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女性ペアNG?変わらない現実を問う「レディ・トゥ・レディ」。主演の大塚千弘と内田慈が考えたこと

水上賢治映画ライター
「レディ・トゥ・レディ」で主演を務めた内田慈(左)と大塚千弘(右) 筆者撮影

 高校時代、競技ダンスで脚光を浴びながら、シニアになると女性ペアがないためダンスを断念した真子と一華。時が流れ、30代をとっくに過ぎた真子はパートと家事育児に追われる主婦に。一方、独身の一華は女優として活動するも鳴かず飛ばずの状態。そんなさえない二人が再会を果たし、テレビ番組の企画で競技ダンスでペアを組み、大会へ挑む!

 こんなストーリーが展開するのが、現在好評公開中の藤澤浩和監督の商業デビュー作「レディ・トゥ・レディ」だ。

 1996年に大ヒットしてハリウッドでリメイクもされた周防正行監督の「Shall we ダンス?」。その流れをくむといっていい作品に仕上がる。

最初のイメージは、やっぱり『Shall we ダンス?』

 真子を演じた大塚千弘と、一華を演じた内田慈の主演二人は脚本のファースト・インプレッションをこう明かす。

内田「最初の段階では、シンプルにダンス・エンターテインメントを追求したようなポップで笑顔になれる映画になるんじゃないかと思ってました。最初の仮タイトルも、『アタシは貴方と踊りたい!』で、余計に」

大塚「私もそうでしたね。ダンス・ムービーで、やっぱり『Shall we ダンス?』のような笑えて感動できる作品になるんじゃないかと、心が弾んだところがあります」

「レディ・トゥ・レディ」より
「レディ・トゥ・レディ」より

2カ月近くの灼熱の夏レッスンから、酷暑の埼玉県熊谷市での撮影へ

 まず、二人に課せられたのは社交ダンスのレッスン。2カ月近く灼熱の夏にレッスンを積んだ。

大塚「ある程度は覚悟していましたけど、社交ダンスはそう簡単ではなかったですね。ひとりのダンスではなく、ペアで踊りますからなおさら難しかったです。ハードな稽古をみっちり積みました(笑)」

内田「しかもそのレッスンが終了して、翌日の撮影地が全国でも酷暑で知られている埼玉県の熊谷でのダンス・スタジオでの撮影。暑くて、初日で精根尽きる感じでした(苦笑)

大塚「競技のシーンも1日で撮ったんですけど、夜はもう疲れ果てて、あのドレスのまま二人ともぐったりしていたよね(笑)」

 こんな二人の努力もあって、作品は、時にぶつかり、時に挫折しながらも、互いを認め合った真子と一華がみせるダンス・シーンが大きな見どころ。ダンスによって飛躍する二人の姿に心が躍る作品は、ダンス・ムービーとしての魅力が溢れる。

「レディ・トゥ・レディ」より
「レディ・トゥ・レディ」より

単なるエンターテインメントではない、世の中にある不平等なルールや考え方に一石投じている

 ただ、そうしたエンターテインメント性で人間の生きる輝きを届ける一方で、社交ダンスの女性同士のペアが認められていないという現行のルールを引き合いに出し、現代を生きる女性たちの不自由さや不当な扱いに言及し、ピリッと風刺のきいた社会派の側面も持

。単なるエンターテインメント作品にとどまらない内容になっている点も見逃せない。

内田「藤澤監督にはご自身のヴィジョンが明確にあられる。でも、すごくしなやかで柔軟で、私たちの意見もきいて、いいものはどんどんとりいれて、脚本に反映させてくださる。

 その反映する姿勢は、社会の情勢にも敏感に反応していて。たとえば、ハラスメントに関してはもともと要素が脚本に入っていたんですけど、撮影に入る前後に#MeTooのムーブメントが起き始めて、より色濃くしたところがあった気がします

 なので当初の脚本の基本は変わらないんですけど、そこからアップデイトすることで、より現代の女性の立場や社会の中での生きづらさがより色濃く出た気がします

大塚「ただただ楽しいだけのダンス・ムービーではない。

 この作品は、確かに男女間に生じるパワハラやセクハラ、格差や差別について問題提起しているところがある。でも、もっと藤澤監督の視点は広くて、この世の中にある不平等なルールや考え方に一石投じている気がします

 でも、一方的に女性だけの窮状や言い分を声高に伝えようとはしていない。こういう変わらない現実がある、それを変えるにはどうすればいいのか?私たちに問いを投げかけているところがありますよね

「レディ・トゥ・レディ」より
「レディ・トゥ・レディ」より

内田「そうだよね。藤澤監督は、社交ダンスでは認められない、採点対象にもならない、女性のダンスペアということをモチーフに、現実世界にある性差を含め性差をも超えた『枠組み』について問う作品をつくりたかったのかなと

 女性の立場とか男性の立場とか関係なく、どうやったら人と人は認め合うことができるのか、どちらかがマウントをとったり、卑下したりすることなく生きることができるのか。そのことを考えるきっかけになる作品になっていると思っています」

