宮脇咲良「キムチを食べて美肌に」は本当なのか? 専門家とガチ分析してみた
8月も半ばを過ぎた。
暑い。都内ではひと夏の猛暑日の日数が新記録を更新中だそうで。雨が鎮めてくれると思ったら極端に降るし。
体力的に落ちるこの時期、ひとつ食べ物の話を。
キムチについてだ。
筆者自身、日々の執筆活動のなかでどうしても気になってきた発言がある。
「美肌の秘訣は韓国のキムチ」
元AKB48メンバーで、現在はK-POPグループルセラフィムの一員として活動する宮脇咲良によるものだ。
2021年9月24日、集英社「MAQUIA」に掲載されたインタビューより。
これが日本の韓流メディアなどにも紹介され、ちょっとした話題となった。
筆者自身、2020年のIZ*ONEでの活動後期から宮脇咲良を丹念に追っているが、「んなわけないだろ」と思ってきた。「韓国に行ったら辛いもん多くて、胃腸が大変」というイメージも持ってきたからだ。40代後半の筆者など、韓国出張のたびに辛いもの→甘いものが食べたくなる→食後にカフェラテのパターンでだいたい体調を崩す。辛いもの&カフェイン&エアコンで崩壊。キムチ食べて美肌、など想像もつかない。
そこで専門家に話を聞いてみた。
咲良のいう「肌荒れ改善」とは…
「ありえます。キムチを食べて美肌、という話は」
そう言うのは、日本美腸協会EXE(エクゼクティブ)認定講師の須本愛子先生。
同協会は「腸活」という言葉が流行るはるか前の2012年から活動するが、須本先生はそこに4人しかいないEXE認定講師だ。山口県を中心に企業の効率アップセミナーと腸活を組み合わせる斬新な手法で知られ、これまでの「生徒」は2000人を超える。2021年にはその活動ぶりを認められ、同協会からBest Promoter Award受賞を授与された。
そんなスゴい先生によると、宮脇咲良のこの話、じつは日本で2018年あたりからブームが始まった「腸活」につながっている可能性が高いという。
「宮脇咲良さんは本場韓国でキムチを食べられて感じられた体の変化を『代謝があがる』『むくみにくくなる』『お通じの改善』『肌荒れの改善』とおっしゃっています。じつはこれら、ずばり"腸内環境が良くなった時の変化"と一致します」
「腸活」とは、「第2の脳」ともいえるほど体調やメンタルに影響を与える腸に対して、主に食べ物を考えながらここをキレイにしようという考え方のことだ。
"韓国のキムチ"がポイント
とはいえ、宮脇咲良本人は一言も「腸活」という言葉を使っていない。でも「腸活」?
そんなことがあるんだろうか。
「"韓国のキムチ"とおっしゃっている点がポイントです」
そう言う須本先生。こうも続ける。
「日本のキムチ(一部)と韓国のキムチは違うんです」。
確かに韓国でも「KIMCHI(韓国)とKIM"U"CHI(日本)は違う」という冗談がある。ただこれ、日本語が母音で終わる音が多いことを面白くいう話のように思っていたが…。
「日本で流通しているキムチ」について、李錦東氏(鹿児島大学大学院)、白武義治氏(佐賀大学)がこう定義している。
これらはAとそれ以外のふたつに分かれる。
発酵の強さが違う。ここが分類のポイントだ。
韓国のキムチは基本的に「発酵させて作るもの」。日本のキムチは味が変わらないように発酵を止めているものも多い。
では発酵によって何が起きるのか。
「乳酸菌が生まれます。宮脇さんは日々乳酸菌を摂取することにより、腸内が善玉菌の優位な環境になっていったものと思われます。腸内環境が変化し、改善されたと言えるでしょう」
韓国のキムチは「たくさんの乳酸菌を含むこと」のほかに以下の腸活的利点があるという。
*野菜(白菜や大根など)と共に食べることで、食物繊維や野菜の酵素も摂れる。
*カプサイシンが血流をよくしたり、腸の動きを活性化する。
ただキムチを食べるだけでは…
ただし、ここで重要なことが3つある。須本先生が続ける。
「継続的に食べることです。宮脇さんは韓国でキムチを3食毎日食べている、とおっしゃっていますよね。これが重要です。日本の腸活でもその点をお伝えしています。早い方だと2〜3日、2週間くらいで効果を感じる方が多いです」
量は小皿一皿程度で十分。特に夕食で食べると、睡眠中に善玉菌が働くようになって効果的だという。
ただ、もちろん食べ過ぎは良くない。
「刺激物は適度に摂ると、胃腸の動きを活性化してくれますが、過剰に摂ると腸が過剰に動きすぎてお腹の調子を崩すと言われています。あとは、胃や腸の粘膜に炎症が起きている時にとると、よくないですね。口内炎の時に刺激物は避けるのと同じ感覚です」
