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『VIVANT』共演者から得た“虎の巻”胸に、富栄ドラム舞台へ!自己採点は…たった2点!?

島田薫フリーアナウンサー/リポーター
自ら作った俳優マニュアルを頼りに初舞台に臨む富栄ドラムさん(撮影:すべて島田薫)

 昨年放送されたドラマ『VIVANT』(TBS系)でドラム役を演じ、その役名を芸名にまで取り込んでしまった元力士で俳優の富栄(とみさかえ)ドラムさん。ドラマでは、主役たちをサポートする重要な役柄でありながら、セリフは音声アプリが読み上げるという奇想天外な設定で大人気に。丸いフォルムにくりくりした目、ニコッと口角の上がった笑顔もかわいらしいと注目されましたが、なかなか本人の肉声は明かされず、役を引きずってしまうこともあったそうです。Netflixドラマ『サンクチュアリ ‐聖域‐』、『VIVANT』と次々に人気作品に恵まれ、今度は舞台で生の演技に挑戦することになりました。果たしてその評価は…?

―『VIVANT』でブレイクしてから環境は変わりましたか?

 はい、初めてのお仕事をいろいろとさせてもらい、毎日が最高に楽しいです!

―バック転をする映像も拝見しますが、やはり運動神経はよかったんですか?

 自分は運動神経がいいんだ、と気づいたのは小学3年生の頃です。走るのは学校で一番速かったし、マット運動が異常に得意でした。サーカスのように父の体や頭の上に乗ってアクロバットな遊びをしていましたね。その体幹強さが今も染みついています。

 僕の家は裕福ではなかったので、習い事は一切していませんでした。野球をしたければ友達を誘ってキャッチボールをしていましたし、部活なら無料でスポーツができるので、中学から柔道を始めました。

 始めて間もなく、中学1年生で柔道の神戸大会で優勝しました。すると、校長先生から「回転寿司でお腹いっぱい食べていいから相撲大会に出場してほしい」と頼まれて、相撲はやったことがないし興味もないけど、寿司のためだけに出場したんです(笑)。

 相撲は未経験でしたが、柔道と繋がるところもあったのか、神戸で2位になりました。それも、兵庫県1位の体重100キロ超の子を倒しての2位だったので、張り切ると強かったです。その時、会場にいた伊勢ヶ濱親方からスカウトされて相撲の世界に入ることになったんです。

将来の夢に向かって進む道を決め、必要なことを準備してきたと真剣に語るドラムさん
将来の夢に向かって進む道を決め、必要なことを準備してきたと真剣に語るドラムさん

 当時の僕は勉強も真面目に頑張っていて、得意な英語は学年で2位、科目全体でも20位以内に入っていました。将来はプロレスラーになりたかったので、進路は勉強か柔道、どのルートを選ぶべきか考えましたが、あの頃の僕は相撲を甘く見ていました。勉強や柔道で勝負するよりも、相撲人口は少ないし無差別で戦える。学校に行くよりも、プロとして住み込みで本格的にやった方が能力を最大限生かせると思いました。

 前相撲(新弟子の初土俵)では、元全国3位だった力士と、元関取の息子に勝ちました。僕にとって全国1位は横綱みたいな存在でしたし、そのクラスの人に勝ったということは、自分は3~4年で大関・横綱になれると思っていたんです。

 ですが、甘かったですね。その後、業界の厳しさをどんどん知ることになりまして、序の口で負け越して絶望して、でも取り返しがつきません。進学も諦めたし、入ったからには後ろを振り返ることもできず、前に進むしかないと頑張っていました。

―相撲を辞めたのは?

 ケガです。股関節唇損傷、ヘルニア、脊柱管狭窄症、腰椎分離症が原因の椎間孔狭窄症…まともに歩くこともできなくなり、稽古にもついていけなくなり、日常生活もままならなくなりました。

 20ヵ所以上の病院で診てもらいましたが原因は分からず、手術も失敗。その時一番支えになってくれていた姉が亡くなったこともあり、自分でもふっと力が抜けて、中学卒業から13年間頑張った相撲から引退しました。

―その後YouTuberになられたのですね

 力士時代にあげた動画がバズったことがあったので、才能があるかなと思って(笑)。相撲は強くなりたかったですが、幕内でテレビに出て人を笑顔にできる人気力士になりたいとも思っていましたから、相撲を離れてもYouTuberとして人を笑顔にしたいというのは同じでした。

ポーズをお願いしたら次々とかわいいポーズを決めてくれました
ポーズをお願いしたら次々とかわいいポーズを決めてくれました

―そこから俳優の道へ

 演技の経験はゼロです。YouTubeで「太った人あるある」をコントっぽく作って、自己流で芝居をして、カメラアングルを考えて、編集、タイトル考案、投稿時間の工夫など全部やっていたのが多少練習になっていたのかなとは思います。でも、実際に自分の演技を見てゾッとしたというか、難しさを実感しました。

―出演作が全部ヒットしていますね

 それはもう、運がいいんです。力士時代は「毎日四股(しこ)を踏んで何の意味があるんやろう。体は大きくなったけど、引退したらこの努力は水の泡になるのかな」と思っていたら、『サンクチュアリ -聖域-』で相撲を生かした作品に出演できたし、『VIVANT』ではこの体格と運動神経、相撲で頑張ってきたことが生かされたので、続けてきたことが生きるということを実感しています。

―髪も切らないままですね

 本当は同期の床山に断髪をお願いしていましたが、『サンクチュアリ ‐聖域‐』の話が来て「力士役なので髷(まげ)は切らないでほしい」ということになり、YouTubeをやる時には“力士キャラ”でいこうとなって。そしたら『VIVANT』が決まり、結局切るタイミングを逃したまま今に至ります。

―『VIVANT』のドラム役に決まったのは?

