トヨタ自動車が“最高につまらない”3大会ぶり5回目の優勝【第43回社会人野球日本選手権大会総括】
第43回社会人野球日本選手権大会は、京セラドーム大阪で11月12日に決勝が行なわれ、日本生命を3対1で下したトヨタ自動車が3大会ぶり5回目の優勝を果たした。都市対抗では、昨夏に18回目の出場で悲願の日本一を初めて手にしたが、日本選手権は2007年に初優勝すると、08、10、14年にも頂点に立っており、最近10大会(2011年は東日本大震災の影響で大会が中止)のうち5回を制したことになる。
今夏の都市対抗には連覇をかけて臨んだが、一回戦からタイブレークとなる延長12回を戦うなど苦戦し、二回戦でNTT東日本に逆転負け。絶対的エース・佐竹功年のコンディションが「いい時が10ならば今は1」というほど優れず、打線もあと1本が出ずに悔しさを噛み締めた。それでも強豪であることに変わりはなく、日本選手権ではどう逆襲するのかと見ていたが、その先頭に立つと思われた佐竹をほとんど使わずに勝ち抜く戦いぶりには驚かされた。
二枚の左腕とヒットメーカーを軸に厳しいゾーンを勝ち抜く
しかも、一回戦が5月の北海道・東北大会を制した日本製紙石巻、二回戦が4月の静岡大会の覇者・東京ガス、準々決勝が都市対抗4強の東芝、準決勝が都市対抗王者のNTT東日本と、厳しいゾーンを勝ち上がり、決勝は2015年に都市対抗と日本選手権を連覇した名門・日本生命。今季の社会人野球を代表するチームを連破したのも特筆すべきだろう。
投手陣の中心となったのは4年目の小出智彦、20歳の富山凌雅と二枚の左腕だ。入社直後に左ヒジを手術した小出は、熾烈な競争の中でなかなか頭角を現せなかった。今夏の都市対抗では二回戦に先発するも、3回途中で降板。この大会も3度の先発で、いずれも5回あたりにピンチを招いたものの相手にリードを許すことはなく、来季以降に希望が持てる内容だった。
また、桑原大輔監督が春先から「成長が楽しみ」と語っていた富山は、全国初登板となった二回戦で6回途中まで2失点と合格点の投球を見せると、準決勝ではNTT東日本を相手に8回3安打で無失点という快投。「ちょっと活躍するとすぐ調子に乗る」と桑原監督は苦笑するが、日本代表スタッフからも高い評価を得るなど、ドラフト指名が解禁となる来季に耳目を集めそうだ。
5試合でチーム打率.327、ここ一番で勝負強さを発揮した打線では、最高殊勲選手賞を手にした多木裕史が存在感を見せつけた。「中軸を任せられる多木を七番に置くことで、打線の厚みが増し、下位でも得点できる」と、桑原監督も全幅の信頼を寄せるヒットメーカーは、その期待に応えて.563の高打率をマークし、昨年の都市対抗に続く首位打者賞にも輝く。
都市対抗、日本選手権とも首位打者賞を獲得したのは史上3人目だが、両大会とも優勝したのは多木が初めて。まさに勝利を呼び込む活躍だった。
自身の野球観よりチームの成果を追求
昨年の都市対抗優勝時もそうだったが、桑原監督は「厳しい競争で力をつけてくれる選手たちが頼もしい」と言う。そう仕向けているのは監督では、と問うと、「いや、優秀なコーチたちの力量ですよ」とかわされる。時に辛抱強く、時に大胆な采配で桑原監督の高い手腕は証明されているが、そのベースになる考え方をはじめ、手の内はなかなか明かしてくれない。
ただ、トヨタ自動車が所属する東海地区を長く見ている監督経験者はこう語る。
「トヨタ自動車は、3~4年スパンで監督が交代する。チーム力は着実に右肩上がりだが、監督の変わり目に野球が多少変わるため、選手が戸惑ってしまい、都市対抗では予選から苦戦するという印象だった。しかし、桑原監督は、1年目に前監督のやり方を引き継いで戦ったことが都市対抗優勝につながった。そういう意味で、自分の野球観よりチームとしての最高の成果を追求できる名指揮官だ」
途方もない数字だと見られていた住友金属の日本選手権7回優勝も、瞬く間に射程距離にとらえたトヨタ自動車。かつて、プロの世界では森 祇晶監督の西武、落合博満監督の中日が黄金時代を築き、勝ち続けているのに「つまらない野球」と評された。だが、常勝という偉大なるマンネリに近づくためには、コツコツと堅実に“つまらない野球”を実践するしかない。トヨタ自動車の野球も、そんな“つまらない”領域に入ってきたのではないだろうか。