「レディ・トゥ・レディ」より
「レディ・トゥ・レディ」より

エンターテインメントが生きる活力に

 もうひとつ裏テーマではないが、この作品には隠されたメッセージがある。

 それはアートをはじめとしたカルチャーやスポーツの果たす役割について。効率や成果ばかりが求められる社会、今も続くコロナ禍で、その存在意義が問われたところがある。

その中で、本作は、アートやスポーツのすばらしさの本質を突く。

大塚「自分もその世界に身を置くひとりではあるのですが、ほんとうにエンターテインメ

ントの存在について考える1年になりました。

 この特別なときに、社交ダンスを通じて、エンターテインメントのすばらしさを伝えるこの作品が公開されるのはある意味、運命なのではないかと思いました。このときを待っていたのではないかと。

 2年以上前に撮影された作品で、正直言うともうお蔵入りするのではないかと。劇場公開されるのか不安でした。

 でも、いまこのタイミングで公開されてほんとうによかったと思っています」

内田「私自身、今回のコロナ禍で実感したのは、食べて寝るだけで生きることはできる。

 でも、日々を生きていくための活力は、それだけではなかなか成立しないということでした。

 つまり、なにか夢をみさせてくれたり、気持ちを前に向かせてくれて、頑張ろうと思えるものが必要で。そういうものなしでは、生きることがしんどくなる。

 真子と一華は、大会のためにダンスを再開するわけですけど、最後は自分が踊りたいから踊るに意識がシフトしていく。自分にとってダンスが生きる活力になる。

 これはアートやスポーツなどあらゆるエンターテインメントが、人にとって食べ物や空気と同じように必要不可欠なことを物語っているような気がします

 そう思える作品をいま届けられたことに、この作品の必然性を感じています

内田慈(左)と大塚千弘(右) 筆者撮影 撮影協力:ヒューマントラスシネマ渋谷
内田慈(左)と大塚千弘(右) 筆者撮影 撮影協力:ヒューマントラスシネマ渋谷

実は誕生日が一緒!二人が見つめる自分たちの未来像

 こうしてダブル主演を務めた二人だが、彼女たちにはいくつか共通するところがある。どちらも映画、ドラマ、舞台で活躍し、声優としてのキャリアもある。二人ともプロフィールを見ればわかるように、主演はもとより、脇役、ワンポイントの役までさまざまなタイプの役をこなす。そして、年は違うが実は誕生日が一緒。

 傍から見ると同じようなキャリアを歩み、同じような立ち位置にいる女優のように映る。そんな二人はこれまでとこれからをどう考えているのだろう?

大塚「あまり私の中では『これが主役だから』という意識はなくて。とにかくその役がワ

ンポイントだろうと、主役であろうとなんでも必死にやってきました

 たぶん、その姿勢はこれからも変わらないと思います。

 オファーをいただけた場合、相手の方が少なからず『大塚千弘にこの役を』と思ってくださっている。私ならこの役を演じてほしいと期待してくださっている。

 その期待に応えたい。その期待に応えるためにも、私にしかできない、なにかを全力で探さないといけないし、どんな役も必死になってやるしかない。

 そのことは苦しくなることもありますけど、役者としてはそれもまた楽しいんですよね。といいながらも私ぐらいのキャリアではまだまだ。尊敬できる先輩方がほんとういっぱいいらっしゃるので、そういうみなさんを見習いながら、自分なりの道を進んでいければと思っています」

内田「最近、思い出したんですけど、私の小学校のときのあだ名が『カメ』で。今考えるとひどくて小学校の時の先生につけられたあだ名なんですけど(笑)、足だけは速かったんですが、そのほかのことがほんとうにゆっくりで歩みが遅かった。

 デビューして20年近くが経つんですけど、いまようやくいろいろなことを見渡せる余裕ができて、少し自分自身が自由になってきているところがある。

 この20年でできなくなったこともあるけど、できることも確実に増えてきて、なにか役者としてのほんとうの意味でのスタートラインにいま立っているような気がする

 そういう意味で、いますべてのことに新鮮に取り組めていて、この調子で50、60代になったときにもっと自由になれていたらステキだなと思うんです。

 この前たまたま見た配信の占いで、私の好奇心は高校生ぐらいだと(笑)。どうやら、私はいまいろいろなことに興味をもって学び、知ることが楽しい時期にいるようだというのに妙に納得して。

 私にとっては、過程も全て目的です。これから自分がどういう風に変化していくのかを楽しみにしています。

 特に30代に入ってから、役を演じているときに『いま、私生きている!』と強烈に感じる瞬間があります。自分の実人生を生きている中で、こんなに『生きてる』と感じたことあったっけというぐらい。

 演じることによって、自分の実人生も豊かになっているところがある。生きることと演じることが、どっちかのためじゃなくて、いま両輪になって自分が前に進んでいるところがある。変化を恐れずにこれからもいろいろな役をやっていければと思っています」

「レディ・トゥ・レディ」

監督・脚本:藤澤浩和

出演:大塚千弘 内田慈 ほか

ヒューマントラストシネマ渋谷、横浜シネマリンほか公開中。

1月30日(土)より神戸 元町映画館、

2月20日(土)より新潟 シネ・ウインドにて公開。

場面写真はすべて(C)2020イングス

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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