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怪物級ファッションブランドが出現? 実店舗ゼロでもSNSで人気拡散 「SHEIN」急成長の理由

宮田理江ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター
7月に日本の主要都市で初のポップアップイベントを開催 (写真は福岡市、筆者撮影)

服の買い方が様変わりし始めました。これまでの「ショップ店頭で選び、試着し、持ち帰る」という手順は過去の物になるかもしれません。そう予感させるのは、店舗を持たないグローバルブランド「SHEIN(シーイン)」の急成長。日本でもファンが増えていて、2022年7月には国内の主要都市で相次いで初のポップアップイベントが開催されました。今回はこの「シーイン」の秘密に迫ります。

リアル店舗が存在しないので、イメージをつかみにくいところがあるようです。ところが、初のポップアップイベントでは実際に商品を披露したので、実物に触って確かめることができました。名古屋市や大阪市などの主要都市を巡った今ツアーのうち、筆者は福岡市でのイベントに足を運び、実物を確かめました。福岡会場は整理券が出る盛況ぶり。来場者には家族連れも多く見られました。

性別や年齢、体型を幅広くカバーした品ぞろえ (筆者撮影)
性別や年齢、体型を幅広くカバーした品ぞろえ (筆者撮影)

会場内の商品を見て回った結果、想像以上にコストパフォーマンスが高いと感じました。ボードに書かれていた言葉は「全身トータルこれで1万円以下」。実際には1000~2000円台のアイテムがかなりあり、アンダー5000円でも十分に全身スタイリングが可能な感じです。「常に60万点超えの品揃え」というボードがあった通り、商品群の厚みは常識を超えてくるレベル。「マタニティもプラスサイズも」「パパもキッズも」という文字も見え、実際に年齢、着用シーンなどの面でも幅広いラインアップでした。

会場のボードには「アメリカ発ファッションブランド」と表示 (筆者撮影)
会場のボードには「アメリカ発ファッションブランド」と表示 (筆者撮影)

日本語の公式サイトに載っている、ECサイトの運営企業名は「ROADGET BUSINESS PTE. LTD.」で、本社はシンガポールと書かれています。アメリカでSNSから認知度を高め、オンラインの巨大企業に成長。起源は中国にあるようですが、プレスリリースには「アメリカ発ファッションブランド」と書かれています。今回は「シーイン」の多彩なアイテムを通して、その強みを紹介しつつ、各アイテムを生かしたスタイリングのポイントも解説していきます。

最旬トレンドやY2Kスタイルも Z世代に人気の「DAZY(デイジー)」

バッグとスニーカーも白でそろえて、クリーンな雰囲気に (画像協力:SHEIN)
バッグとスニーカーも白でそろえて、クリーンな雰囲気に (画像協力:SHEIN)

「シーイン」には持ち味の異なるブランドラインがいくつもあります。Z世代に人気だという「DAZY(デイジー)」もその一つ。写真のアイテムは大人かわいい感じのキャミソールワンピースです(セール価格で1000円台に)。小花柄がキュートで、ヴィンテージ風のムードも。白Tシャツに重ねて、清潔感のあるカジュアルレイヤードに仕上げています。切り替えが施してあるティアードデザインがロマンティック。夏のお出かけに重宝しそうなタイプです。

ジレをワンピースのような感覚で着こなすのがZ世代流 (画像協力:SHEIN)
ジレをワンピースのような感覚で着こなすのがZ世代流 (画像協力:SHEIN)

トレンドのジレ(ベスト)をショートパンツと合わせて、2000年頃に盛り上がったファッションの「Y2K」風にコーディネート。ブレザー風のジレ(セールで1000円台に)は、襟が付いているうえ、肩パッドも入っているから、マニッシュなたたずまい。あえてTシャツとショートパンツという、カジュアル寄りのアイテムで合わせて、程よい「ずれ感」を醸し出しました。日本でも人気の海外ストリートスタイルを思わせます。

帽子とゴツめブーツで上下にボリューム感を出すのがポイント (画像協力:SHEIN)
帽子とゴツめブーツで上下にボリューム感を出すのがポイント (画像協力:SHEIN)

