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「少しでも人に影響を」。NTTドコモの世界一戦士、マカゾレ・マピンピが語る。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
身長181センチ、体重90キロの30歳。ウイングを主戦場とする(写真:ロイター/アフロ)

 南アフリカ代表として2019年のワールドカップ日本大会で優勝したマカゾレ・マピンピは、今季、国内トップリーグのNTTドコモに新加入している。

 一時は外国人枠の関係で出番が限られたが、「いままでも試合に出られない経験はありました。我慢強くやればいい」と落ち着いていた。結局、3試合に出場して2トライを挙げている。

 チームはトップリーグ参戦以降、下位に甘んじていたが、今季は開幕3連勝を飾る。第6節まで4勝2敗と好調を保つ。

 マピンピが即席の単独取材へ応じたのは4月5日、大阪府内での練習後だった。

 以下、単独取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

――ここまでのトップリーグを振り返って。

「試合が少ない分、それをひとつひとつ大事にしています。多くを学んでいます。日本では練習の仕方、いる選手も自国とは違う。日本のラグビーは速い。ただ、その速さはスーパ―ラグビーとは質が違います。スーパーラグビーでは、少しでも防御の強度を失えば大差で負けることがある感じ。一方、日本ではパスの速さがある。日本代表と対戦する際も、分析の段階で『相手は素早く展開してくるから対策しなければ』と言っていたのを思い出します(日本大会の準々決勝で対戦)」

――アジア枠、特別枠にあたらない外国人の同時出場は2人までとされています。そのためシーズン序盤、世界一になったマピンピ選手も試合のメンバーを外れることもありました。その現実はどう受け止めていましたか。

「いままでも試合に出られない経験はありました。待っていれば出番が回ること、日々の練習から向上心を持って取り組み、我慢強くやればいいことはわかっていました。あまり深くは考えず、パニックにもなりませんでした」

 1990年生まれのマピンピは遅咲きで知られる。キングスの一員としてスーパーラグビーデビューを果たしたのが26歳で、初の代表戦を経験した2018年6月2日には27歳だった。

 東ケープ州のムダンツェンという町で生まれた。貧しさや困難と無縁ではなく、トップアスリートに躍り出るための機会もかなり限定的だった。そのタフな人生は、南アフリカ代表の密着ドキュメンタリー『Chasing the Sun』で広く知られる。

 南アフリカ代表は大一番で、家族の写真を背番号に印刷することがある。ところがマピンピの「11」には自らの写真しか映っていなかった。

『ラグビーマガジン 2021年1月号』の「解体新書」でのインタビューに、かような記述がある。2段落目のカギカッコは本人の発言だ。

 自分が有名になるにつれ、思い出したくないようなプライベートなことも露わになる。そのことについて「うんざりしませんか?」と問えば、「そんなことはない」と言った。

「こういったことが報道によって多くの人にシェアされる。むしろ、ありがたいと思っています。私だけのストーリーではないのです。南アフリカには、同じような状況にある子どもたちが数え切れないほどいる。そんな子どもたちが、自分も私のようになれたらいいとか、希望を見出してくれるきっかけになれば」

 改めて語る。

「若い時から――ずっとそう思っていたわけでもありませんが――この状況を抜け出したいと思い、そうできる自信があった。そして、実際に抜け出せた。プロになってからは(当時の自身と)同じような若い人の支え、モチベーションになればと思い、このストーリーはいくらでもシェアしようと思って話しています」

――自身の影響力の大きさを感じることはありますか。

「自分の影響力については気にしていないというか、わからないというのが正直なところです。この立場になったことで、道をそれず、正直に、誠実に行動した結果、僕のストーリーで少しでも人に影響を与えられれば…そう思って動いてはいますが」

 稀代のメッセンジャーであり稀代のランナーであるマピンピ。いま列島に提出しているのは、自信を持って才能を磨き、己の立場を塗り替えてきた生き様である。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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