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皮膚のためのサプリメント、本当に安全? 最新の研究から見えてきた課題とは

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

【スキンケアサプリメントの表示と広告に潜む問題点】

近年、美容や健康づくりのために、サプリメントを利用する人が増えています。中でも人気なのが、皮膚や髪、爪の健康をサポートすると謳う「スキン、ヘア、ネイル」サプリメントです。しかし、これらのサプリメントの表示や広告には、消費者が見落としがちな問題点が潜んでいます。

米国の研究チームが、小売店で販売されている176種類ものスキン、ヘア、ネイルサプリメントを調査したところ、多くの課題が浮き彫りになりました。

まず目に付いたのが、栄養成分表示の古さです。半数以上の製品が、なんと50年以上前の基準に基づいて1日の推奨摂取量(DV)を表示していたのです。現在はDVの設定が改定されているため、古い基準では適切な量を把握できません。

用量の記載方法にも、分かりにくさがありました。「1日1~2回、1さじずつ」といった幅のある記載では、正確な摂取量が分かりません。複数のサプリメント成分表を掲載していて、DVが矛盾している製品もありました。

品質面でも不安が残ります。第三者機関による品質テストを受けている製品は、わずか3.4%。残りの96.6%は、品質が保証されていないのが現状なのです。

広告表現の大半は、科学的根拠に乏しいものばかりでした。「若々しい肌を促す」「シワに作用」など、効果をうたう文言が目立ちました。こうした広告をうのみにして購入すると、期待外れに終わる恐れがあります。

皮膚疾患がある場合は特に注意が必要です。例えばアトピー性皮膚炎の人が、有効性や安全性が確認されていないサプリメントを使用すれば、症状が悪化するリスクもあります。サプリメントを検討している皮膚疾患患者は、必ず皮膚科医に相談することをおすすめします。

【果たしてサプリメントは皮膚の健康に必要?】

そもそも、皮膚の健康維持にサプリメントは本当に必要なのでしょうか。今回の調査で最も多く使われていたビタミンはビオチン(57%)、ミネラルは亜鉛(28%)でした。しかし、皮膚科領域におけるこれらの成分の効果を示す証拠は限られているのが実情です。

たとえばビオチンは、欠乏すると脱毛などの症状が現れることが知られています。しかし健康な人が、予防目的でビオチンサプリメントを飲んでも、効果は期待できないでしょう。日本人の食事摂取基準でも、ビオチンの推奨量は示されていません。通常の食事から十分な量を摂るのが望ましいとされています。

また、今回の調査では、69%の製品がグルテンフリーをうたっていました。しかしグルテンは、皮膚への悪影響が明確に示されているわけではありません。小麦アレルギーなどの特別な事情がなければ、グルテンを避ける必要はないでしょう。

さらに、皮膚の健康には、サプリメント以上に生活習慣が大きく影響します。バランスの取れた食事、適度な運動、質の良い睡眠など、基本的な習慣を整えることが何より大切です。その上で、不足しがちな栄養素を補うためにサプリメントを使うのが賢明な利用法だと言えます。

【サプリメントを選ぶときのポイントと注意点】

どうしてもサプリメントを利用したいという人は、以下のポイントに気をつけましょう。

・第三者機関の品質テストをクリアした製品を選ぶ

・1日の目安量を守り、過剰摂取は控える

・国民生活センターや消費者庁のサイトで、健康被害情報をチェックする

・特定の疾患への効果を謳うものは決して選ばない

アトピー性皮膚炎など、皮膚疾患がある人は特に慎重になる必要があります。症状を悪化させるリスクがあるため、医師に相談せずサプリメントを使ってはいけません。処方薬との飲み合わせで問題が起こる可能性もあります。

サプリメントはあくまで食事を補助するものだということです。錠剤やカプセルから栄養を取るのは、自然な形とは言えません。日頃の食事でしっかりと栄養を取り、生活習慣を整えることが健康な肌への近道。その点を理解した上で、本当に必要なサプリメントだけを選ぶようにしましょう。

参考文献:

1. Perez-Sanchez AC, et al. Cureus. 2020, 12(12): e12062.

2. Therapy Lett. 2019 Sep;24(5):7-13.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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