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今季からの低反発球導入でやはりヤンキースは田中将大と再契約すべきだった?!

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
低反発球の導入で田中将大投手の投球は間違いなく安定していた?(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【田中投手を失っても評価が高いヤンキース】

 キャンプがスタートして以来、沖縄、宮崎から様々なキャンプ情報が届く中、やはり8年ぶりに楽天に復帰した田中将大投手が話題の中心になっているように思う。今の賑わいを見る限り、まだまだ世の中を盛り上げてくれそうだ。

 一方田中投手を失ったヤンキースだが、今も優勝候補の一角に名を連ねているようだ。つい先日『the Score』が発表したワールドシリーズ制覇のオッズによると、連覇を狙うドジャースに次ぐ評価を受けている。

 今オフは新型コロナウイルスの影響で収入源の確保が見通せないため、大幅なコスト削減を断行したヤンキースだったが、それでも現在のチーム戦力はMLB屈指だと判断されているからだろう。

【今シーズンから導入予定の低反発球】

 そんな中、すでに日本でも報じられているように、MLBは今シーズンから新たに低反発球を導入することになったようだ。

 この件に関しては、あくまでMLBから各チームに送付された内部文書を入手した米メディアが報じたもので、MLBが正式発表したものではない。だがニュースが世に出てからMLBは否定する声明を発表していないので、事実ということで間違いないだろう。

 これまでMLBでは、2017年シーズンから選手の間でボールが飛ぶようになったと度々指摘され始めていたのは、聞き及んでいるだろう。実際データ上のその傾向が顕著で、ステロイド時代を上回る本塁打率を記録していた。特に2019年に関しては、史上最多のシーズン本塁打数(6776本)を記録している。

 こうした疑惑に対し、MLB側はずっと否定してきた。しかし今回の内部文書によれば、MLBは2019年シーズン終了後に調査委員会を組織した結果、反発係数が高くなっていたのを確認しているようだ。

 そのためMLBはそれを公に発表することはせず、内部文書で今シーズンから反発係数を下げたボールの導入を知らせ、内々で処理しようとしていたというわけだ。これに対し、デビッド・プライス投手が皮肉めいたツイートを投稿するなど波紋を広げている。

【今シーズンは確実に本塁打減少傾向に】

 新たに導入されるボールは、ボール内の3種のウール製糸の巻きを少し緩め、反発係数を0.01~0.02抑えるとともに、ボール自体の重さも2.8グラム減らしているという。

 また新ボールを試験した結果、375フィート(約114メートル)以上飛んだボールの飛距離は、従来のボールよりも1~2フィート(0.3~0.6メートル)短くなっていることが判明している。

 またこれまでロッキーズ、ダイヤモンドバックス、マリナーズ、メッツ、レッドソックスの5チームが採用していたボールの湿度を一定に保つ保湿保存庫を、今シーズンから新たに5チームが導入することになっており、今シーズンは確実に本塁打数が減少傾向に向かうことになりそうだ。

【本塁打による失点率がかなり高かった田中投手】

 それを踏まえた上で考えてみたいのが、田中投手の投球データだ。実は田中投手のMLB7年間の総失点に占める本塁打による失点率を見てみると、今オフ田中投手に代わりヤンキースが獲得したコーリー・クルバー投手、ジェイムソン・タイオン投手と比較して、かなり高いことが分かるのだ。

 下記の表を見てほしい(資料元:『BASEBALL REFERENCE.COM』)。田中投手の場合、総失点476点のうち本塁打による失点が234点で、その失点率は49.2%になる。同様のかたちで2投手の失点率をみると、クルバー投手が30.3%、タイオン投手が35.6%になる。

(筆者作成)
(筆者作成)

 つまり本塁打数が減少する傾向になれば、クルバー投手、タイオン投手以上に、田中投手の方がより効果的に失点を抑えることができることになる。

【ヤンキースタジアムで顕著だった田中投手の傾向】

 もう1つ面白いデータを紹介しよう。田中投手の本塁打による失点率は、本拠地のヤンキースタジアムでさらに高まっている。

 それは本拠地球場と敵地球場のデータを比較するだけで、単純に把握できる。まず被本塁打数は、ヤンキースタジアムで83本許しているに対し、敵地球場では7本少ない76本に留まっている。

 だがこれを失点でみると、ヤンキースタジアムが223点に対し、敵地球場は253点と、逆転現象が起こっているのだ。また被打率をみても、ヤンキースタジアムでは.236に対し、敵地球場では.253と明らかな差があることからも、ヤンキースタジアムで投げる田中投手は、本塁打を許しながらも、できるだけ失点を抑える効果的な投球をしていたことが理解できる。

 そこに低反発球が導入され本塁打数が減少傾向に向かえば、より投球に安定感を増すことが期待できたはずだ。

【田中投手の被本塁打数の多さは球場が影響】

 視点を変えて3投手の被本塁打数を比較すると、田中投手159本、クルバー投手132本、タイオン投手48本で、田中投手が最も多くの本塁打を許している。

 ただこの数字は各選手のMLB在籍日数によって変化するものなので、単純比較するのは妥当ではない。そこで162試合平均で考えてみると、田中投手31本、クルバー投手22本、タイオン投手20本で、やはり田中投手がトップになってしまう。

 だがここには、あるトリックが存在している。各球場の本塁打ファクターだ。ヤンキースタジアムは毎シーズンMLB上位にランクされる「本塁打が量産される球場」に対し、クルバー投手がキャリアのほとんどを過ごしたクリーブランドの球場と、タイオン投手が在籍していたパイレーツの本拠地球場は、本塁打ファクターが基本的にMLB平均以下で、「本塁打が打ちにくい球場」なのだ。

 例えばクルバー投手が最後に故障なくシーズンを投げ切った2018年でみてみると、ヤンキースタジアムが1.166でMLB6位にランクし、クリーブランドの本拠地球場が1.019で同14位、パイレーツの本拠地球場は0.849で同26位になっている(資料元:ESPN)。

 この球場による差を考えれば、クルバー投手とタイオン投手がヤンキースタジアムを本拠地にして、これまで通りの被本塁打ペースを維持できるかは定かではない。実際クルバー投手はヤンキースタジアムで4試合の登板経験があり、3本の本塁打を喫している。

 すでに楽天のユニフォームを着ている田中投手に何を言っても仕方がないことだが、新たな低反発球で、彼の投球がどう変化するのかを見てみたかった思いは捨てきれない。いやむしろ、ヤンキースのブライアン・キャッシュマンGMが、そう感じているのかもしれない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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