芸人にアイドルも…高級・人気ブランドで相次ぐ「日本人アンバサダー」起用の思惑
欧米のファッションブランドが日本人アンバサダーを起用するケースが相次いでいます。なぜでしょうか。メディアで見聞きする機会が増えてきたアンバサダーとは、そもそもどんな役割なのでしょう。最近の事例をヒントに、日本人起用が増えてきた、海外ブランドのアンバサダー事情を掘り下げてみました。
「アンバサダー」とは、英語で「外交官、大使」という意味です。本国を代表して、相手国で「顔」的な存在になるところから、ブランドのイメージを体現する人も、こう呼ばれるようになりました。
アンバサダーを選び、任命するのは各ブランドです。ブランドのイメージを託すわけですから、当然、好感度や知名度などの高い人が選ばれることが多くなります。ブランド側が発信したいメッセージを印象づけるような人選も目立ちます。
このところ増えてきたのは、欧米ブランドが日本人をアンバサダーに起用するパターンです。以前は欧米の俳優やファッションモデルを起用するケースが多かったのですが、日本マーケットでのなじみやすさや消費者からの親近感に配慮してか、日本向けには日本人アンバサダーという人選が増える傾向にあります。
背景にあるのは、日本マーケットの安定感でしょう。新型コロナウイルス禍の中でもそれなりの消費ボリュームを保ち、ラグジュアリー市場の厚みを証明しました。欧米ブランドがマーケティングで相手先の事情を意識する「ローカライズ」の意識が強まってきたことも日本人起用を後押ししているようです。
タイムリーな起用が目立つようになってきました。たとえば、NHKの連続テレビ小説『ちむどんどん』でヒロインを務めた女優・黒島結菜さんはニューヨーク発のブランド企業、「MICHAEL KORS(マイケル・コース)」がジャパン・ブランド・アンバサダーに起用。日本国内でマイケル・コースの世界観を表現する存在として期待されています。
日本にとどまらない起用例も出始めています。「UGG(R)(アグ)」はグローバルアンバサダーにコメディアンの渡辺直美さんを迎えました。一緒に選ばれたアンバサダーは計10人。ファッションモデルのほか、プロBMXアスリートやミュージシャン、シェフ、スタイリストなど、様々なジャンルや立場の表現者・パフォーマーがそろっていて、多様性や自分らしさを応援するスタンスを感じさせます。
アンバサダーはブランドの哲学やポリシーを象徴・代弁する存在です。近ごろはSDGsやウェルビーイングなどがブランドへの共感や支持を左右する傾向が強まっています。だから、以前にも増して、その人物のイメージやライフスタイルを重視するようになってきました。さらに、生い立ちやヒストリー、仕事ぶりなどにも、ブランドとの親和性を求めるようになりつつあります。
ファッションモデルのemma(エマ)さんは、AIGLE JAPAN(エーグル ジャパン)の2022年秋冬シーズンアンバサダーに選ばれました。「AIGLE(エーグル)」はアウトドアウエアで知られるフランスブランドです。emmaさんは都会で暮らし活躍する今も、幼少期を過ごした地元・北海道での、自然とともにある暮らしを「自分の源」と語り、大切にしています。街でもアウトドアでも自分らしく愉しむファッションを提案しているAIGLEのブランドフィロソフィーにマッチする点が起用につながったようです。
イタリア発祥のスポーツブランド「FILA(フィラ)」のブランドアンバサダーに7人組ダンス&ボーカルグループ「BE:FIRST(ビーファースト)」が就任。先日、日本再上陸を果たした「American Eagle Outfitters(アメリカン イーグル アウトフィッターズ)」の「American Eagle(アメリカンイーグル)」のジャパン・ブランド・アンバサダーの1人に就任した「GENERATIONS from EXILE TRIBE」の佐野玲於さんなど、若々しいイメージのカジュアルブランドにふさわしい、ダンス・音楽系の人気スターも起用されています。
「TIFFANY & CO.(ティファニー)」が10月に日本のブランドアンバサダーとして迎えたのは人気グループの「Snow Man(スノーマン)」。ブランドにとって初のグループアンバサダーの起用だそうです。ブランド公式LINEではスペシャル動画を公開。年齢や性別を超えたブランドイメージを印象づける起用と映ります。
日本人をアンバサダーに起用する例は挙げればきりがないほどです。これまでに「CHANEL(シャネル)」の小松菜奈さん、「GUCCI(グッチ)」の志尊淳さん、「GIVENCHY(ジバンシィ)」の片寄涼太さんなど、トップブランドでも起用が相次ぎました。ファッションのほかにも、ビューティーやジュエリーなどのカテゴリーごとにアンバサダーを立てる例が増えてきました。「DIOR(ディオール)」はファイン ジュエリー & タイムピーシズ ジャパン アンバサダーに中谷美紀さんを起用しています。
日本での親近感を重視 SNSマーケティングが追い風
アンバサダーは俳優やアーティスト、スポーツ選手など、好感度・知名度が高く、信頼感も大きい人が選ばれる場合が多くなっています。一方で、数年前から日本でも定着しているのは、SNSでの発信力を持つ「インフルエンサー」を起用したマーケティングです。消費者に近い立場から、独自のスタンスでブランド価値を伝えてもらえる点で、インフルエンサーによる拡散はブランドにとってメリットが多い取り組みです。
俳優やアーティスト、スポーツ選手を起用するのは、さらに上質なブランドイメージを打ち出しやすいという利点があるようです。インフルエンサーとの2本立てでマーケティングに厚みを出すという戦略を採るブランドも増えてきつつあります。
ブランドがアンバサダーとコラボレーションする形で、限定アイテム、カプセルコレクションを発売する試みも目立ってきました。こうした「日本オンリー」の見せ方はローカライズに効果的で、その際にはコラボ相手が日本人であるほうが準備や交渉がスムーズです。日本での訴求力にも期待が広がります。
映画や音楽の世界で、日本マーケットの存在感が大きくなっていることも、日本人の表現者をアンバサダーに迎えるメリットと言えるでしょう。コンテンツ消費では日本・アジア発の人気が高まる流れにあります。同世代から支持を集める、著名な日本人を仲立ちにした共感の広がりは、日本人アンバサダー起用が増える背景とみえます。
ファッションの場合、その商品を自分が身に着けた場合に似合うかどうかが購入のポイントになります。とりわけ、サイズ感は重要です。欧米の俳優・モデルの場合、体型や顔立ちが異なる事情もあって、消費者が自分に引き付けてとらえにくいところがあります。その点、人気の日本人が着ていれば、親近感がわきやすいでしょう。近年はモード誌の表紙でも日本人の起用が珍しくありません。
消費を左右するといわれるSNSでも、共通の話題になりやすい日本人のほうが広い拡散を見込めます。その意味で言えば、本国目線のイメージ重視から、現地感覚のマーケティング重視へという流れが日本人アンバサダーを呼び込んだとも言えそうです。こうした親近感のわくローカライズは、ブランドイメージをとらえやすくなる点で消費者にもメリットがあり、日本人アンバサダーの起用はこの先も広がりをみせそうです。
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