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NHKが受信料を値下げするようだが、その前にやるべきことがある

遠藤司皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 10月12日、NHKが受信料を引き下げるとの方針を表明したことが、世間を賑わせている。NHKの上田会長は、早ければ2019年度にも受信料を引き下げると述べている。

 かねてNHKの受信料は、高額だと言われてきた。いくら値下げするのかについてはNHK執行部で検討中のようだが、国民に納得感のある金額になるかといえば、疑問が残る。2012年の値下げでは、口座・クレジット支払いで月額120円、継続振込みで月額70円と、下げ幅が小さかった。インターネットその他の動画配信サービスと比較するならば、相当な値下げを行わなければ、国民は許容しないだろう。

 一方で、ものが高いか安いかは、金額に見合った内容が提供されているかどうかによる。まったく利用しないものは100円でも高いが、自分の人生を変えてくれるものは、1万円でも格安である。つまり、国民がNHKを高いと考えている現状においては、NHKのコンテンツが金額に見合っていないか、もしくはNHKが番組の価値を訴求できていないかの、どちらかである。

2017年に行われた調査では、NHKのプライム帯番組の満足度は、なんと1位である。テレビを観ている人たちは、受信料の妥当性はさておき、NHKのコンテンツについては高く評価しているようだ。そうであれば現状の課題は、観ていない人たちに向けた価値訴求であろう。

 どうすればNHKの価値向上は可能となるのか。営業改革によって、それは実現される。

訪問員の教育に力を入れよ

 インターネットでNHKと検索すると、NHK訪問員の撃退法とか、不正の実態などといったネガティブな結果が、わんさか出てくる。

 いくつか内容をピックアップすれば、NHKからの委託業者なのにNHKの者だと名乗る、忙しいから帰ってくれと言っても帰らない、虚偽の説明によって契約を結ばされる、などといったものが多くみられる。これらが本当であれば、相当目に余る行為である。公共放送たるNHK、誇張されて広まっていることを願いたい。

 真偽はさておき、問題はこれらの悪評がそこら中にみられるのに、NHKが信用回復のために適切に対応できていないことだ。信用されていなければ、訪問員の話も聞きはしない。それでも訪問員は、何とか契約を結ぼうと懸命に働く。結果として、さらなる不信を生み出すことになる。本来仕事とは、自己実現のための手段である。嫌われ者になるための手段ではない。

 いかなる組織においても、不正を働く者はいる。これは人間の弱さに起因する問題であるから、完全になくすことはできない。人は、追いつめられているときにこそ、不正を働く。人に嫌がられる自分を見つめ続けることなど、誰にもできない。かくして不正の起きやすい状況ができ上がる。負のスパイラルに陥ってしまうのである。

 不正は完全にはなくならない。そうであれば、ごく一部の者が不正を働いたとしても、それを除く大多数の者が、信用を回復するために努めなければならない。そうすることで、トータルで見たときにNHKは、信用に値するとみなされる。信用が信頼に変わったとき、NHKの訪問員のために家庭のドアは開くようになる。

 営業パーソンにとっては常識だが、信用を得るためには、有益な情報を与えることだ。現在の訪問員は、お客様満足の向上に努めるとは言っているが、訪問目的は受信契約が主であり、満足向上に向けた活動にはなっていない。驚くことにNHKのホームページでは、委託業者の訪問員でも、NHKの○○だと名乗ることが記されている。これでは国民の不信感を煽るだけである。

 契約は義務だ、などという前に、NHKのコンテンツがいかに有益かを伝えることが先である。例えば、NHK教育スクールはお子様の情操教育によいとか、高校講座は大学の有名な先生も講義する質の高いものだ、などという営業トークは、お母さんたちの心を掴むだろう。塾に行く費用に比べれば、NHKで勉強したほうが格段に安い。スポーツ配信も豊富だし、ドキュメンタリーなどは感動させてくれるものが多い。そういった情報があれば、ひとつ契約してみようかといった気持ちにもなるだろう。放送法に訴えるのではなく、しっかりと中身に納得してもらって契約したほうが、好感度も維持できよう。

 最近の営業パーソンは、モバイル端末などに用途に合わせた提案資料を格納している。NHKもそれらを作成し、訪問員がうまくプレゼンできるように、親身になって教育を施すとよいだろう。顧客満足度向上のための営業研修などに参加してもらうことも、検討したほうがいい。営業は、会社の顔である。訪問員もまた、会社の印象を左右する、きわめて大切な人員なのである。

テレビの将来はNHKにかかっている

 若者は、テレビを観ない。なぜなら、テレビを観る理由がないからである。サイバーエージェントの調査によれば、10代後半から20代の6人に1人は、テレビを持っていないか、または1カ月以内にテレビを視聴していないと回答している。日に3時間以上視聴する層もおよそ3割と、大半はテレビに高い価値を見出せていないのが実情である。

 それなのに、テレビを持てば高額な受信料が発生するとなれば、テレビを所有する人の数も少なくなっていくのは必然といえよう。だからこそ、いま行わなければならないのは、若者に対してテレビの面白さ、有益さを伝える活動である。それには、民放の力だけでは足りない。NHKの抱える多くの訪問員の力があってこそ、テレビに対する評価は取り戻すことができる。

 また、公平感を出すためにも、やはり観ていない人にはスクランブルをかけるなどの対応が望まれる。NHKを観ていながら受信料を払っていない人がいることは、受信料を支払っている人たちにとっては、まったく腹立たしいことである。お客様に対して真摯な態度をとるためには、非顧客と明確に区別する必要がある。大丈夫、むしろNHKの価値は上がる。テレビ局屈指の満足度を維持しているのだから、NHKはもっと自信をもったほうがいい。

 テレビの未来はNHKにかかっている。そのためには、値下げも結構だが、訪問員の教育に力を入れるべきである。訪問員は、明日のテレビ業界を担う、いわば伝道師である。仕事に誇りがもてるように、彼らのことを支えてほしい。

皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー

1981年、山梨県生まれ。MITテクノロジーレビューのアンバサダー歴任。富士ゼロックス、ガートナー、皇學館大学准教授、経営コンサル会社の執行役員を経て、現在。複数の団体の理事や役員等を務めつつ、実践的な経営手法の開発に勤しむ。また、複数回に渡り政府機関等に政策提言を実施。主な専門は事業創造、経営思想。著書に『正統のドラッカー イノベーションと保守主義』『正統のドラッカー 古来の自由とマネジメント』『創造力はこうやって鍛える』『ビビリ改善ハンドブック』『「日本的経営」の誤解』など。同志社大学大学院法学研究科博士前期課程修了。

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