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ハーランドとエンバペの“共存”の可能性はあるのか?レアルの野心と「新銀河系軍団」誕生の可能性。

森田泰史スポーツライター
去就が注目されるハーランド(写真:ロイター/アフロ)

新たな銀河系軍団が、形成されるかもしれない。

現時点でリーガエスパニョーラの首位を快走しているのがレアル・マドリーだ。マドリー(勝ち点49)を追走できているのは実質的に2位セビージャ(勝ち点44/未消化1試合)のみで、3位ベティス(勝点34/未消化1試合)とは大きく差が開いている。

そんな中、冬のマーケットが開幕した。好調であるゆえに、マドリーが今冬の市場で補強に動く可能性は低いだろう。となると、目玉は次の夏である。

■レアル・マドリーの思惑

マドリーがパリ・サンジェルマンに所属するキリアン・エムバペを狙っているのは、もはや周知の事実だろう。エムバペの契約期間は2022年夏まで。つまり、今年の夏にフリートランスファーでの移籍が可能になる。

フロレンティーノ・ペレス会長が、関心を抱いている選手が、もう一人いる。ボルシア・ドルトムントのアーリング・ハーランドだ。

ハーランドは2020年1月にザルツブルクからドルトムントに移籍した。その際、加入2年後に契約解除金が7500万ユーロ(約92億円)に設定される契約が結ばれたといわれている。それが、このタイミングだ。

シュートを打つベンゼマ
シュートを打つベンゼマ写真:ロイター/アフロ

「今、ハーランドが退団するというのはないだろう。それは不可能だ。一体、どこの誰が世界最高峰のストライカーを冬のマーケットで放出すると言うんだ? ドルトムントは3大会でタイトルの可能性を残している。可能な限りベストなチームで、その大会に臨む」とはドルトムントのハンス・ヨアヒム・ヴァツケCEOのコメントだ。

「夏の移籍に関しては、我々がハーランドを残留させるのは難しいだろう。しかし、我々はそこに向けてチャレンジする」

■新たな本拠地とスター選手

マドリーは現在、本拠地サンティアゴ・ベルナベウの改修工事を行なっている。新ベルナベウが“お披露目”となるのは、2022年12月の予定だ。そう、今年の末である。

そこに向けてスタープレーヤーを確保する。それがペレス会長の目論見だ。

決定力を上げたヴィニシウス
決定力を上げたヴィニシウス 写真:ムツ・カワモリ/アフロ

ただ、ひとつ、問題がある。そのスター選手たちの共存だ。

無論、それは贅沢な悩みである。今季、マドリーではカリム・ベンゼマとヴィニシウス ・ジュニオールが輝きを放っている。ベンゼマ(リーガ17得点)とヴィニシウス (12得点)が攻撃を牽引しているのは明らかだ。

マドリーのリーガの45得点のうち、29得点をベンゼマとヴィニシウスが挙げている。実に64%を、この2選手が記録しているのだ。

ボールを追うエムバペ
ボールを追うエムバペ写真:ロイター/アフロ

ハーランドとエムバペを無理にでも嵌めるのであれば、どうなるだろうか。動かせないのは、ハーランドとヴィニシウスだろう。ハーランドは、近年の欧州のフットボールシーンにおいては珍しい、典型的な「9番」タイプの選手だ。3トップの中央が適性ポジションで、それ以外というのは考えにくい。

ヴィニシウスは、ジネディーヌ・ジダン前監督が、度々右サイドで試していた。しかし、逆足のアタッカーとして縦への突破とカットインを分けながらドリブルするのが彼の最大の持ち味だ。ジダン前監督でさえ、徐々にヴィニシウス を左サイドに固定していった。

その中で、ポリバレントなのはベンゼマとエムバペだ。そこで、ベンゼマをトップ下に下げる案が浮上する。【4−2−3−1】で、1トップにハーランド、左にヴィニシウス、右にエムバペという布陣だ。

だが、この場合、【4−3−3】のシステムを放棄することになる。マドリーをチャンピオンズリーグ3連覇に導いたシステムだ。何より、カゼミーロ、トニ・クロース、ルカ・モドリッチという盤石の中盤を崩すというのは非常に困難なミッションである。

■ペレスのジレンマ

過去には、他ならぬマドリーとペレス会長が、このジレンマに囚われていた。

第一次ペレス政権(2000年―2006年)において、マドリーは大物選手を次々に獲得した。ルイス・フィーゴ、ジダン、ロナウド、マイケル・オーウェン、デイビッド・ベッカム…。2001−02シーズンには、チャンピオンズリーグ制覇を達成。レアル・マドリーの名を、再び世界に知らしめた。

だが勝利の美酒に酔ったのも束の間、マドリーの歯車は狂い始める。大型補強が敢行される一方で、フェルナンド・イエロ、クロード・マケレレといった選手が放出された。“黒子役”や“汗かき役”を軽視した結果であるのは自明だった。

第一次ペレス政権のマドリー
第一次ペレス政権のマドリー写真:ロイター/アフロ

「私はクラブと話をした。彼らは常に明確だ。新たなスタジアムに、若い選手たち…。未来はより良いものになる。補強について具体的な名前は挙がっていない。すでに素晴らしいメンバーが揃っている」

「新しいスタジアムで、監督がアンチェロッティであることを望んでいるよ。補強について名前を出すことはしたくないが、とにかく新スタジアムで指揮を執っているのがアンチェロッティであって欲しいと思っている」

これはカルロ・アンチェロッティ監督の言葉だ。

アンチェロッティ監督が語る通り、マドリーで決定権を有するのは会長のペレスである。今季、タイトルを獲得した場合、アンチェロッティ監督の要望が反映された補強が行われる可能性はある。しかしながら、それは新本拠地とスター選手の確保というクラブのプロジェクトが壊されることを意味するものではない。

改修工事は進み、プロジェクトは進行している。新たな銀河系軍団が新ベルナベウのピッチに颯爽と駆け出す日の到来も、そう遠くはない。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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