかな(笑)、エポニーヌは「明るく気丈な性格」と書いてあったのでこちらかな、と思いました。

 今みたいに、検索してすぐ分かる時代ではないですから、情報はその1行と、ロンドン公演のレコードが発売されて間もない頃だったので、手に入れた人から借りてカセットテープに録音して聴いて…という、それがすべてでした。

―歌穂さんが選ばれた理由は聞かれましたか

 後日談ですが、ジョンが「歌穂が部屋に入ってきた時、エポニーヌが入ってきたと思った」と言ってくれました。うれしかったです。

―その後、『レ・ミゼラブル』は大成功、歌穂さんは世界ベストキャストにも選ばれ、そのメンバーとして参加したアルバムでグラミー賞を受賞されました。

 本当にラッキーだったとしか言いようがないです。20代から40代まで14年間やらせていただき、出演回数は1000回を越えました。今も初演の初日の感覚を思い出すと、必ず初心に返らせてもらえる、女優としての大きなターニングポイントであり、感謝し続ける作品です。

 初演の初日には、帝国劇場に当時の皇太子同妃両殿下(現・上皇上皇后両陛下)と浩宮親王殿下(現・天皇陛下)がお越しになられて、終演後、キャストがロビーに並びごあいさつをさせていただいた際、私たち一人一人にお声をかけてくださいました。

 美智子様は、私に「あなたはとてもいい役をいただきましたね」とおっしゃられ、お帰りの時にもう一度私の方に歩いてこられて「あなたはこれからもミュージカルをお続けになられるの?ぜひお続けになってね」とおっしゃってくださり、そのお言葉は今でも忘れられません。

 その後、『レ・ミゼラブル』の世界ベストキャストに選んでいただき、英国王室主催の「ザ・ロイヤル・バラエティ・パフォーマンス」という女王陛下御前チャリティーコンサートに出演させていただきました。ロンドンのオリジナル・キャストを含むカンパニーの方々とともに、ジャン・バルジャンはイスラエルから、アンジョルラスはニューヨークから、エポニーヌは日本から、とインターナショナルなキャストでパフォーマンスを披露しました。エリザベス女王陛下にも謁見させていただき光栄な経験でした。

―思い出の詰まった帝国劇場の休館が決まりました

 初めての帝劇は『レ・ミゼ』で、その後『SHE LOVES ME』『屋根の上のバイオリン弾き』『ナイツ・テイル-騎士物語-』『SHOCK』…どれも思い出がありすぎます。

 『レ・ミゼ』初演の時には、鈴木ほのかちゃんと2人部屋でワイワイ言いながらこの楽屋を使わせてもらったなとか、ここで本番前の声出しをしていたなとか、舞台の袖の操作盤のところで私が不安な気持ちでいたら、ジョンが「大丈夫。あと歌穂に必要なのはお客さんだよ」と言ってくれたなとか。本当にいろいろな場所に思い出があります。

 不安で無我夢中で稽古をして、初日のカーテンコールで憧れの劇場だった帝劇の2000人のお客様から拍手を浴びた時、今まで感じたことのない喜び、幸せを噛み締めました。あの瞬間は生涯忘れられません。

―現在出演中の『SHOCK』、今年がラストイヤーになりますね

 やっと少し馴染めてきたかなと感じていたので、寂しいです。最初にお話をいただいたのは『ナイツ・テイル』の大阪公演中でした。オーナー役はやはり前田美波里さんのイメージが強かったので、恐れ多くて「無理です」とひるんでしまったのですが、主演・演出/堂本光一さんの「歌穂さんのオーナーを作ってくれればいいんです」という言葉を信じて挑戦することになりました。

 客席からは何度も見させていただいていましたが、初めて裏側に入った時は衝撃を受けました。目くるめく転換、秒単位でパズルのように転換していきます。それらはすべて計算し尽くされていて、長い間積み重ねてきたチームの見事さに感動しました。

