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森保ジャパンにまとわりつく「アジアは甘くない」と「ノビシロ」という言葉の呪い

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

 森保一監督率いるサッカー日本代表だが、最近は低調な戦いを続けている。

 昨年9月の欧州遠征でドイツ、トルコに連勝を飾ったのをピークに、下降線の一途を辿る。今年1月のアジアカップは欧州からベストメンバーを招集し、優勝が至上命題だったが、ベスト8という結果だけでなく内容も惨敗に等しかった。先日の2026年W杯アジア2次予選、北朝鮮戦は1−0で勝利するも、間延びした戦いで、格下相手に希望すら与えていた。

 森保ジャパンの現在地とは?

「アジアは甘くない」の真意

「アジアは甘くない」

 森保監督は言う。

 確かに、アジアで戦うのは簡単ではない。何しろ移動距離からして広大で、中東、中央アジア、東南アジア、東アジア、それにオーストラリアまで入ってくる。それらはアジアと一つに括るには無理がある。適応は簡単ではなく、日本は強豪として対策される立場で、大番狂わせも起こりやすい。決して侮るべきではないだろう。

 しかしアジアのプレーレベルは、お世辞にも「高い」とは言えない。

 指揮官は慎重を期して、欧州からベストメンバーを毎回呼び戻しているのだろうが、采配の創意工夫で勝利できないものか?

 2026年W杯アジア2次予選、日本はミャンマー、シリア、北朝鮮と同組になっているが、どこもいわゆる独裁国家で政情不安は著しく、国際大会を戦う水準にない。ろくに強化もできず、スポーツは国威発揚にのみ使われる。選手一人一人は全力を尽くしているが、実力に驚きはない(北朝鮮戦のアウエーゲームは一方的な理由で開催が中止に。没収試合での不戦勝はふさわしい)。

 にもかかわらず、森保ジャパンはアジアレベルに拘泥しつつある。

 先日は北朝鮮を相手に、開始早々に先制にも成功したが、その後は攻め急ぎが目立ち、決定力を低下させている。「縦に速く」の一辺倒で相手に攻撃を読まれてしまい、速さの追求から精度が低くなった。

 一方、守備は脆さを感じさせている。単純なロングボールをセンターバック2人が処理できず、こぼれ球を打ち込まれ、そのこぼれをミドルでネットを揺らされたが、ファウルで取り消しに。失点は免れたが、相手の実力に“お付き合い”したレベルの低さだった。

アジアの現実

 アジアカップも含め、アジアはアジアの域を出ない。

 例えば、今や多くの日本人選手がプレーしている欧州のヨーロッパリーグ、チャンピオンズリーグのベスト16程度のゲームと比べると、雲泥の差がある。一人一人のプレースキル、集団としてのコンビネーション、プレーモデルの運用度。そこに試合中の適応力の高さまで加わる。

 アジアは、欧州や南米の各国代表に置き去りにされつつある。欧州はイタリアがカタールW杯出場を逃すなど競争は熾烈を極め、南米も同様に拮抗。アフリカもモロッコ、コートジボワールなどが、確実に戦力を高めている。

 先日は、日本U23代表がアフリカのマリU23代表と試合しているが、明らかに劣勢だった。手足が伸びてくるリーチの差、爆発的な瞬発力、五分五分のボールを持っていくパワー。戦える、という部分で「世界」を見せつけられていた。

「アジアは甘くない」

 その題目で現状を肯定するのは危うい。

 森保ジャパンは、アジア用のBチームに近い編成も考えるべきかもしれない。アジアカップでセレッソ大阪の毎熊が好プレーを見せたように、Jリーガーは高い士気で挑めるし、移動の負担も少ないだろう。それはJリーグなど、欧州以外のMLSでプレーしている選手にも門戸を開くことになる。

 新たなフェーズに入るべきだ。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/08ba9281e54c3eb26f3309b6189e9b456f6fe7dd

「ノビシロ」の正体とは?

 森保ジャパンには、もう一つ気になるフレーズがある。

「ノビシロ」

 それはポテンシャルと置き換えてもいい。所属クラブでの実績や実力ではなく、将来性を重んじ、選手を選び、起用する傾向である。とりわけ、GKは顕著だ。

 北朝鮮戦、先発した鈴木彩艶はそつなくプレーしていたが、特別なセービングがあったわけではない。そもそも、アジアカップで戦犯と言えるパフォーマンスをしたGKが、なぜゴールマウスを守れるのか? やや不可解である。

 鈴木は今シーズン、移籍したベルギー、シントトロイデンで定位置をつかんでいる。しかし、あくまでプロ初のレギュラー。依然として波の激しいプレーで、少なくとも1シーズンを戦い切るのを待つべきだった。

「いつか世界的なGKになる投資」

 そんな声もあるが、その間、日本サッカーは1人のGKの成長を“先物買い”しないといけないのか。最悪、その間に成長が見込めるGKのチャンスを奪い取ることになる。すでに一つの国際大会のタイトルを逃しているのだ。

 たとえ日本を代表するGKになるにしても、それはクラブでのパフォーマンスの継続によって与えられるべきだろう。正当な競争を放棄すべきではない。

 そもそも、ノビシロとは不透明な言い回しである。GKは30歳を過ぎてから、成熟する場合も少なくない。それも、試合を積み重ねることで得られる。ノビシロなど、プロの世界では幻想である。与えられた出場機会で、競争力の高い選手は生まれない。むしろ、選手を追い込むだけだ。

 カタールW杯、森保ジャパンは結果を出した。選手はさらに欧州に渡り、力をつけつつある。しかし「W杯ベスト8」を本気で狙うなら、チームとしての戦い方を改善するべきだろう。端的に言えば、ボールを持つ時間をより長くし、能動的なプレーをどこまで増やせるか。アジアでの戦いに付き合っているようでは飛躍を望めないし、「ノビシロ」はチームに不平等を生むだけだ。

 甘くないアジアで勝つには、むしろ現時点でベストのGKを招集すべきだった。言葉はいつでも呪いになる。森保ジャパンは、常に「世界」と向き合って戦う必要があるはずだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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