須本先生は、テレビで「激辛大食い対決」を観ると、「きゃー腸内環境大乱れ」と思うという。
もうひとつ重要なのが、"ただ乳酸菌を摂取することではない"こと。
「善玉菌が嫌がることをしないということです。悪いものをなるべく入れず、排出することが大切です。例えば食品添加物、精製された砂糖や小麦粉、酸化した油などです」
宮脇咲良が「善玉菌が嫌がること」の摂取に気をつけていたかどうか…は定かではない。
ただし須本先生は、本人が「韓国に戻ってキムチを食べて体調が良くなった」ということは、「日本時代からアイドルとしての経験も長く、甘いものなどの節制ができていたのでは」と予想する。
須本先生が自身の講義活動で提唱する腸活ステップ
①善玉菌が嫌がるものを入れない
食品添加物、精製された砂糖や小麦粉、酸化した油など
②老廃物を出す
水+食物繊維が必要
③善玉菌を増やす
発酵食品+菌のえさ(オリゴ糖や食物繊維)
先生は、宮脇咲良が結果的に上記条件を経たことで、以下のステップが発し、「美肌効果が生まれた」のではないか、と見ている。
①小腸が正常に機能し、必要な栄養素をきちんと取り入れることができるようになった。
②それによって全身の細胞に質の良い血液を届けることができた。
③大腸が正常に機能し、体にとって害のあるものを外に出せた。
「社食」から普段の食事ぶりを探る
では、宮脇咲良がキムチ以外に何を食べているのか。これを決定的に断定する情報はない。彼女が一日に何を食べたのか、すべてを知ることは不可能だ(知りたいけど)。
ただしヒントはある。
HYBEの著名な社内食堂だ。
韓国の大手芸能事務所では「社員激安」「アーティスト&練習生は無料」で食事を摂れるゴージャスな社内食堂に関してちょっとした"競争"がある。
最初に火をつけたのがYG。社長自ら料理が得意な女性を4人スカウトし、社内にゴージャスな食堂を作った。2020年9月に新社屋に移って以降、さらに健康に気を遣うメニューが増えている。
その後、2018年にJYPが新社屋に有機野菜を使った食堂を設置した。J.Y.PARKはこれを2019年にメディアに公開。ビュッフェスタイルの食堂を「念願だった」と言い、年間20億ウォン(2億円)をかけ社員やアーティスト、練習生の腹を満たしている。
そして宮脇咲良が所属するHYBEは…2021年4月にソウル市龍山に新社屋に移った際に社内食堂を大幅にグレードアップ。「まるでレストラン」と思わせるゴージャスさで知られる。
宮脇咲良は一年のうち一定時期はここで継続的に食事を摂る時間があると思われる。
韓国メディア「NEWS ADE」によると、一般的にK-POPアイドルは新作制作時、もっともシンプルな「デジタルシングル」でも「発売の3~4週間前からレコーディングとダンスレッスン時期に入る」。
最近は大手事務所だと年4回、つまり3ヶ月に一度のサイクルでアルバムを出すから、年間でざっくりと4ヶ月は社屋内に「籠もる」とも予想ができる。
その時期に、およそこういったものを食べているのだ。HYBEの公式インスタで紹介された社食のメニュー写真を基に、須本先生に話を聞いた。
「若者向け強気メニュー」も
THEハイカロリー食という感じですね~。たくさん体を動かす若者向けという印象です。カレーはルーだと小麦粉や油で腸内環境を悪くしますが、スパイスから作るカレーなら腸活にも合うものになります。野菜が入っているのがいいですね。後ろの揚げ物をちょっと控えめにすれば、腸活的にもまあまあよいメニューといれるでしょう。
ビビンパですね。野菜たっぷりなのが何より素敵です。食物繊維は老廃物を排出すのに必要なものなので。小皿にキムチと海藻のようなものが見えるのもすごくいいと思います。写真に写っていないだけかもしれませんが、ここに温かいスープがあるといいですね。最初に飲んで腸を温めてあげると、消化がスムーズになります。
腸活的にも100点満点に近いです! 豚肉の茹でるという調理法が腸にはすごく優しいですし、豆腐などの大豆製品は善玉菌の好きなオリゴ糖が含まれます。野菜も多い。キムチはもちろん、真ん中のテンジャン(ミソ)も発酵食品です。善玉菌がすごく増える食事です。
ちなみに他社では…
という話を進めていくなかで…ついでにJYPの社内食堂の食事写真を見てもらった。
そうしていくうちに…先生による「腸活ポイント」が高い点が明らかになっていった。
ごはんが雑穀米のようですね。これは食物繊維が多く含まれているようでとてもいいです~ 野菜も多いし、手前のキムチで乳酸菌補填もバッチリ。JYPの社内食堂はビュッフェ式のようですが、このメニューと取り方はとてもバランスがいいです。できれば温かいスープも一緒に!
