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乾癬と精神疾患の深い関わり ー 最新研究で明らかになった炎症性皮膚疾患が脳に与える影響

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(提供:イメージマート)

【乾癬は全身性炎症疾患 ー 皮膚だけでなく全身に影響を及ぼす】

乾癬は比較的一般的な慢性炎症性皮膚疾患で、世界人口の1~2%が罹患しています。かつては単なる皮膚の病気と考えられていましたが、近年の研究で乾癬が全身に影響を及ぼすことが明らかになってきました。乾癬と皮膚以外の臓器・システムとの関連性を探る研究が増えており、乾癬は自己炎症性疾患であり、全身性の炎症を特徴とするという理解が深まっています。

乾癬は、心血管系、消化器系、腎臓など、さまざまな臓器に影響を与えることが知られています。最近では、乾癬と精神疾患との関連性にも注目が集まっています。これは、皮膚症状が患者の生活の質に悪影響を及ぼすだけでなく、乾癬と精神疾患が免疫介在性の炎症メカニズムを共有していることが明らかになったためです。

【乾癬患者の認知機能低下と脳活動の変化 ー 大規模研究で明らかになった実態】

Yi et al.の大規模研究では、222名の乾癬患者と144名の年齢・性別をマッチさせた健常対照群を比較し、乾癬患者の脳活動の変化と認知機能の低下を詳細に調査しました。被験者は複数の認知機能評価質問票を用いた徹底的な神経心理学的検査と、安静時機能的磁気共鳴画像法(rs-fMRI)を受けました。

研究結果は、乾癬患者が健常者と比べて認知機能が低下していることを明確に示しています。Trail Making Test、Digit Span Test、Stroop Color-Word Testのすべてにおいて、乾癬患者のスコアが有意に低かったのです(すべてのテストでp<0.005)。さらに、rs-fMRIでは、運動計画、意思決定、推論など多くの認知プロセスに関与する左上前頭回、左内側上前頭回、右楔前部で、低周波数変動(ALFF)の振幅が減少していました。興味深いことに、これらの変化は双極性障害の患者でも見られる変化と一致しています。

rs-fMRIの変化は、患者の認知機能の低下と有意に相関していました。一方、乾癬の重症度(PASIスコアで評価)とALFF値との間には有意な相関は認められませんでしたが、注意力、反応抑制、処理速度、記憶力の認知検査スコアとは正の相関がありました。ALFF値と生活の質、うつ、不安との間に差は見られませんでした。

【乾癬と精神疾患の関連性 ー 炎症性経路の共有と治療アプローチ】

乾癬が患者の精神健康に及ぼす影響は、世界中で広く研究されています。文化的背景に関係なく、乾癬は生活の質を低下させ、不安やうつ病の有病率を高め、希死念慮につながることが証明されています。当初、精神健康への影響は主に、かゆみや皮膚病変の目立ちやすさ、恥ずかしさ、社会的スティグマが原因と考えられていました。

しかし最近では、乾癬の病態生理が、うつ病、不安症、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、統合失調症、双極性障害などの精神疾患と炎症経路を共有していることが明らかになっています。乾癬の複雑な炎症サイクルは、主にTh1/Th17リンパ球とIL-6、IL-17、TNFαなどの炎症性サイトカインによって駆動されます。うつ病、不安症、統合失調症の患者でも、同様のサイトカインの濃度上昇が観察されています。

乾癬患者で観察される視床下部-下垂体-副腎(HPA)系の過活動は、不安症やPTSDの患者でも報告されています。また、TNFαの濃度上昇は、ニューロンの破壊やグルタミン酸の神経毒性放出を引き起こす可能性があります。TNFαとIL-17は、全身性強皮症、アルツハイマー病、パーキンソン病の病態生理にも関与していることがわかっています。

皮膚は身体の一部であり、皮膚の健康は全身の健康と密接に関係しています。乾癬のような炎症性皮膚疾患は、皮膚だけでなく全身に影響を及ぼす可能性があります。今回の研究結果は、乾癬患者の治療において、皮膚症状だけでなく精神面のケアも重要であることを示唆しています。乾癬患者の治療には、皮膚科医と精神科医の緊密な連携が不可欠です。炎症のコントロールと同時に、患者の精神的なサポートを行うことで、乾癬患者のQOLの向上につながるでしょう。また、乾癬と精神疾患の関連性をさらに解明するため、今後も大規模な研究が必要とされています。

参考文献:

1. Yi X, Wang X, Fu Y, Luo Y, Wang J, Han Z, et al. Altered brain activity and cognitive impairment in patients with psoriasis. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2024;38:557–67.

2. Szepietowski JC, Krajewski PK, Pacan P. Psoriasis: An inflammatory skin disease affecting the mind. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2024;38:460–461. https://doi.org/10.1111/jdv.19740

3. Bu J, Ding R, Zhou L, Chen X, Shen E. Epidemiology of psoriasis and comorbid diseases: a narrative review. Front Immunol. 2022;13:880201.

4. Hedemann TL, Liu X, Kang CN, Husain MI. Associations between psoriasis and mental illness: an update for clinicians. Gen Hosp Psychiatry. 2022;75:30–7.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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