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香港国際空港閉鎖による影響は乗り継ぎ客にも。ハブ空港機能も大打撃

鳥海高太朗航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師
香港国際空港の閉鎖は、乗り継ぎ客にも大きな影響が出ている(写真:ロイター/アフロ)

 香港の玄関口である香港国際空港。鉄道やバスなどを使い、陸路で中国やマカオへも繋がってはいるが、香港を訪れる外国人のほとんどが飛行機でやってくる。香港は、アジアにおいてはシンガポールに次いで金融をはじめとしたグローバル企業が多く進出しているほか、グルメを楽しむ観光客も沢山訪れている。まさにリピーターが多い場所でもある。

 今回の一連の抗議行動(デモ)においては、当初は香港市内中心部でのデモ活動が中心だったが、この週末からは香港国際空港でも行われ、チェックインカウンターや保安検査場入口前が封鎖されたことにより、8月12日の夕方から深夜、また昨日13日の夕方以降の便の多くが欠航となった。今後も、デモの状況によっては再度運航見合わせになる可能性もあるなど、しばらくは予断が許さない状況だ。

香港国際空港の出発フロア(2018年筆者撮影、以下同じ)
香港国際空港の出発フロア(2018年筆者撮影、以下同じ)

乗り継ぎ利用も多い香港。便数が豊富で深夜便も多い

 香港国際空港の閉鎖は、香港を訪れる人だけでなく、香港で乗り換える乗り継ぎ客にも多くの影響が出ている。香港はキャセイパシフィック航空の本拠地であるが、香港からは東南アジア路線だけでなく、ヨーロッパ、オセアニア、北米、東アジアなどへの便も数多く運航されており、特に東南アジア各都市から欧米へ向かう際のハブ空港にもなっている。筆者がマレーシアのクアラルンプールで取材した際にも、マレーシアからアメリカへ向かう場合において、最も便利なのが香港経由のキャセイパシフィック航空という声を多く聞いた。

 また近年、香港から中国本土各都市へキャセイパシフィック航空及び系列のキャセイドラゴン航空が就航しており、昆明や成都、西安など中国の西側のエリアから香港乗り継ぎで欧米へ向かうケースも増加しているほか、日本を訪れる際にも香港経由で来日する訪日旅行者も多い。このような形で香港を最終目的地としない利用者が相当するいることで、今回の騒動に拍車をかけている。

 日本人においては、エミレーツ航空(ドバイ乗り換え)、カタール航空(ドーハ乗り換え)、エティハド航空(アブダビ乗り換え)など中東系航空会社の台頭により、以前に比べると香港経由でのヨーロッパ行きの利用は少なくなっているが、それでも割安な運賃が設定されていることに加えて、中東経由に比べてヨーロッパまでの飛行時間が4~5時間短いことや深夜に香港を出発するヨーロッパ行きの便が多いことで夕方に日本を出発すると翌朝にはヨーロッパに到着できることから、今でもキャセイパシフィック航空の香港乗り継ぎでヨーロッパへ向かう利用者も多い。また東南アジア行きでも、日本から直行便が出ていない場所へ向かう場合や乗り継ぎ時間を意図的に長くして香港に立ち寄ってグルメやショッピングを楽しみたい時などに香港経由の航空券を購入するケースもある。

日本行きの便も香港からの利用者だけでなく、東南アジアや中国からの利用者も多い
日本行きの便も香港からの利用者だけでなく、東南アジアや中国からの利用者も多い

ストレスフリーな乗り継ぎ地がストレスフルになってしまった

 乗り継ぎ利用者の多くは、単純に航空券が安かったり、スケジュール的にベストであるから香港乗り換えの航空券を購入しており、「デモは続いているが、空港が閉鎖されることはないだろう」と考えていた人がほとんだ。またデモが起きる前に航空券を購入したケースも多い。また今回、乗り継ぎ地の香港には到着できたが、香港から先の便が欠航で身動きが取れないといったケースも多発している。

 乗り継ぎの場合は、極端な話、無理をして香港で乗り換える必要はない。東南アジア各都市からアメリカへ向かうのであれば東京やソウル、ヨーロッパへ向かうのであればシンガポールやバンコク、中東各都市で乗り換える方法もある。香港国際空港は、世界のハブ空港の中でも乗り継ぎに便利な空港だ。乗り継ぎ(トランジット)もスムーズで、飛行機の遅れも少なく、乗り継ぎ時間が長くてもカフェやフードコート、ラウンジなどの施設も充実しているほか、時間があれば一旦入国して香港市内中心部に出ることも可能であるなど、乗り継ぎ地の中でも比較的ストレスフリーな空港だからこそ、乗り継ぎ地としての評価が高い。ストレスフリーで欠航・遅延リスクが少ないからキャセイパシフィック航空の香港乗り継ぎが好きという利用者も多いなか、今回のケースで香港が落ち着くまでは違う都市での乗り継ぎを検討する人が増える可能性が高いだろう。

空港施設も充実している香港国際空港
空港施設も充実している香港国際空港

過去にもバンコクで空港閉鎖で大混乱

 過去にタイ・バンコクのスワンナプーム国際空港でデモによって空港が閉鎖され、郊外の代替空港(ウタパオ空港)を使用したケースもある。この際もバンコクを訪れている人だけでなく、乗り継ぎ便利用者にも大きな影響が出た。

 逆に政情不安があったトルコのイスタンブールでは、街中に出ることに対しての不安によって、トルコを訪れる観光客が一時的に減少したが、イスタンブールを拠点とするターキッシュ エアラインズは東京を含むアジア各都市からイスタンブール乗り換えのヨーロッパ行きのお得な航空券を出しており、中東経由よりもフライト時間が短いことで利用する観光客も多い。昔から空港施設は充実していたが、イスタンブール空港が新空港に移ったことで更に施設が充実したことで乗り継ぎが快適になり、空港内の不安はないということでリピーターを中心にイスタンブールで乗り換える利用者も多い。

 そういった意味でも、今回のように空港閉鎖に追い込まれることは、ビジネス・観光に与えるダメージがより大きくなることを痛感させられた。通常運航に戻っても、信頼を回復するまでには少し時間がかかりそうだ。

航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師

航空会社のマーケティング戦略を主研究に、LCC(格安航空会社)のビジネスモデルの研究や各航空会社の最新動向の取材を続け、経済誌やトレンド雑誌などでの執筆に加え、テレビ・ラジオなどでニュース解説を行う。2016年12月に飛行機ニュースサイト「ひこ旅」を立ち上げた。近著「コロナ後のエアライン」を2021年4月12日に発売。その他に「天草エアラインの奇跡」(集英社)、「エアラインの攻防」(宝島社)などの著書がある。

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