エプロンドレス(セールで2000円台)は人気の復活が目立つアイテムです。気取らないムードが出るのに加え、動きやすい服だから、夏フェスやキャンプにもぴったり。ナチュラルカラーを選べば、アウトドアの景色に溶け込みます。フラップポケットはハンズフリーになれるから、屋外で重宝。このようなアウトドア風アイテムを街でも着こなす人が増え、シーンフリーファッションは今後も人気が高まりそうです。

キュートでロックなムードのブランド「ROMWE(ロムウェ)」 ハイストリートの装いに

人気のチラ腹見せも、襟付きブラウスならきちんと見え (画像協力:SHEIN)
人気のチラ腹見せも、襟付きブラウスならきちんと見え (画像協力:SHEIN)

ハイストリート系ブランド「ROMWE(ロムウェ)」はシーインのサイト内で独立ブランドとして取り扱われています。SNSを通して日本でも認知度が高まってきたようです。キュート感やゴシック風味とロック色を兼ね備えたテイストが持ち味。こちらのチェック柄ブラウス(1000円ちょっと)はガーリーとトラッドの掛け算。ダメージ加工を施したデニムのミニスカートでマッチング。英国調パンク風味のスタイリングが簡単に決まります。

大人女性向け ディテールや素材にこだわったプレミアムライン「MOTF(モティフ)」

優美なシルエットのワンピースは大人女性にぴったり (画像協力:SHEIN)
優美なシルエットのワンピースは大人女性にぴったり (画像協力:SHEIN)

「シーイン」のプレミアムラインが「MOTF(モティフ)」。高品質な素材を使った、クラシックで大人っぽいスタイルを提案しています。しかも、プライスは「シーイン」ならではのお手頃価格。お仕事ルックにも使いやすいアイテムが多いのも「モティフ」のよさ。こちらは上半身をコンパクトに見せてくれるワンピース(アンダー7000円)。正面で布をツイストしたディテールが凝っていて、優美な見え具合。裾に向かって色の濃くなるグラデーションが上品な印象を強めています。

プラスサイズも充実している華やぎライン「EMERY ROSE(エメリーローズ)」

チュニック&パンツのセットアップでリラックスフェミニン (画像協力:SHEIN)
チュニック&パンツのセットアップでリラックスフェミニン (画像協力:SHEIN)

華やいだ雰囲気で、ドレッシーにもカジュアルにも着こなしやすいラインが「EMERY ROSE(エメリーローズ)」です。ゆったり着られるプラスサイズのアイテムをそろえています。ボディを締め付けない、伸びやかな着心地のウエアはリラクシングな表情。こちらはチュニック形のおかげで、着用感は楽なのに、パンツとのコンビネーションが生きて、スッキリした着映えに。チュニック裾が広がっているから、全体がシャープに映る仕掛け。チュニックとパンツのセットアップで3000円を切るプライスはかなり魅力的です。身体のラインを拾わず、縦長に見せてくれる効果を発揮しています。

スポーツ系ウエアにも丁寧なディテール 技ありの「GLOWMODE(グロモード)」

「前後アシンメトリー」がきれいな落ち感を演出 (画像協力:SHEIN)
「前後アシンメトリー」がきれいな落ち感を演出 (画像協力:SHEIN)

夏に重宝する、速乾性や通気性を備えたスポーツ系ウエアも「シーイン」の得意とするところです。「GLOWMODE(グロモード)」ブランドはこういったアクティブなアイテムを用意しています。屋外レジャーやイベント、アウトドアなどに便利なうえ、普段のレイヤードにも使えそうなアイテムがたくさん。汗をかいて、洗濯に回すことも多くなるから、枚数が欲しいウエアが格安プライスで買えるのはありがたいものです。

スポーツ系ウエアであっても、凝ったディテールが施してあるので、ありきたりに見えません。たとえば、こちらのグリーンTシャツ(アンダー2000円)は正面から見るとシンプルなのに、背中側は裾から深くスリット状の肌見せ演出が取り入れられています。ストレッチが効いたスポーツ系ウエアですが、ロングスカートやワイドパンツと合わせて日常使いしてもおしゃれ見えするデザインです。

