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なぜ日本のメディアは「2桁勝利&2桁本塁打」だけを特別視し続けるのか?日米にある温度差を考える

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
8日のアスレチックス戦に登板予定の大谷翔平選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【104年ぶりの快挙達成に4度目の挑戦】

 今更説明する必要はないと思うが、9日のアスレチックス戦に登板予定の大谷翔平選手が、1918年にベーブ・ルース選手が達成して以来の2桁勝利&2桁本塁打の快挙に挑む。

 7月13日のアストロズ戦で今シーズン9勝目を挙げ、快挙達成に王手をかけてから、ここまで3試合に登板しながら足踏み状態が続いており、今回が4度目の挑戦となる。

 登板前日となる8日の試合は自ら先発から外れる判断を下し、注目が集まる登板に臨むことになる。

【快挙達成を巡る日米の温度差】

 ところで、104年ぶりの快挙達成に王手がかかってからというもの、日本のメディアはとにかく大騒ぎしているように感じる。スポーツ紙に止まらず一般紙や週刊誌も加わり、連日のように大谷選手の話題が取り上げられている。多分「104年ぶり」「ベーブ・ルース以来」「2桁勝利&2桁本塁打」などの文字を見ない日はないのではないか。

 もちろん2桁勝利&2桁本塁打は間違いなく快挙であるし、それを達成したのは1918年のルース選手しかいないというのも紛れもない事実だ。だが日本で大騒ぎされているほど、この快挙が米国でも大きな注目を集めているのだろうか。

 この記事に辿り着いた方々の中にも、世紀の瞬間に立ち会おうと大谷選手の登板を生観戦した人も少なくないだろう。だが画面に映し出されるのは、空席が目立つエンジェル・スタジアムではなかっただろうか。

 その光景を見て、日本の熱狂ぶりとのギャップに戸惑われた方もいたように思う。

【快挙王手のホーム2試合はいずれも平均以下】

 こうした日米の温度差は、間違いなく昨年から生じていた。大谷選手は昨シーズンのホーム最終戦で、最初の2桁勝利&2桁本塁打達成の機会を得ており、当時も日本では大々的に報じられていたのは記憶に新しいところだろう。

 だが当日のエンジェル・スタジアムは3階席がほとんど空席状態で、結局2万2057人の集客に止まっていた。ちなみに同球場の収容人員は4万5050人なので、観戦者は5割に満たなかったわけだ。

 そこで今シーズン快挙に王手がかかってから大谷選手が登板に臨んだ3試合の観客動員数についても見てみたい。これはあくまでMLBから公式に発表されている数字なので、嘘偽りない数字だ。

 7月22日 ブレーブス戦(アウェー) 4万2867人

 7月28日 レンジャーズ戦(ホーム) 2万9718人

 8月3日 アスレチックス戦(ホーム) 2万5190人

 ブレーブス戦に関しては、大谷選手にとって初めてのアトランタ遠征だということもあってか、今シーズンのブレーブスの平均観客動員数(3万8381人)を上回る盛況ぶりをみせている。だがホームの2試合は、いずれもエンジェルスの平均観客動員数(3万1006人)を下回っている。

【すでに大谷選手の評価はルース選手を超えている】

 だからといって、大谷選手が米国で注目を集めていないわけではないし、二刀流として正当な評価をされていないわけでもない。むしろ2桁勝利&2桁本塁打の達成に関係なく、大谷選手に対する最大限の評価はすでに揺るぎないものになっていると考えるべきだろう。

 米国では日本以上に、スポーツ界の歴史や記録を大切にしている。昨シーズンも大谷選手が二刀流でフル回転の活躍を続ける中、2桁勝利&2桁本塁打に止まらず、過去の歴史を塗り替える様々な偉業が紹介されてきた。

 だからこそ現代に蘇った二刀流選手に最大限の賛辞が送られ、最終的に満票でMVPを受賞するという栄誉も与えられている。

 そして今では競技の枠を超えてアスリートたちの間からも「世界最強のアスリート」という評価を受けるまでになり、米国では2桁勝利&2桁本塁打も大谷選手の「数ある偉業の1つ」として受け止められているように感じている。

【ルース選手でさえ実際は二刀流でフル回転できず】

 そもそも個人的には、大谷選手が昨シーズン二刀流としてシーズンを通してフル回転していた時点で、大谷選手がルース選手を凌駕してしまったと考えている。

 ルース選手は本格的に二刀流に挑戦したのは、1918年と1919年の2シーズンだけだが、1917年までルース選手はほぼ投手専任だったが、1918年からは登板数が極端に減少しているからだ。

 改めてルール選手の投手成績をチェックしてみると、1915年から1917年(1914年はシーズン途中入団なので除外)の登板試合数(括弧内は先発試合数)は32(28)→44(40)→41(38)となっているが、1918年から2年間は20(19)→17(15)に止まっている。

 しかも当該2年間はシーズン後半戦でほぼ打者に専念しており、1918年は9月以降まったく登板していないし、1919年も8月以降 3試合しか登板していない。二刀流としての価値は、明らかに大谷選手の方が上なのだ。

 もう大谷選手を評価する上で、2桁勝利&2桁本塁打をことさら取り上げる必要はないはずだ。104年ぶりの快挙ではなく、むしろ大谷選手にとってMLB移籍後初の2桁勝利達成を賞賛したい気持ちだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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