 最初、オーディションは刑事役でモンゴル語でした。モンゴル出身の横綱の付き人をしていましたから言葉自体は聞き覚えがあるし、セリフのイントネーションも分かりました。そしたら、監督がちょうどドラム役をオーディションしようと思っていた時期で、僕がバック転をしているのを見て「こういうドラムもありかな」と思ったらしいです。民放に出られるチャンスだと思い、全力で自己アピールしました。

―一切喋らずにあれだけブレイクしたのは驚きです

 ドラムはずっと笑顔で不思議なキャラだけど、監督のイメージどおりに、ちょっとした仕草も細かく演出されていました。フォルムは良かったみたいですけど(笑)。街で僕に声をかけてくれる方=『VIVANT』を見てくれた方、でしたから、イメージを壊したくないし、ドラムで接してあげたいという気持ちがあったから、あまり喋らないようにしていました。喋ると別人ですから、これが役者の通る道かと思いましたね(笑)。

『VIVANT』ドラム役の表情を説明中
『VIVANT』ドラム役の表情を説明中

―今回は『ルール~「十五少年漂流記」より~』で初舞台ですね

 ドラマは、いいところを切り抜いて編集してくれるので自然に見えましたけど、舞台は本当に目の前で話して芝居を見せることになります。今、ニュース番組のリポーターや手話の番組で話す機会がありますが、それは「富栄ドラム」としてなので芝居ではないです。でも自分なりに話すことには馴染んできたので、次の段階にステップアップしていきたいです。

―舞台稽古で大変なことはありますか?

 『VIVANT』に出演されていた俳優さんたちに1人1個は演技のことを質問して全部メモっているので、これだけの情報があれば大丈夫だろうと自信はあったんです。セリフの覚え方、会話への入り方など、あらかじめ質問を用意して現場に入りました。だから舞台稽古に入って、皆に聞いたとおりセリフも覚えて役作りをして心境を考えて、得た知識を全部使って臨みましたから、初日の「やった感」はすごかったです。

 ところが、稽古の動画を家で見た瞬間「何じゃこりゃ!」と愕然としました。100点中2点です。昨日の段階でようやく10点くらいでしょうか。人に見せられる状況ではないです。本当に芝居ってめちゃくちゃ難しい、気づいたら素の「冨田龍太郎(本名)」が出ています。

 役のことも、頭では分かっているのに言葉にできない。しかも日々、時には稽古の最初と最後で人物像が変わってしまいます。今回の役ですか?「モコ」という見習いの水夫で、優しい心を持っていて、常に中立の立場にいます。そして今思うのは、悲しみを持っているけど、人前では笑顔で振る舞っている。そこにいるだけで場が和むような存在だということです。

 鈴木勝秀監督は「何でも試して思いついたことをやったらいい」と言ってくださるので、僕はウキウキと「挑戦しましたよ」という顔で満足げにやっているんですけど、帰宅して撮影した動画を見たら、「これ、監督は絶対違うと思っているだろうな」と分かるんです。その日の昼には「できた」と思っていることが夜には反省点となり、気づいて変わった自分を1秒でも早く見せたいと思う。毎日これの繰り返しです。これからも1つずつ重ねて、俳優として頑張っていきたいです。

最後はダブルピースで
最後はダブルピースで

■編集後記

初めてドラムさんにお会いしましたが、笑顔がとてもかわいらしくて、写真撮影の際も次々とかわいいポーズを決めていくのには驚きました。あまりにも恵まれた展開に見えますが、物事をしっかり計画立てて考える方でもあります。現状を把握し、次に自分がなすべきことを冷静に見ながら確実に進んでいく姿は、今後が楽しみになります。

■富栄ドラム(とみさかえ・どらむ)

1992年4月11日生まれ、兵庫県出身。元大相撲力士、現役当時の四股名は富栄(とみさかえ)、最高位は幕下6枚目。日曜劇場『VIVANT』(TBS系)でドラム役を好演。他、『サンクチュアリ ‐聖域‐』(Netflixドラマ)、映画『翔んで埼玉~琵琶湖より愛をこめて~』など。現在、NHK『みんなの手話』ナビゲーター、『news every.』(日本テレビ系)リポーターとして出演中。『ルール~「十五少年漂流記」より~』は東京・よみうり大手町ホール(5/16~26)、大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール(6/1~2)にて上演予定。https://rule-stage.com/

フリーアナウンサー/リポーター

東京都出身。渋谷でエンタメに囲まれて育つ。大学卒業後、舞台芸術学院でミュージカルを学び、ジャズバレエ団、声優事務所の研究生などを経て情報番組のリポーターを始める。事件から芸能まで、走り続けて四半世紀以上。国内だけでなく、NYのブロードウェイや北朝鮮の芸能学校まで幅広く取材。TBS「モーニングEye」、テレビ朝日「スーパーモーニング」「ワイド!スクランブル」で専属リポーターを務めた後、現在はABC「newsおかえり」、中京テレビ「キャッチ!」などの番組で芸能情報を伝えている。

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