これも腸活的に100点に近い食事です! キムチにテンジャン、発酵食品があるし野菜も多い。ごはんも雑穀米です。温かいスープもあります。スープにもキムチが入っているようですが、じつはキムチは温めると乳酸菌が死んでしまいます…しかし、それでも腸活的には意味があります。死んだ乳酸菌は、腸内細菌のエサになるんです。そうすると善玉菌の働きが活発になる。とてもよいことですね!。
先生、あの…つまりは「韓国料理自体が、腸活的にポイント高い」ってことですか?
「ズバリ、そうです。韓国料理の伝統的な考えに『五味五色』の考え方は、腸活にとても通じるなと感じます」
五味五色とは、紀元前300年頃の現在の中国で生まれた「陰陽五行思想」に基づくもので、宇宙のすべてを陰陽と5つの元素(水・金・土・火・木)に分けられると考えたもの。朝鮮半島や日本にも広まり、朝鮮半島の食の分野では「五色がそろった料理こそが美しく、美味しいもの」と考えられている。
結局、五色揃えることで食材が多くなり、これによって「摂取できる栄養素も増える」ということだ。西洋化された食事は食材の数も少ない。だから「栄養が偏る」といった話になってしまう。
「腸活」「美腸活」、韓国では…
最後に、須本先生は言う。
「腸活の観点からも韓国料理がスポットライトを浴びないか。そんなことを思うんですよ」
自身の日本での講演活動のなかで、多くの「腸活仲間」が生まれた。そのなかで、すでに「(日本で!)キムチを漬ける活動」がちょっとした流行りなのだという。
そしてキムチのみならず、同じ発酵食品のテンジャン(味噌)を野菜につけたり、巻いたりする食べ方も腸活ポイントが高い。
いっぽう、韓国では…日本発の「腸活」という言葉はあまり紹介されていない。
最近では日本でちょっとトレンドになっている言葉があると、韓国でも必ずと言っていいほど紹介されるのだが。
コロナ時代の「3密」は「サンミル」という言葉でもはやニュース用語になった。女性の髪型「姫カット」もそのまま「ヒメカット」という言葉で若い世代に通じる韓国語として溶け込んでいる。
しかし「腸活」「美腸活」という言葉は見かけない。
もちろん韓国でも「腸内環境改善」「乳酸菌を摂ろう」といったことは言われている。後者に至っては、乳酸菌のサプリが2021年の大手ドラッグストア「オリーブヤング」のサプリ部門売上1位に入っている。
体に悪いものを排出しつつ、乳酸菌を摂って腸内の善玉菌を増やす。栄養をしっかり腸から摂取し、血流が良くなることで健康に、そして美しくなる――。
その図式が知られていないわけではない。ただ韓国では「そんなことは言われなくても出来ている」という認識なのか。
今後、もし韓国に「腸活」という言葉が知られることがあれば、また次のトレンドが生まれるか。はたまたそれは日本から生まれていくのか。
「腸活×韓国料理」
両国のトレンドやいいところが入り混じり、両国で知られていく。ありうるんじゃないか。「姫カット」以外にも「ギャルピース」の事例がある。韓国ではわざと日本語っぽく母音を多く入れる発音のこの言葉、2021年12月以降流行り、いまや写真を撮るときの定番ポーズだ。
(了)
須本愛子(すもとあいこ) 山口県出身。
日本に4人しかいない日本美腸協会EXE(エクゼクティブ)認定講師。2021年に同協会によるBest Promoter Award受賞。
39歳の時に甲状腺癌を患い、体調を崩したことをきっかけに健康の根本について深く考える。腸活への関心のはじまりはTV番組で「あまりにはっきりと効果が出ていたから」。2020年には山口県にて腸を専門とする「株式会社Buchiii.」を設立。美腸活青汁の開発やセミナー活動に取り組む。同県を中心に企業の効率アップセミナーと腸活を組み合わせる斬新な手法で知られ、これまでの「生徒」は2000人を超える。予防医療をもっと身近で楽しいイメージにし、ひとりひとりが自分の人生を健康と共にデザインできる社会作りをめざす。