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映画『ケイコ 目を澄ませて』が毎日映画コンクール5冠に続き、キネマ旬報ベスト・テンでも4冠受賞!

篠田博之月刊『創』編集長
C:映画『ケイコ 目を澄ませて』製作委員会/COMME DES CINEMAS

 映画『ケイコ 目を澄ませて』が異例の大ヒットを記録している。監督は三宅唱さん、主演は岸井ゆきのさんだが、海外の映画祭で高い評価を受け、公開前から話題になっていた。

撮影賞や録音賞など技術に対しても賞を授与

 2023年2月1日に表彰式が行われた第96回(2022年)キネマ旬報ベスト・テンでは、日本映画作品賞、主演女優賞、助演男優賞、読者選出日本映画監督賞の4冠に輝いた。

 その前、1月18日に発表された第77回毎日映画コンクールでは、日本映画大賞のほかに監督賞、女優主演賞それに撮影賞、録音賞と5冠を達成した。

 チーフプロデューサーの福嶋更一郎さん(メ~テレ)がこう語る。

「撮影賞や録音賞など技術に対して賞を授与されることは大変喜ばしいことです。やはりこの映画は総合力であれだけの完成度を得た、そのことが証明されたといえます。海外の映画祭にもこの映画は20以上招待されましたが、それも異例といってよいと思います」

テアトル新宿だけで観客が1万人を超えた

 2022年12月16日に全国38館で公開されたが、その後、2023年1月下旬に累計70館以上と公開館数も倍増した。特にテアトル新宿、渋谷ユーロスペースなど都市部では、平日も客の入りが良く、テアトル新宿だけで1月下旬時点で集客が1万人を超えているという。都市部の単館系のファンとこの映画がマッチしたということだろう。

 福嶋プロデューサーがヒットの背景をこう語る。

「この映画は劇伴と言われる背景の音楽で感情を盛り上げるといったことをせずに、流れるのは生活音だけです。それで観る人を引き付けるという技量というか、作品の完成度が高い。それと主演の岸井ゆきのさんの演技の素晴らしさですね。三宅唱監督と岸井さんのこの映画に込めた思いに共感されている方が多いようです」

 岸井さんも舞台挨拶などに何度も登壇してきたが、三宅監督は宮崎県、富山県、2月4日には茨城県などと全国の映画館を飛び回って観客に語りかける活動を続けている。こうした監督や主演俳優の熱い思いが多くの人に伝わっているのかもしれない。

聴覚障害とボクシングがテーマ

 この映画は聴覚障害の女性元プロボクサー小笠原恵子さんをモデルにしたもので、創出版刊『負けないで!』が原案となっている。

2022年12月6日、テアトル新宿でのトーク(筆者撮影)
2022年12月6日、テアトル新宿でのトーク(筆者撮影)

 この写真は2022年12月6日、映画公開に先立ってテアトル新宿で行われた特別上映会でのもので、右端は聴覚障害の元プロボクサー小笠原恵子さん。その日彼女は手話通訳を通じて映画を観た感想を「昔の自分を思い出して涙が出ました」と語った。

 熱量を込めて映画にかけた思いを語ったのは右から2人目の岸井ゆきのさんで、「ケイコは私だし、私がケイコだと、ケイコの目線でものを見ていました」。主人公と自分が一体になっていたという。ボクシングと聴覚障害という2つの役作りに挑戦した彼女の取り組みには、映画を観た多くの人が驚嘆し感動した。

 テアトル新宿から始まって大ヒットに至った映画としては『この世界の片隅に』が知られているが、そのレベルのヒットになるかは、今後の地方などへの上映拡大にかかっていると言える。都市部のヒットや映画賞受賞を受けて地方での上映が今後広がる可能性もある。

テアトル新宿の入り口付近の写真。右が『創』の記事(筆者撮影)
テアトル新宿の入り口付近の写真。右が『創』の記事(筆者撮影)

公開まで3年以上の映画製作

 私の編集した『負けないで!』が原案であるため、この映画製作には3年以上、関わってきた。三宅監督を始め、映画のスタッフの方々を小笠原さんに引き合わせたり、撮影現場を見学させていただいたりしてきた。コロナ禍もあって製作過程が長期化したのだと思うが、その長い過程を経て映画が公開され、高い評価を得ていることは本当に喜ばしい。

 映画を通じてボクシングや聴覚障害について、ぜひ多くの人が考えるきっかけになってほしいと思う。

『負けないで!』著者の小笠原恵子さん
『負けないで!』著者の小笠原恵子さん

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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