ランジェリーやルームウエアもおしゃれ感度が高い「Luvlette(ラブレッテ)」

花柄&植物プリントが華やかな気分に導いてくれそう (画像協力:SHEIN)
花柄&植物プリントが華やかな気分に導いてくれそう (画像協力:SHEIN)

「Luvlette(ラブレッテ)」はアンダーウエアやラウンジウエア、スリープウエアのブランド。部屋で過ごすプライベートな時間に寄り添ってくれます。3年に及ぶ「家ごもり」の暮らしは、おうちウエアの大切さをあらためて感じさせました。こちらの花柄&植物プリント柄のローブ(1000円台)は寝る前の時間を優雅な気分に導いてくれそう。同じ柄のキャミトップとパンツも用意されていて、トータルな装いに仕上げられます。全部そろえても3000円ちょっとというプライスにはびっくりです。

ペット服のカラバリも豊富な「PETSIN(ペッツイン)」

キュートなワンちゃんパーカはギフトでも喜ばれそう (画像協力:SHEIN)
キュートなワンちゃんパーカはギフトでも喜ばれそう (画像協力:SHEIN)

実は「シーイン」が用意しているのは、人間用の服だけではありません。「PETSIN(ペッツイン)」はペット服のブランド。しかも価格がサプライズな安さ。こちらのパーカは204円~という破格の設定。カラーバリエーションも10色以上が用意されています。ドレス、Tシャツ、セーター、ジャケットなど、服の種類も多彩で、お散歩タイムがいっそう楽しくなりそうです。

実店舗ゼロでもSNSで人気拡散 AIを活用してトレンド分析

福岡市の会場は来場者でにぎわいました (筆者撮影)
福岡市の会場は来場者でにぎわいました (筆者撮影)

福岡市のポップアップ会場で驚いたのは、ラインアップの幅広さ。アウターからアンダーウエアまで、身に着ける物をほぼ全方位でカバーしています。実際に会場で気に入ったアイテムを購入してみたところ、手順はスムーズで、数日後にはきちんと宅配便で商品を受け取れました。その後も定期的にメールマガジン風の通知でお買い得商品の案内が届くので、忙しい日々でもおしゃれマインドを適度に刺激してもらえます。

今回ご紹介したほかにも、メンズやキッズ、ベビー、マタニティなどのカテゴリーも幅広い品ぞろえ。インテリアもあります。アプリ・サイト上でずっと眺めていても見飽きないほどの商品量はけた違い。まだ「シーイン」に触れたことがない人でも、一度、のぞいてみる価値はあると思います。

最近では若手デザイナーのブランド立ち上げ支援プログラム「SHEIN X」を始動。世界中で深刻化する衣類廃棄問題にも向き合う姿勢を見せています。ファッションビジネスは大量生産・廃棄や労働環境、資源利用などの課題を抱えていて、様々な面での改善が望まれていますが、諸物価が上昇する中、好プライスでの選択肢に魅力を感じるところも。

なぜここまで安いのかという声も聞きますが、実店舗がないところはコストカットの面でメリットが大きいのではないかと思います。そういった意味でも今回のポップアップは貴重な機会でした。

リリースによると「AIを活用したトレンド分析」などの最先端テクノロジーにより、豊富なデザインの少量生産を実現(毎日平均6000点の新商品の発売、常時60万点以上の商品展開)と書かれています。売れ行きが期待できるアイテムを効率的に開発するうえで、AIが役立っているようです。

ここまで成長できた背景には、価格面の魅力に加え、SNSのパワーが大きかったとみえます。服の買い方が変わって、選択肢も増えてきたことの際立った例と言えるでしょう。一方で、アメリカのニュースでは、商標権や著作権などの訴訟が起きているとも報じられています。いろいろと気になるところがありながらも急成長を続ける「シーイン」の今後の動向には引き続き、注目していきたいと思います。

(関連サイト)

SHEIN

https://jp.shein.com/

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ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター

多彩なメディアでコレクショントレンド情報をはじめ、着こなし解説、スタイリング指南などを幅広く発信。複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスも経験。自らのテレビ通販ブランドもプロデュース。2014年から「毎日ファッション大賞」推薦委員を経て、22年から同選考委員に。著書に『おしゃれの近道』(学研パブリッシング)ほか。野菜好きが高じて野菜ソムリエ資格を取得。

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