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それでも大谷翔平には影響なし?!早くもオープン戦で顕著になった低反発球がもたらす効果

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
低反発になった新公式球の影響を感じさせない打撃を披露する大谷翔平選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【本塁打量産の期待がかかる大谷選手】

 今シーズンに二刀流の完全復活を目指している大谷翔平選手が、オープン戦で連日のように猛烈なアピールを続けている。

 特に打撃に関して破竹の快進撃を続け、現時点で打率.600を残している。これは、オープン戦で20打数以上を記録している全MLB選手の中で堂々の1位に立つほどの成績だ。

 長打力もここまで群を抜いており、OPS(長打率+出塁率)1.809も、20打数以上の打者の中でトップだ。

 チームリーダーのマイク・トラウト選手が米メディアのインタビューに応じ、今シーズンの大谷選手は「10勝以上&30本塁打以上」と大胆予想しているが、現在の打撃を見る限り、松井秀喜選手が2004年に記録した、日本人選手の年間最多本塁打31本を超える可能性も十分にありそうだ。

【確実に飛ばなくなっている新公式球】

 大谷選手の打撃が絶好調すぎてあまり意識されていないと思うが、本欄でも報告しているように、MLBは今シーズンからこれまでより低反発の新公式球を導入しており、その影響は早くもオープン戦で確認できるほどなのだ。

 スプリングトレーニングが始まった当初、米メディアから投手に対し新公式球に関する質問が出ることもあったが、触感などに大きな変化はないようで、違和感を抱く選手はほとんどいなかった。

 だが実際に実戦で使用されるようになると、明らかに新公式球の影響で飛距離は落ちているのだ。

 MLB公式サイトに掲載されている3月18日現在のオープン戦成績をチェックしてみると、ここまで510試合のオープン戦が実施され、計544本の本塁打が記録されている。1試合平均の本塁打率は1.067となる。

 一方、MLBの年間最多本塁打数6776本が記録された2019年のオープン戦成績を見てみると、940試合で計1141本の本塁打が記録されており、1試合平均の本塁打率は1.214だった。明らかに本塁打率が下がっているのだ。

【シーズン中はさらに本塁打率が下がる可能性も】

 ちなみに今年の1.067という本塁打率は、シーズン別で見てみると、2015年シーズンの1.01の次に低いもので、いわゆる選手の間から“飛ぶボール”疑惑が起きる前の水準に匹敵するものだ(2016年以降は常に1.15以上を上回っている)。

 ただ2019年を見る限り、シーズン中の本塁打率は1.39とオープン戦を上回っており、今年もシーズンに入って上回る可能性を否定できない。

 だが、もう1つ忘れてはならないことがある。

 今年は低反発球の導入だけでなく、これまでロッキーズやダイヤモンドバックス、マリナーズ、メッツ、レッドソックスの5チームが導入していたボールの湿度を一定に保つ保湿保存庫を、今年から新たに5チームが採用することになっている。

 この保湿保存庫は導入当初から、ロッキーズなど高地や乾燥地域を本拠地とするチームには、本塁打数を抑制する効果があると指摘され続けており、導入チームが増えることで、むしろシーズンに入ってさらに本塁打率が下がる可能性すらあるのだ。

【マドン監督が予測するプレースタイルの変化】

 実はエンジェルスのジョー・マドン監督は、スプリングトレーニング開始当初から、新公式球の導入で今後のプレースタイルが変化するだろうと予測している。

 マドン監督によれば、本塁打が減少することで、ここ最近潮流になっている“フライボール革命”が見直され、ゴロを打つ重要性が再認識されるとともに、得点を生み出すための走塁などスモールベースボールが再び脚光を浴びるようになるだろうと予測している。

 つまり1980年代の古き良きベースボールが復活するとし、マドン監督は新公式球の導入を歓迎している。

 現時点ではあくまでオープン戦での比較でしかない。シーズンに入っても同様の傾向が維持されるのかまで、誰も知る術もない。だが新公式球が従来の公式球と違っているのは確かであり、マドン監督が指摘するように、何らかの変化が生じることになりそうな気がする。

 果たして打撃絶好調の大谷選手の打撃にも何らかの影響を及ぼすことになるのか。それも踏まえた上で、大谷選手には松井選手の記録更新に期待したいところだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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