【ロシアW杯現地レポート】決勝T前の”箸休め小話”。今大会から導入、“厳格で親切な”FAN ID。
さあ、熱戦の続くW杯もグループリーグを終え、今晩から決勝トーナメントに入る。昨日は試合がなかったから、ゆっくり休んだというファンも多いのではないか。
この時間に、”箸休め”的な小話を。
現地観戦の必須アイテム「FAN ID」について。今回の大会から導入された新しいシステムだ。
決勝トーナメントから”フラッとロシアに行ってみるか?”と思われている方もいるかもしれない。いずれに場合もスタジアム観戦を望むのなら「FAN ID」の入手は必須だ。
イングランド代表サポータクラブのHPにはこんな説明がなされている。
”FAN IDの目的は、大会期間中のビザ無しでのロシア入国許可にある。また現地での試合観戦の際には有効な入場券とともに提示を求められる”
実際にはスタジアムで2度、バーコードによるチェックがあった。
ただし、”ロシアに行く前に持っていないから、観戦不可能”と諦めることはない。日本でビザを取得してロシアに入国し、スタジアム近くの「FAN IDセンター」でも発行してもらえる。
筆者は昨年秋くらいにオンラインで申請し、2週間後くらいに郵送でIDカードを受け取った。「ずいぶんと面倒だな」と思ったが、大会期間中はこれに助けられることも多かった。
FAN ID登録ミスで空港で足止め状態に……
こうして入手したFAN IDに関して、現地でふたつほど情けない失敗をした。個人的な体験談ではあるが、FAN IDの性質を知る機会にもなった。
6月17日のロシア入国時。モスクワのジェコーフスキー空港で審査官にパスポートを渡す。一通り目を通された後、女性の審査官に言われた。
「FAN ID」
ビザを取得していないと確認されるや、提出を求められるのだ。つまりこれはビザ代わり。じつはこれだけでも煩雑さが免除されたことを知る。大会前であればオンライン申請からの郵送で受け取れた。これがなければ、都内在住ならロシア大使館に出向き、ビザ取得のための長蛇の列を作って待つ「半日仕事」を余儀なくされていたのだ。
もちろん、審査官に提出した。
しかしここで何度も何度も筆者のFAN IDを確認された。そして彼女は別の部屋にいる上司まで呼んで、さらに確認が続けた。
やがて筆者のパスポートとFAN IDを手にした上司が出てきて、「別室前のベンチで待つよう」に言われた。
足止め状態だ。聞くと、「FAN ID裏のパスポート番号が一箇所間違っていた」と。こちらのミスだろうとは想像がついた。筆者はたまたま日本でパスポートを切り替えたばかりだった。これをオンライン申請の際にミスタイプしたのだ……。
待っている間、お先は真っ暗。日本で友人に「応援頼むぞ」「羨ましい」と言われて見送られたのに……まさかの入国不可かと。
10分後、パスポートにデータの修正を示す追加資料(小さな紙)が挟まれ、入国成功。審査官の女性に英語「Sorry」と言われた。こちらからは”I am"をゆっくり大きく強調して、Sorryと続けた。こっちのほうが悪いだろうと。厳格ではあったが、非常に親切な面もあるロシアのファーストインプレッションだった。
数分後、スマホのメールアプリに受信の通知があった。組織委員会から即時に、修正されたFAN IDのデータが送られていた。いざとなったらこれを見せるといいです、あるいはFAN IDセンターに行って、これで再発行を。そんな知らせだった。かなり迅速な対応に驚いた。
スウェーデンー韓国戦前に紛失してしまい……
もうひとつのミスは6月17日のスウェーデン―韓国戦の試合前に……なんとFAN IDを紛失してしまった。スタジアム近くを行進するスウェーデンサポーターを動画撮影しようと、FAN IDを首にかけたまま、階段の手すり部分を上り下りした。その際に落とした。これに気づかず移動してしまったのだ。
慌てて、たまたま近くにあったFAN IDセンターに駆け込んだ。ここでもお先真っ暗だ。スタジアムを目の前にして、まさか試合を観られないという事態になろうとは……
FAN IDセンターでは、まずは日本の銀行窓口のような”番号票”を引いた。1分ほどで自分の順番が来た。
窓口でパスポートを出し、英語で「紛失した」という趣旨を伝える。さらに焦りに焦っていたので、モスクワの空港を出た直後に受け取った「更新データ」のメールをスマホで見せる。
しかし、相手の女性はあっさりしたもので「それは要らないです」と。そして「前のものは停止しておきます」。
5分後、指定された別の窓口で再発行したものをあっさり受け取った。もう一度、「前のIDカードは停止した」との主旨を丁寧に伝えられた。
厳格なだけではなく、非常に親切丁寧に管理がなされている。図らずも失敗からこれを知ることができた。
スタジアム外でも各国サポーターがぶら下げていた
IDカードの裏側に小さくパスポート番号が記されているから、”スタジアム内外での犯罪防止”の効果も見いだせる。そのほか、これをぶら下げていれば試合日の公共交通機関が無料になる。開催都市に行く長距離移動の電車も要予約で無料だ。長距離移動の方は、大会開幕前にかなり席は埋まっていたという印象だが。
大会前にもっとも気になっていた、登録することにより”ガチガチに管理されている”負担はまったく感じなかった。
もちろん、個人情報が管理されているという点は忘れてはならない。いっぽうで他の国のサポーターも皆ぶら下げているから、”大会に参加している”という一体感も感じられた。加えて、大会後は観戦のよい記念品にもなりそうだ。
厳格で、煩雑でもあったが、現地では親切。そんなFAN ID。将来的にはスタジアムの”フィンテック化”へとつながっていくのだろうか。チケット、スタジアム内の決済、観戦ポイント加算などが全て電子化されていくという流れの第一歩、とも感じられた。
<写真、動画ともにすべて筆者撮影>
欄外にて ”ロシアの印象”
筆者自身、今回のW杯で初めてロシアという国を訪れた。完全にこの地に魅了された。
まずは東西の文化が交わる魅力。町並みを眺めているだけでも、西欧とは違う美しさを感じる。ロシア正教やオリエンタル文化の影響なのだろう。
いっぽうで所々にソ連時代を思わせる建築物や乗り物を目にする。2018年の現在、もう決して行くことができない場所にタイムスリップした感覚。これらの要素が和音となりこちらに響き渡ってくる。そんな感覚だ。
もちろん、旅には困難も伴う。なにせキリル文字の看板がほとんどで、地下鉄に乗るのも一苦労だ。アルファベット圏のように「話せず、聞けずとも文字は読める」ということが通じない。
開催都市間の長距離移動もかなりスリリング。多くは寝台特急を利用して街から街へと移る。試合後に深夜に電車を待つ場合など、寝ずに駅周辺で時間を潰す方法に一苦労だ。深夜4時に出発、などというのもザラ。寝過ごしたら次の旅程を諦めなければならない。そんな恐怖も味わう。
まあ、少しの英語を話すならフラッと訪れるのもアリだ。「荷物を最小限にして」、「現地のファストファッションで気候に合わせて服を買う」といった試みは可能だ。日中は30度を超え、夜はひんやりする。日本のファストファッションチェーンも展開されているからフラッと飛び込めばいい。価格は日本と大きくは変わらない。
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