 そして光一さんは、肉体的にも何もかもハードなこの作品をずっと続けてこられたこと、ただただ尊敬するばかりです。まるで宇宙人ですね。歌・踊りはもちろん、ダンスナンバーも多いし、殺陣はあるし、フライングはいろいろなバージョンがあって階段落ちもある。ここまでエンタメが全部詰め込まれた作品はないです。演出家としても常に全体を冷静に見ていらっしゃいます。

 開演前、光一さんがわざと「今日はしんどいなー」とか言われるんですけど、私が最初の口上を言って楽屋に戻る頃には、座長はいとも美しく飛んでいるんです。その姿を見て「よし!今日も頑張るぞー!」と思わせてもらいます。頼もしい背中を見せてくださるから、皆がついていこうと思う。求心力がすごいです。

 11月まで公演は続きますが、私は帝劇公演は5月が最後になります。こうして歴史ある帝劇で数々の歴史的な作品に携われたことは生涯の宝です。最後まで一回一回を大切に噛み締めていきたいと思っています。

―原動力はどこから?

 毎回緊張しますし、怖いですし、やはり私向いていないかもって思うことも多々ありますが、お話をいただけるということは、そこに使命があるということなのだろうと。出合いを信じて自分にできることを果たしていく、その繰り返しです。でも「私は女優です」と言うのも、まだおこがましいような気がしています。

―今後の目標は

 とにかく身体が資本なので、心身ともに元気でいられるよう、メンテナンス、トレーニングを心がけていきたいと思います。秋には50周年記念コンサート、年内には記念アルバムも出す予定です。これまでの集大成とここから新たな出発という意味を込めて、必ず良いものにできるよう頑張ります。

 そしてこれからも一つでもいい出合いができるよう、その使命を果たしていけるよう、声をかけていただける限り、声が続く限り、頑張って自分自身に挑戦し続けていきたいです。

【編集後記】

50年のキャリアがあるのにどこまでも謙虚な方です。歌穂さんの歌はとても言葉が響くと感じていたので、今回お話を聞いてようやく腑に落ちました。好きなことが続けられる楽しさ、出合いへの感謝、偶然のようでやはりご本人が引き寄せているのだと思います。幸せいっぱいの半世紀です。

■島田歌穂(しまだ・かほ)

父は音楽家、母は宝塚歌劇団出身のジャズ歌手。

1974年、子役デビュー。87年、ミュージカル『レ・ミゼラブル』初演で脚光を浴び、出演回数は1,000回を超えた。同作の世界ベストキャストに選ばれ、英国王室主催のコンサートに出演。参加した世界ベストキャストアルバムが米国にてグラミー賞を受賞。

主な出演作品は『ウエストサイド・ストーリー』『黙阿弥オペラ』『飢餓海峡』『ビリー・エリオット』『メリー・ポピンズ』『ナイツ・テイル』『Endless SHOCK』など。

また、コンサートやアルバムリリース、ディズニー映画の吹替を務めるなど、女優、歌手として多岐にわたり活躍。

芸術選奨文部大臣新人賞、紀伊國屋演劇賞個人賞、読売演劇大賞優秀女優賞など受賞多数。大阪芸術大学教授。今年、デビュー50周年を迎えた。

ミュージカル『Endless SHOCK/Endless SHOCK-Eternal-』は東京・帝国劇場にて5/31まで上演中、大阪・梅田芸術劇場メインホールにて7~8月上演予定。

10/9「島田歌穂デビュー50周年記念 プレミアム シンフォニック コンサート」が控えている。

島田歌穂WEBサイト http://www.shimada-kaho.com/

フリーアナウンサー/リポーター

東京都出身。渋谷でエンタメに囲まれて育つ。大学卒業後、舞台芸術学院でミュージカルを学び、ジャズバレエ団、声優事務所の研究生などを経て情報番組のリポーターを始める。事件から芸能まで、走り続けて四半世紀以上。国内だけでなく、NYのブロードウェイや北朝鮮の芸能学校まで幅広く取材。TBS「モーニングEye」、テレビ朝日「スーパーモーニング」「ワイド!スクランブル」で専属リポーターを務めた後、現在はABC「newsおかえり」、中京テレビ「キャッチ!」などの番組で芸能情報を伝えている。

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